第151話 従魔を愛する海エルフ(SIDE:シルフィ)

第三章 世界樹の国と元勇者(151)

   (アマレパークス編)



151.従魔を愛する海エルフ②(SIDE:シルフィ)



従魔をこよなく愛する海エルフのシルフィです。

テイマーギルドのギルド長じゃないのかって?

もうそんなこと、恥ずかしくて名乗ることができません。

私の目の前でテイマーの新しい扉が開かれてしまいましたので、もう私は、一介の初心者テイマーのようなものです。


その後、最終的には7人すべての従魔たちが、ウィン様と普通に意思疎通していることが判明し、私はもう驚く事をやめました。

いちいち驚いていてはこの身が持ちません。

でもやっぱり、次々に信じられないことが起こるのですが・・・。


従魔の皆様とウィン様がどこで出逢われたのか。

そのことを尋ねるとなぜか商業ギルドの裏庭に行くことになりました。

ジャコモ様はこの展開に納得されているようですが、私には訳がわかりません。

でもとにかくついて行く以外に選択肢はありませんでした。


商業ギルドの裏庭に到着するとウィン様が何かを詠唱されました。

すると何ということでしょう。

一瞬で小さな建物が目の前に現れたのです。


私は思わずウィン様に何が起こったのかを尋ねてしまいました。

ウィン様は、これは特殊なスキルで中は『異空間』になっていると教えて下さいましたが、『異空間』って何でしょう?

ジャコモ様が、別の世界みたいなものだと補足して下さいましたが、別の世界って軽く言われてもどう理解すればいいのか・・・。


そして扉を潜ると・・・そこは普通に建物の中でした。


だけど部屋の広さがおかしい。

従魔たちが当たり前のようにダイニングテーブルの椅子に座っているのがおかしい。

従魔たちが食べている食材がおかしい。

水槽の中に海系の魔物が飼育されているのがおかしい。

そして・・・この状況でいきなりソファに寝転がって眠ってしまう元勇者もおかしい。


私は幼い頃に読んだお伽話を思い出しました。

私はいつの間にか妖精にさらわれて、お伽話の世界に連れてこられたのでしょうか?


しばらく部屋の中を観察をした後、従魔の皆様の出身地である島に行くことになりました。

でもここからどうやって島に行くのでしょう?


ウィン様は先ほど入ってきた扉の方に向かわれます。

一旦、外に出て何らかの方法で島へ移動するのかもしれません。

そう思って見ていると、扉が開かれ、その向こうに浜辺と海が見えました。

商業ギルドの裏庭がいつの間にか島の浜辺になっていました。


この扉には転移魔法が付与されているのでしょうか?

ジャコモ様がウィン様に尋ねると、小屋を建てた場所にならどこにでも行けるとのこと。

そして転移魔法の方がどこにでも行けるので便利だとおっしゃられました。


ここで一つ言わせて頂きたいことがございます。

ウィン様は稀代のテイマーだと思っていましたが、偉大な魔術師でもあるようです。

この小屋を出すスキル、小屋の中で見た氷魔法、さらに転移魔法も使えるなど、普通の魔術師には到底無理です。


さらに普通のことのようにウィン様は転移魔法ならどこにでも行けるとおっしゃいましたが、それは私たちの常識とは異なります。

転移魔法には、魔術師の才能、魔力量、経験値等によって様々な制限がございます。

距離制限、回数制限、触媒の必要性、目的地の安全確保等です。

ウィン様の言い様からはこれらの制限の存在が感じられませんでした。


テイマー兼魔術師という方は他にもいらっしゃいますが、稀代のテイマーで偉大な魔術師となると・・・

まあ深く考えるのはやめましょう。


本当は島の詳細な調査をしたかったのですが今回は断念しました。

星3つの魔物が100体以上いる森の中へ無防備に一人で入る勇気は私にはありません。

リベル様はなぜかいきなり海に飛び込まれ、その後、海の魔物たちに追いかけられていましたが・・・。

『光衣』を発動されていたので、本気で逃げていたのだと思います。



ウィン様のご提案で遅めの夕食を取ることになりました。

私たちは一度小屋の中に戻り、ウィン様の段取りでまた別の場所に移動しました。

どうやらコロンバールの東にある葡萄農園のようです。

アマレから謎の島、そしてコロンバールと信じられない展開です。

ジャコモさんがなにやら思案深げな顔をしてますが、あれは絶対に商売への利用方法を考えていますね。


ワイナリーに併設されたレストランに入ると、親切そうなご夫婦が出迎えてくれました。

従魔の皆様もとても懐かれてるご様子。

こんな時間から食事をお願いするなど申し訳ないと思っていると、なぜかあっという間にたくさんの人が集まり、大宴会になってしまいました。


誰もが席を自由自在に移動し始めたので、私も席を移動してお目当ての子熊の従魔のところに向かいました。

確か名前は「ディーくん」だったかと。


「お隣、よろしいでしょうか?」

「いいよ〜。ディーくんだよ〜。」

「ありがとうございます。私はシルフィと申します。」


私はディーくんの隣に座り、緊張しつつも対話に挑戦することにしました。

従魔とこのように親しく話せるなど、私にとっては夢のような出来事です。


「ディーくん様、お好きなものは、何でしょうか?」

「ディーくん様じゃないよ〜。ディーくんだよ〜。好きなものはいっぱいあるけど、大好きなのはあるじだよ〜。」


ああ、従魔と会話が成り立っています。

感動です。

涙が浮かんできました。

緊張のあまり、質問が初デート時の女子のようになってしまいましたが、問題ありません。

でもやっぱりウィン様のことが大好きなんですね。

私も自分の従魔からそんな風に言われてみたい。

切実にそう思います。


「ディーくん、いつからウィン様の従魔をされてるんですか?」

「前の世界からだよ〜。」

「前の世界?」

「そうだよ〜。前の世界で戦って引き分けてからだよ〜。」

「前の世界とは何でしょうか?」

「前の世界は前の世界だよ〜。」


前の世界とは、どういうことでしょうか?

前世のことでしょうか?

テイマーと従魔が一緒に輪廻転生することなど、あるのでしょうか?

私が考え込んでいると、ディーくんが会話を続けました。


「それからディーくんは従魔じゃないよ〜。」


えっ?

従魔じゃない?

もしかして召喚獣なのでしょうか?

これは結構重要なポイントです。

もう従魔登録してしまいましたが。


「ディーくん、従魔じゃないということは召喚獣ですか?」

「違うよ〜。家族かな〜。仲間かな〜。とにかく従魔じゃないよ〜。召喚獣でもないよ〜。」


何ということでしょう。

家族!

仲間!

もう涙をこらえることができません。

「能面の目にも涙」状態です。


「ルルちゃ〜ん。この人、泣いてるよ〜。泣き上戸なのかな〜。」


ディーくんの呼びかけに、ルル様が隣に来て下さいました。

それでも溢れる涙を止めることができません。

もっと会話を続けたかったのですが、この時はもうこれ以上は無理でした。



翌日、『碧の海の異変』が起こり、そこでウィン様の実力を目の当たりにするのですが、もう驚くことはありませんでした。

ウィン様なら当然です。

そして私は決めました。

これからはウィン様のことを「師匠」と呼びます。

もちろん、心の中でだけですが。



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