第148話 8個目の小屋を小屋を設置します(『碧の海』:リーたんの洞窟内)
第三章 世界樹の国と元勇者(148)
(アマレパークス編)
148.8個目の小屋を設置します(『碧の海』:リーたんの洞窟内)
あれっ?
何しに来たんだっけ?
そんな疑問を心の中でつぶやくと、タコさんが念話を送ってきた。
(あるじ、大丈夫なの。問題は解決したの。)
えっ、そうなの?
問題って何だったっけ?
朝から港が大騒ぎで・・・。
そうだ、『碧の海』の異変の解決だった。
あれっ?
異変、もう解決したの?
(そうなの。もう心配ないの。)
タコさんが再び念話で返してきた。
何がどうなって解決したのよく分からないけど、タコさんがそう言うなら、きっと解決したんだろう。
でもそう言えば、タコさん、さっきまでしゃべってたのに、なぜかまた念話になってる。
僕は隣にいるタコさんの方を見た。
そして即座に理解した。
タコさん、串焼きをムシャムシャしていてしゃべれなかったんだね。
念話は便利だよね。
口いっぱいに食べ物を入れた状態でも会話できるんだから。
「タコさん、リーたんが元気になって、問題が解決したってことは、原因はリーたん?」
僕はタコさんが串焼きを食べ終わるのを待って、そう質問した。
「そうなの。リーたんはこの海の守りの要なの。それが弱ってたから異変が起きたの。」
リーたんが『碧の海』の守りの要?
でもリーたんって、引きこもりだよね。
それでどうやって海を守ってるのかな?
「リーたん、この辺の海の魔物を狩ってたりする?」
僕は、串焼きを食べ終わって一息ついているリーたんに疑問をぶつけてみた。
「狩りはしないよ。魔素の多い生き物は時々食べるけど。」
「魔素の多い生き物? それって魔物じゃないの?」
「そうなの? 魔素が多いほうが効率がいいから、感知したらここに引き摺り込んでるけど。」
なるほど。
何となく全体像が把握できた気がする。
リーたんは、この辺りに魔物が来ると、水流操作でこの洞窟内まで運んで食糧にしてるんだね。
魔物は魔素が多い、つまりリーたんにとって栄養価が高いんだろう。
だから魔物たちはリーたんを恐れて『碧の海』には近寄らないと。
ルルさんが言ってた「海竜の骨が沈んでいる」という伝説は、まったくの的外れでもなかったってことか。
実際には、海竜の幼体が引きこもってたわけだけど。
でも気になるのは・・・
「昨日食べた黒い変なものって、よく見かけるの?」
「んんっと、初めてかな。」
「どんな生き物?」
「生き物っていうか、もやもやした黒い塊だった。」
「魔力・・・魔素は?」
「魔素は多かったよ。だから食べてみたの。でも美味しくなかった。」
黒くてもやもやした魔力多めの塊か。
丈夫なはずの竜種の体調を崩させる程となると、かなりヤバイものだろうな。
見かけても迂闊に近づかないようにしないと。
超危険物として、心のメモ帳にしっかり書いておこう。
「じゃあリーたん、もう黒い変なものを見かけても食べちゃダメだよ。」
「分かったよ・・・ねぇ、もう行っちゃうの?」
問題も解決したようなのでそろそろ帰ろうかなと考えていると、リーたんが寂しそうにそう言った。
その表情に少し胸が締め付けられる。
100年以上引きこもっている海竜も、本心では他者との繋がりに飢えているのかもしれない。
リーたん、まだ幼体だし。
「そうだね。問題も解決したみたいだし、もう行かないと。でもリーたんが望むなら、また時々遊びに来るよ。」
「ホントに?!」
リーたんが嬉しそうにそう叫んだ。
精神的にはまだまだ子供なんだろうな。
可愛いもんだ。
「ありがとう。必ず来てね。串焼きいっぱい持って来てね。」
前言撤回。
僕たちに会いたいんじゃなくて、串焼きが食べたいだけのようだ。
人恋しさより食い気なんだね。
まあ海竜だし、しょうがないか。
それはそれで、正直でよろしい。
「ところでリーたん、相談なんだけど、そこの隅っこに小さい小屋を建ててもいいかな。」
「小屋? どうして?」
「そうすればいつでも僕たちに会えるよ。」
「そうなの? そうすればいつでも串焼きが食べれる?」
「食べれるよ。」
「じゃあ建てて!」
僕はリーたんの承諾を得て、すぐに洞窟の隅に『小屋』を出した。
リーたんは突然現れた『小屋』を見て、目を丸くしている。
「すごい! どうやったの?」
「魔法だよ。この扉を開けば中に入れるから。」
「中に入ってもいいの?」
「いつでもリーたんの気が向いた時に入っていいよ。」
僕はそう告げながら心の中で、リーたんがこの洞窟内の小屋の扉だけ使用できるよう設定する。
あっ、でも注意事項があった。
「リーたん、小屋の中の水槽に魚の魔物がいるんだけど、それは食べちゃダメだからね。」
「水槽の中の魚の魔物? うん、分かった!」
照明用のコーラル・ジュエルたちは、もう家族の一員みたいなもんだからね。
食用にするのは禁止しとかないと。
「ねぇ、今、入ってみてもいい?」
「いいよ。」
リーたんが、興味津々な感じで入室許可を求めてきたのでOKを出した。
僕たちがいる時に、扉が正常に開くか確認した方がいいかなと考えたからだけど・・・・・。
ジュエルたちのこととは別に、とても重要な注意事項があることを伝え忘れていた。
「じゃあ入りま〜す。」
リーたんが嬉々として扉を開くと、リビングではウサくん以外の従魔たちがソファの上や床の上でゴロゴロしていた。
従魔たちの視線が一斉にこちらを向く。
「!!!!!」
リーたんは言葉を失い、しばらく呆然とした後で勢いよく扉を閉めた。
「なんなの! あなた、なんなの! あんなにいっぱい! 怖いのがいっぱい! 食べられちゃう〜!」
失敗したな。
当然、小屋の中には従魔たちがいるよな。
タコさんを怖がらなくなってたから、すっかり油断してた。
初めて見る星3つと星4つの魔物たちがゴロゴロしてたら、そりゃ驚くよね。
「リーたん、ごめんごめん、彼らもみんな僕の従魔たちだから大丈夫だよ。リーたんのこと食べたりしないよ。」
「ホントに? ホントに食べない? パクってされない?」
「絶対に大丈夫。驚かせてホントにごめんね。」
僕は必死にリーたんを宥めながら、もう一つ大事なことを忘れていたことに気がついた。
「そう言えばリーたん、もしかして僕、まだ名前を言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。」
やっぱり。
名乗ってなかったか。
「あなた」としか呼ばないから妙だなと思ったんだけど。
これはリベルさんのこと言えないな。
一番礼儀ができてないのはどうやら僕自身だったようだ。
「僕の名前はウィン。よろしくね。」
「ウィンね。覚えたよ。ねぇウィン。串焼き、まだある?」
僕は自己紹介が遅れたお詫びも兼ねて、串焼きを3本、マジックバッグから取り出してリーたんに渡した。
リーたんは受け取るとすぐに串焼きに齧り付いた。
うん、リーたんの『食性』の項目に『串焼き』が追加される日も、そう遠くない気がする。
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