第150話 従魔を愛する海エルフ①(SIDE:シルフィ)

第三章 世界樹の国と元勇者(150)

   (アマレパークス編)



150.従魔を愛する海エルフ①(SIDE:シルフィ)



私(わたくし)はテイマーギルド・アマレ本部のギルド長を務めさせて頂いておりますシルフィと申します。

種族は海エルフで、ドルフィン系とラッコ系の従魔を持つ現役のテイマーでもあります。


テイマーギルドは、冒険者ギルドや商人ギルドと比べると規模の小さなギルドです。

なぜなら、テイマーという職業が特殊で技能を高めることが極めて難しいため、どうしても絶対数が少なくなってしまうからです。


普通の国では、テイマーの素質があっても他の職種を選ぶ者も珍しくありません。

ただこの国、エルフ族が建国したアマレパークスだけは状況がかなり異なります。


エルフ族は「自然と共に生きる」という種族特性のせいか、テイマーとしての素質を持った者が多く、従魔を持つことに憧れてテイマーを目指す者がたくさんいます。

海エルフは海系の魔物を、山エルフは山系の魔物を、そして森エルフは森系の魔物をそれぞれ従魔としています。

テイマーギルドの役割も他の国よりも重要で、私の細い肩にもかなりの重圧がかかっているのです。


私は子供の頃から従魔というものに深い興味を持っておりました。

テイマーとしての能力にも恵まれていたおかげで幼くして2体の従魔を得ることができました。

テイマーは普通、一人につき1体の従魔を従えます。

2体従えるには、かなりの才能と努力が必要となります。

3体となるともはや伝説級で、私は物語の中でしか、そんなテイマーを知りません。


若いうちに2体の従魔を持つことに成功した私は、先代のギルド長にとても可愛がられました。

彼はイーグル系とウルフ系の従魔を持つ森エルフで、長い間ギルド長としてテイマーギルドを守ってきた人でした。

そんな彼が引退を決めた時、次のギルド長に指名されたのが私だったのです。


その当時の私はまだ25歳。

長寿のエルフ族の中では全く経験値の足りないヒヨッコです。

私自身とてもギルド長の重責を担えるとは思えませんでした。

でも要請を固辞しようとする私に先代は言いました。


「テイマーに必要なのは、能力と従魔に対する愛情だけだよ。年齢は関係ない。」


ずっとお世話になってきた彼からそんな風に言われてしまっては、私も断りきれません。

結局ギルド長の職を拝命することになりました。

心の中は不安でいっぱいでしたが。


そしてそこからしばらくは試練の連続でした。

ギルド職員も所属するテイマーの方々も、ほとんどが先輩ばかりで、年若いギルド長はどうしても侮られがちです。

それでも引き受けた以上、先代に恥をかかせる訳にも行きませんのでただひたすら業務に専念しました。

けして感情を表に出さず、どんな状況でも常に平常心で対応するように心がけたのです。


そしていつの間にか、私は『能面の青姫』と呼ばれるようになっていました。

喜怒哀楽を一切表情に出さない、冷静で冷徹なギルド長だと。


本来私の中には従魔に対する熱い想いがあります。

ギルド職員や所属するテイマーの方々を大切に思う気持ちもあります。

商人ギルドのギルド長、ルカ様のように感情を露わにできたらどんなにいいかと思ったことも数知れず。


でも・・・

『能面』と呼ばれるのは不本意でしたが、業務を支障なく遂行するためには、必要な仮面だったのです。




ある日の夕刻、そろそろ業務を終えようかと思っていると、職員から来客の訪問を告げられました。

この頃は直接私を名指しでギルドに来られる方はあまりいらっしゃいません。

いったい誰だろうと訝しみつつ、来訪者の名前を確認すると、それは予想外の人物でした。


コロンの白鯨。

この大陸の輸送網の確立に最も貢献したとされる大商人。

商人ギルドの重鎮であるジャコモ様が私に会いに来るなんて、いったいどんな要件なのでしょうか。


私は警戒心を抱きながら受付室の一つへ足を運びました。

ジャコモ様程の方が、応接室ではなく受付に来ること自体が異例のことです。


受付室に入ると、そこにはジャコモ様以外に3名の方がいらっしゃいました。

一人は、この国でも有名な聖女のルル様。

もう一人はこの国出身の勇者、いえ元勇者というべきでしょうか、捕縛の勇者リベル様。

そして初めてお会いするヒト族の男性、ウィン様。


ジャコモ様に要件を伺うと、どうやらウィン様がテイマー登録をご希望の様子。

さらに従魔たちの登録も行いたいとのこと。


なぜジャコモ様ともあろうお方が、一人のテイマーの登録に立ち会うのか。

しかもそこになぜ聖女様と元勇者様が同行されているのか。

疑問は多々ありましたが、それよりも私にはもっと重要な言葉がありました。


従魔たち?

目の前の普通に見える男性、ウィン様はまさか2体の従魔持ち?

たいていの能力の高いテイマーは把握しているつもりでしたが、この方のことはまったく存じあげておりません。

この国のテイマーギルドのトップとして、他国のテイマーの情報も広く集めていますが、その名前は一度も聞いたことなかったのです。


そんなことを考えていると、ジャコモ様からとんでもない爆弾発言が飛び出しました。

ウィン様は7体、いえ7人の従魔をお持ちであると。


えっ?

どういうこと?

意味が分からない。


内心の驚愕を、長年鍛えた「能面」がかろうじて隠してくれましたが、ギルド長となって以来最大の衝撃が私を包んでいました。


でもそこで、ふと思いつきました。

ジャコモ様は無類のイタズラ好き。

これは私の「能面」を崩すための冗談ではないのか。

しかし事態は私の常識外の方向へと進んで行きます。


ウィン様が、「全員来て」と叫ぶと、受付室の中に光の粒子が溢れ、一瞬で目の前に7体の従魔たちが出現しました。


今、従魔召喚を使ったの?

しかも一度に7体・・・いえ7人を。

いったい何が起こっているの?

これはジャコモさんが仕込んだイリュージョンなの?

だって、7人の従魔を従えるテイマーなんてありえない。


私は混乱の極みにありました。

見た目にはおそらく分からなかったと思いますが。

そして目の前には見たこともない魔物が7体・・・いえ、従魔が7人。

私はどうすればいいのでしょう?


しかし驚愕の出来事はこれだけで終わりませんでした。

ジャコモ様はこんなことは、ウィン様のほんの触りにしか過ぎないとおっしゃられます。

これ以上って、何があるというのでしょうか?


そして「これ以上」を、私は身をもって体験することになります。


ジャコモ様に促されて一人目の従魔登録を行うために魔物鑑定をかけると・・・


星4つ!

この可愛らしいメンダコのような従魔が星4つ!


星2つの従魔でも滅多にお目にかかれません。

それが星4つ。

いえ、従魔うんぬんより、星4つの魔物なんて、今この世界に生きてる者で見たことがある者なんているんでしょうか。


意識が遠のきそうになりながら何とか耐えていると、なぜかウィン様も驚きの表情をしています。

どういうことでしょうか?

話を聞いてみると、どうやらこの従魔は本来星3つだったようです。

いえ、それでも十分常識外なんですが。

そしてさらなる追い討ちが私を襲います。


残りの6人の従魔のうち、2人が星4つで4人が星3つ?

ウィン様は世界征服を企む秘密組織のドンか何かなのでしょうか?


私は心を無にして淡々と従魔登録を行いました。

それ以外にどうすればいいのか。

もう感情が麻痺してしまっています。


そして最後にトドメがやって参りました。

後ほど振り返って見れば、それもトドメというよりは前座に過ぎなかったのですが。


「こっちで勝手にローテーションとか組むし〜」


あっ、子熊のぬいぐるみみたいな従魔がしゃべった。

普通にしゃべった。

私、疲れ過ぎてるのかな。


そんな風に現実逃避しながらチラリとジャコモ様の方を見ると、ジャコモ様は実にいい笑顔で私のことを見つめていました。


このジジィ、私を驚かせるためだけにウィン様を連れてきましたね。

その企みは、悔しいですが、申し分なく成功したと認めるしかありません。


ウィン様との出会いは、私にとって、天変地異に匹敵する出来事でしたが、さらに続きがあるとは・・・

ジジィ、いつか仕返ししてやる。

あっ、言葉遣いが乱れてしまい、大変申し訳ありません。

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