第152話 戦争ごっこは外でやって下さい(犯人:リベル)
第三章 世界樹の国と元勇者(152)
(アマレパークス編)
152.戦争ごっこは外でやって下さい(犯人:リベル)
小屋の中に戻ると、リビングルームはカオス状態だった。
椅子やテーブルやソファがひっくり返され、あちこちに固まって置かれている。
そしてその後ろに、従魔たちが隠れている。
君たち、いったい何してるのかな?
よく見てみると、隠れているのはタコさん、ウサくん、スラちゃん、ディーくんの4人。
コンちゃん、ハニちゃん、ラクちゃん、リーたんの姿は見当たらない。
何が起こっているのか分からず、とりあえず隠れている4人に声をかけようとしたところで、幼い女の子の声がリビングに響いた。
「総員、突撃〜!」
総員?
突撃?
その叫び声と共に、青い服を着た幼女が滑り棒(2階から降りるやつ)を文字通り滑り降りてきた。
さらにそれに続いてハニちゃんが滑り棒用の穴から飛び出し、毒針を隠れている従魔たちに向かって連射する。
続いてラクちゃんが滑り棒の途中に止まり、投網のように編まれた糸を投げる。
最後にコンちゃんがリビングの床に着地すると、障害物となっている倒れた家具類に両手の蔓を伸ばして除去しようとしている。
一方でリビングにいた従魔たちはこの総攻撃を全力で防御している。
ディーくんが剣を構えて、ハニちゃんの毒針を弾き、ラクちゃんの投網を叩き切る。
ウサくんは、影潜りで瞬時にコンちゃんの背後に回り、体当たりで弾き飛ばす。
スラちゃんは体の周囲に薄い膜のようなものを張り(結界?)、攻撃を寄せ付けない。
タコさんは・・・・・ひたすら逃げ回っている。
時々クルクル回ってるので、余裕はあるみたいだけど。
何だこれ?
内輪揉め?
内紛?
しばらく唖然として様子を見ていた僕は、正気を取り戻して大声で叫んだ。
「全員ストップ! 僕の前に並んで!」
思わず召喚を発動すると、従魔たちは全員光の粒子となって一度消え、僕の前に横並びで現れた。
リビングの中央にリーたんだけが取り残されて、キョトンとした顔をしている。
「はい、全員そこに正座!」
従魔たちは気まずそうに、それぞれの体勢で大人しく蹲った。
ディーくんとコンちゃんだけは正しく正座の態勢だ。
従魔7人が並んでいる横にリーたんが恐る恐るやってきて、彼女も正しく正座した。
「いったい何をしてるのかな? ディーくん、説明!」
そう言うと、ディーくんは正座したままで僕の質問に答えた。
「あるじ〜。遊んでただけだよ〜。」
「何の遊びなのかな?」
「ええっと〜、戦争ごっこ、かな〜。」
戦争ごっこ?
誰がそんなこと教えたの?
自分たちで考えたの?
「誰にそんな遊びを教わったのかな?」
「ええっと〜、それは内緒かな〜。」
ディーくんはそう答えたけど、他の従魔たちの視線はみんな同じ方向を見ている。
その視線を追ってみると、その先にはリベルさんがいた。
この「元勇者」は、そっぽを向いて口笛を吹くふりをしてる。
全然音が出てないけどね。
「リベルさん、どういうことでしょうか?」
「えっ、ボク? さあ、どういうことかなぁ。分からないなぁ。」
この「ダメ勇者」は、あくまでもシラを切るつもりのようだ。
僕は一語一語に力を込めてもう一度尋ねる。
「リベルさん、どういう、ことで、しょうか?」
「・・・・そういえば、昨日コンちゃんとワインを飲みながら、そんな話をしたような気がしないこともないような気がしないでもないような・・・」
はい、元凶はリベルさんで決定。
この「はらぺこ勇者」、何をしてくれちゃってるんですか。
ルルさんとジャコモさんとシルフィさんも残念なものを見るような目でリベルさんを見ている。
でもここでリベルさんを責めても、たぶんのらりくらりと言い訳するだけだろう。
元々悪気もないんだろうし。
僕は一つ溜息をついてから並んで正座している8人に向かって宣言した。
「ルールを追加します。屋内での戦争ごっこは禁止。遊びたければ庭か島でして下さい。分かりましたか?」
「あるじ〜、ごめんね〜。これからは外でするね〜。」
ディーくんがみんなを代表してそう答えた。
まあ従魔たちも暴れ足りないのかもしれないし、他人に迷惑をかけないなら「戦争ごっこ」も許可しよう。
「ところでウィン殿、その青い服のお嬢ちゃんはどなたかのう?」
黙って成り行きを見守っていたジャコモさんがそう尋ねてきた。
そうだった。
戦争ごっこのせいでリーたんの紹介がまだだった。
人化してる状態だと、海竜には見えないからな。
角とか尻尾とか、何か竜人的な特徴があれば予想もつくけど、リーたん、人化すると普通の幼女だからね。
「みんな、もう正座はやめていいよ。リーたん、こっちに来てもらえる?」
そう言うと、従魔たちは立ち上がり、家具類を元の位置に戻すために動き出した。
リーたんは、ちょっとバツが悪そうな表情で僕の隣まで歩いてきた。
「皆さんに紹介します。こちらが海竜のリバイアタンです。」
「リバイアタンです。よろしくお願いします。」
リーたんが幼女(幼体)にしてはとても丁寧な言葉で自己紹介をした。
リーたん、引きこもりだった割には、対人対応はきちんとできるんだね。
感心、感心、よくできました。
そんな保護者的な感慨に僕が浸っていると、他の4人から予想外の反応が返ってきた。
「ウィン、そんな趣味があるなら、まず私に言うべきだろう。」
「ウィン殿、その女性は少し、若すぎると思うんじゃがのう。」
「ウィン様、何を愛でるかは人それぞれでございますが、犯罪の範疇は避けられた方が・・・。」
「リバイアタン、よろしくね。今度一緒に戦争ごっこしようか。」
いつもおかしな反応しかしないリベルさんが、一番まともな反応?
いや、戦争ごっことか言ってる時点で、まったく反省してねぇな、この「うっかり勇者」。
そんなことより、まずこの変な誤解を解かないとね。
「違う違う。この女の子、海竜だから。人化してるだけだから。」
僕は誤解を解くためにそう説明した。
しかし、その説明では不十分だったようだ。
「ウィン、誤魔化すにしても、もっとまともな理由を考えろ。」
「ウィン殿、商人の話術としても、それはちと稚拙じゃのう。」
「ウィン様、竜種は人化いたしませんし、人間の言葉も話しません。」
「リバイアタン、人化できるんだね。凄いねぇ。」
ええっ?
海竜って人化しないの?
言葉も話さないの?
「でも竜は人の言葉を話すって聞いた記憶が・・・」
「ウィン様、それは伝説の龍のことではないでしょうか。龍と竜種は異なりますので。」
「そうなの? でも鑑定で確認したけど、『人化』と『言語』がスキルの中に・・・そうだ、シルフィさん、リーたんに鑑定をかけてみて下さい。」
そうだよね。
シルフィさんが鑑定で確認すれば問題解決じゃないか。
これで誤解も解けるはず。
そう思ったけど、なぜかシルフィさんは難色を示した。
「ウィン様、わたくしは魔物鑑定はできますが、人物鑑定はできません。」
「いや、リーたん、魔物だから。」
「ウィン様、こんないたいけな女の子に向かって、魔物などと・・・」
「いや、そうじゃなくて・・・」
リーたん、海竜だから魔物だよね。
だから魔物鑑定で大丈夫なんですけど。
なんか話がややこしくなってきたな。
「フォフォフォ、ウィン殿、そこまで言われるならわしが鑑定をかけさせてもらおうかのう。」
シルフィさんとの押し問答を見兼ねたのか、ジャコモさんが参加してきた。
でも、人化してるリーたんって、人物鑑定で鑑定できるのかな?
その辺のルールはよく分からないんだよな。
そんなことを考えていると、
「ウィンって、バカなの?」
いきなりリーたんにディスられた。
なぜここでバカ認定?
そう思って隣にいるリーたんを見ると、
「みなさん改めて、海竜のリバイアタンです。よろしくね。」
リーたんはそう言って頭を下げた。
そして一瞬で、青くてスベスベした肌の海竜の姿に変化した。
そうだった。
人化、解いてもらえば良かったんだよね。
なぜそれを最初に思いつかなかったかな。
これはもう、バカ認定されても仕方ないかも。
もちろん他の4人・・いや3人は呆然と海竜姿のリーたんを見つめていた。
リベルさんだけは、「わーい」って喜んでるけど。
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