第157話 「見守る会」談義からの逃走(アマレ港食べ歩き)

第三章 世界樹の国と元勇者(157)

   (アマレパークス編)



157.「見守る会」談義からの逃走(アマレ港食べ歩き)



その会話はルルさんから始まった。



「会の結束を表すために、紋章を考えた方がいいんじゃないか?」

「ルル様、名案ですわ。デザインを考えないといけませんね?」

「シルフィ殿、デザインはお任せしようかのう。紋章入りの会員証を作るのはどうじゃろうか?」

「ジジィ、会員証もいいが、本部はどこに置くつもりだ?」



ルルさん、シルフィさん、ジャコモさん、ルカさんの順番で発言してる。

「紋章」とか「本部」とか、いったい何の話をしてるのかな、この人たちは。

シルフィさんが妙にノリノリなのも謎だ。



「筋肉執事、本部はもう決まっている。ウィンの『小屋』だ。あそこなら、どの国からでも会員が集まれる。」

「ルル様、そうなりますと扉の使用権限のルールが必要になりますわ。」

「おおシルフィ殿、会員はフリーパスということでどうかのう?」

「ジジィ、その『小屋』ってのは何だ? まだ教えてもらってないぞ。」



ルルさん、勝手に『小屋』を変なことに使わないで下さい。

「どの国からでも」って、どれだけ拡大するつもりですか?

それにジャコモさん、「会員はフリーパス」って・・・・・お金儲けに使う気満々ですよね。

瞳の中に金貨マークが浮かんでますよ。



「筋肉執事、慌てるな。ものには順序がある。ウィン・ワールドはまだまだ奥が深いのだ。」

「ルル様、定例会の設定と報告書の作成も必要ですわ。」

「シルフィ殿、その辺はわしが担当しますぞ。ウィン殿の報告書については、完璧を目指しますゆえ。」

「ジジィ、相変わらず、興味を持ったら徹底的にストーカーだな。」



なんか勝手に話がどんどん進んでます。

僕は蚊帳の外だけど。

テーブルを囲んで順番に発言してるけど、それって輪唱ならぬ輪話ですか?


「本人の承諾なしにそういう会は作らないで欲しい」と丁寧に申し入れをしたところ、本人の承諾なしだから「見守る会」だと返された。

ちなみに本人の承諾がある場合は「ファンクラブ」だそうだ。


もう心底どうでもよくなってきた。

早く食べ歩きに行きたい。

まだ朝ご飯、食べてないし。



「もういっそのことギルドにしてしまえばいいんじゃないか。」

「ルル様、ウィンギルドですわね。いいかもしれません。」

「シルフィ殿、それでは会員が増えすぎて秘密保持が難しくなりますのじゃ。」

「お前たち、ギルドの意味とか理解してるのか?」


「当然だ、筋肉執事。ウィンの器はギルドレベルだ。いや、国レベルかもしれんな。ウィン国を作るか。」

「ルル様、さすがにそれは早過ぎるのでは・・・」

「シルフィ殿、善は急げとも言いますぞ。」

「ちょっと待て、お前たち、いったい何の話をしている?」



話はまだ続いている。

いつも通り、ルルさんが話を妙な方向に脱線させ始めた。

シルフィさんは、キャラを崩し始めてるけど大丈夫だろうか。

ジャコモさんは相変わらず、会話の端々に大商人としての腹黒さが見え隠れしている。

そしてルカさんは・・・「まとも担当」として頑張って下さい。

本当にお疲れ様です。

健闘を心からお祈りします。


ということで、僕は逃げることにした。

こんな話、付き合ってられないよね。




転移陣を使ってアマレの港に転移すると、お祭り騒ぎがまだ継続していた。


即席のテーブルを囲んで、あちこちで乾杯が繰り返され、時々大きな歓声が上がる。

子供たちがテーブルの間を走り回っている。

屋台からの呼び込みの声もひっきりなしに響いている。

まるで港街中から人が集まったみたいだ。


うん、確実にさっきより人が増えてるね。

お酒飲んで盛り上がってるけど、みなさんお仕事は大丈夫なのかな。


あっ、船は動き出してるみたいだな。

「碧の海」の安全が確認されて、ようやく許可が降りたんだろうな。

船乗りさんたち、ご苦労様です。


僕は出港していく帆船に向かって手を振ってから、港の周囲に乱立している屋台の方を振り返った。


これは屋台街を探す手間が省けたかも。

おそらく港の騒ぎを聞きつけて、屋台が集まってきたんだろう。

移動式の商売をする人たちは、人の動きに敏感だからね。


僕は1人で屋台巡りを開始した。

いや1人じゃないな。

左腕には腕輪に擬態したスラちゃんがいる。

お供にディーくんも付き添ってくれている。


どうやらスラちゃんは索敵というか、警戒役でデフォルト(常に一緒)、ディーくんはお供一番手に決まったようだ。

今回はタコさんが一番手じゃないんだね。


まずは、港街の定番、魚介類の串焼きシリーズを買い溜めする。

ポルトの港にもあったサンマーレ、イワシーレ、コアジーレ、エビラ、カニラ、シャコラを買えるだけ買いながら、それ以外の串焼きも物色していく。


背開きにして魚醤を塗って焼き上げられたウナギーレ。

蒸していないようで少し固さはあるけどほぼ蒲焼きの味だ。

もちろんたくさん買い込む。


柔らかく蒸して、煮詰めた甘ダレが塗られたハマグリラ。

串に5つずつ刺した状態で売られている。

これも買い。


姿焼き状態で串に刺さっている小型のタコラとイカラ。

これって・・・タコさん、大丈夫だろうか。

そう思ってディーくんに尋ねてみると、「ノー問題だよ〜」とのこと。

半信半疑ながら、これも仕入れる。


ちなみに買ったものは、全部マジックバッグに入れる振りをしながら、空間収納に入れる。

どちらに入れてるか分からなくなるを避けるために、基本的に空間収納を使うことにした。

でもそうすると、マジックバッグが宝の持ち腐れになってしまう。

後で自分用に普通の鞄を買って、マジックバッグはディーくんに使ってもらおうかな。

マジックバッグを斜め掛けしたディーくんって、ちょっと可愛いと思うんだよね。


ここアマレの屋台では、串焼き以外の食べ物もたくさん売っていた。

新鮮な魚を使ったカルパッチョや魚貝がたっぷり入ったスープ、それからピザ生地で具を包んで油で揚げた揚げ餃子みたいな料理。

タコラとイカラの姿焼きの屋台では、スミを利用した黒いパエリアのようなものもあった。


とにかく片っ端から味見をして、気に入ったものを迷惑にならない程度に大人買いしていく。

と言っても、ほとんど全種類買ってるけどね。

不思議と何を食べても舌に合うんだよね。

体の方が、この世界の味に合う作りになってるのかもしれないけど。


途中から面倒くさくなったので、空間収納を隠すのをやめた。

買ったそばから空間収納にどんどん料理を入れていく。

時間停止機能付きで収納無限って、便利過ぎる。

時々、屋台のおじさんやおばさんがびっくりした顔をしてたけど、もう気にしない。


マジックバッグの中のものをすべて空間収納に移して、空になったマジックバッグをディーくんに渡すと、ディーくんは早速それを斜め掛けした。

ほら、やっぱり可愛い。


問題はディーくんが僕のマジックバッグを使えるかどうかだ。

海の中でタコさんが『ポイポイ』に使ってたからたぶん大丈夫なはずだけど、一応「中の侍」さんに確認してみる。


…うぃん殿、うぃん殿が使用者を指定すれば、誰でも使えるようになるでござる。従魔たちはすでに指定済み扱いでござる…


従魔たちはデフォルトで使用できると。

じゃあ、改めて指定しなくてもディーくんは大丈夫だね。


「あるじ〜、ありがとう〜。これで素材集めが捗る〜。」


あっ、そっち方面で使うのか。

容量が『城レベル』だから、いっぱい詰め込めるね。

でもそうなると倉庫が大変なことになる予感。

倉庫、さらに拡大しないといけないな。

なんか、『小屋』がすでに迷宮化してる気がするけど・・・。

まあいいか。



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