第149話 海竜と従魔と鼻が良すぎる元勇者(大宴会:アマレの港)

第三章 世界樹の国と元勇者(149)

   (アマレパークス編)



149.海竜と従魔と鼻が良すぎる元勇者(大宴会:アマレの港)



「じゃあみんな、リーたんと仲良くしてあげてね。」


僕は小屋の中で勢揃いした従魔たちに向かってそう告げた。

いつの間にか港にいたはずのウサくんも小屋に戻って来てる。

まあ『影潜り』で一瞬だしね。


「あるじ〜了解だよ〜。」

「リン(主人)、リン(了)。」


ディーくんとスラちゃんが右前足と体の一部を上に上げて、承諾の意思を伝えてきた。


(アルジ、ワカッタ。)

(かしこまりました、ご主人様。)

(殿、心得た。)


コンちゃんとハニちゃんとラクちゃんは、蔓と右前足と鎌を上げて、念話で返事を返してきた。


「リーたんは友達なの。もう仲がいいの。」


タコさんは、言葉とジェスチャーを織り交ぜて伝えてきた。

2本の足で、丸、クネクネ、ビシッって・・・。

ジェスチャーの意味がイマイチ良く分からないんだけど。


「主、薬草ちょうだい。一番いいやつ。」


港から戻って来たウサくんは、早速、薬草をおねだり。

ウサくん、それ返事になってないよね。

でも両耳が上下にヒラヒラしてるから「了解」ってことでいいのかな。



一通り従魔たちの返事が終わったので、僕は隣で僕にしがみついているリーたんを見た。

彼女は追加の串焼きを食べ終えた後、僕の説得を受け入れて小屋の中に入ることを決意した。

しかし頭では大丈夫だと理解しても体が反応してしまうようで、従魔たちを前にして、まだブルブルと震えている。


「リーたん、自己紹介、できる?」


僕が尋ねると、リーたんは青ざめた表情ながら、首を縦に振った。

ちなみにリーたんは現在人化しているので、海竜の体色で青く見えるのではなく、本当に青ざめている。


「は、初めまして・・・リ、リバイアタンです。よろしく・・・お願い・・・します。」


リーたんは所々つっかえながらも、何とか最後まで自己紹介を終えることができた。

偉いぞ、リーたん。

僕が逆の立場だったら間違いなく逃げ出してたと思う。

ここまで来れば、後は慣れるだけだから、従魔たちに任せよう。


「ところでウサくん、港の様子は?」

「もぐもぐ。」


ウサくんに質問したけど、聖薬草を咀嚼中だった。

ウサくん、そこはタコさんみたいに念話で返してくれてもいいんだけどな。


「主、港は大騒ぎ。」


ウサくんは聖薬草を飲み込んでから、そう言った。


「えっ、まだ大騒ぎなの? 異変、収まってないの?」

「海は元に戻った。」

「元に戻ったのに大騒ぎしてるの?」

「うん、大騒ぎしてる。」


どういうことだろう?

ルルさんたちを残したままだし、ちょっと様子を見に行かないとな。

従魔たちは・・・ここでいいか。

リーたんとの親交を暖めてもらわないといけないし。


「従魔たち、ちょっと港に行ってくるね。」


僕はそう言い残すとアマレの港に転移した。




港に転移すると、僕はまず『碧の海』の状態を確認した。

『碧の海』は見渡す限り明るく透き通った青色を取り戻し、異変の残滓はどこにも見当たらない。


問題はなさそうだな。


僕はホッとしてルルさんたちを探そうと後ろを振り返った。

するとそこは、大騒ぎする人たちで溢れていた。

まさにウサくんが言っていた通りだ。


「ウィン、ウィンにしては時間がかかったな。」

「あっルルさん、これ、どうなってるんですか?」

「どうって、見たまんまだ。海の異変が解決してみんなでお祝いの宴会をしている。」


ルルさんの言葉通り、港には大宴会場が出来上がっていた。

樽とか箱とか板とかで即席のテーブルや椅子がたくさん設置され、屋台もあちこちに出現している。


お祝い?

切り替えが早過ぎませんかね。

みんな、あんなに心配そうに海を見つめていたのに、今は誰もが笑顔ではしゃいでいる。


僕がちょっと呆れた様な顔をしていると、ルルさんが続けた。


「海が元に戻ってすぐは、まだみんな半信半疑だったんだが、海に出ていた冒険者たちが帰ってきて魔物がいなくなったことが伝わると、あっという間にこんな状態になった。」

「そうなんですね。まあ、良かったです。」

「ウィンが解決したんだろう?」

「はい、まあ、予想とはかなり違う状況でしたけど。」

「ついて行けなかったのはとても悔しいが、何があったのか詳しく話してもらうぞ。」


ルルさんはそう言うと、僕の腕を引っ張って宴会の輪の中へと入って行く。

少し進むとジャコモさんたちが座っている即席のテーブルが見えた。


「おおっ、ウィン殿、よく戻られた。さすがじゃのう。」

「ウィン様、アマレの住人の一人として心から感謝申し上げます。」

「もぐもぐ・・ウィンさん・・もぐもぐ・・美味しいですよ・・もぐもぐ・・食べましょう。」


ジャコモさんとシルフィさんが立ち上がって声をかけてくれた。

約1名、座ったまま食べ続けてる人がいるけど。

あれっ?

リベルさん、ここにいたっけ?

小屋のリビングで酔い潰れてたはずじゃ・・・。

そう言えば、さっき、小屋の中で見当たらなかったな。


「ウィン、リベルは無視していいぞ。宴会の匂いを嗅ぎつけて出て来ただけだからな。」

「ルル、うるさい・・もぐもぐ・・ウィンさん、起こしてくれれば・・もぐもぐ・・ボクも一緒に戦えたのに・・もぐもぐ。」

「リベルさん、水中でも戦えるの?」

「はい・・もぐもぐ・・『光衣』状態なら・・もぐもぐ・・水中も戦えます。」


そうなんだ。

リベルさん、何気にスペック高いな。

まあ腐っても・・・曲がりなりにも元勇者だしな。

でも食べながら喋るのは行儀悪いですよ。

それにしても小屋の中にいて宴会を嗅ぎつけるとか、鼻のスペックが高過ぎませんか。


「ところでウィン殿、どうやって異変を解決したのか、教えてくれんかのう?」

「ウィン様、私も是非、お聞きしたいです。」

「ウィン、戦果報告を。」

「もぐもぐ。」


4人から説明を求められたので、僕は海の中と洞窟での出来事を簡単に説明した。

約1名は食べてるだけだけど。

でも詳細を省くと本当に短い話なんだよね。

海の中でタコさんが無双して、洞窟でお腹を壊した海竜の治療をした。

それだけのことだから。


「なんと、海竜の幼体が・・・」


説明を終えるとジャコモさんが驚きの声を上げた。

でもキラリと目が光った気がしたので、何か商売絡みのことを考えているに違いない。

海竜饅頭とか、海竜煎餅とか、売り出すつもりかな。

海竜見学ツアーは無理だからね。

なにしろ居場所が海底の洞窟の中なんで。


「伝説の魔物がそんな所に・・・」


シルフィさんも胸に手を当てて驚いている。

表情の変化は微かだけど、だんだん見分けられるようになってきたぞ。


「ウィン、是非、タコさんと手合わせを。」


ルルさんは、そっちだよね。

でも今の話ちゃんと聞いてました?

ルルさん、あっという間にタコさんにポイポイされちゃいますよ。

あれっ、マジックバッグって、生きてる人を収納できるんだっけ?

今度試してみようかな。

リベルさんを放り込んでみよう。


「ウィンさん、その海竜には会えるんですか?」


最後にリベルさんがそう訊いてきた。

もぐもぐしてないところを見ると、もう十分に食べたようだ。


「会えますよ。」


ここにいるメンバーは全員、『小屋』のことも知ってるし、従魔たちのことも知ってるので隠す必要もないかと考え、そう答えた。


「なんと!」

「会わせていただけますか?」

「強いのか?」

「すぐ会いに行きましょう。」


ということで、みんなで小屋に戻ることになった。

あっ、その前にリーたんの了解を取らないとね。

みんな、ちょっと待ってて下さいね。


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