第147話 タコさん、お前もか(餌付け:腹ペコ勇者作戦)

第三章 世界樹の国と元勇者(147)

   (アマレパークス編)



147.タコさん、お前もか(餌付け:腹ペコ勇者作戦)



「あなた! いったい何を連れて来たの!」


リーたんの声が洞窟の中に大きく響いた。

星3つの海竜がガクガクと体を震わせている。

見た目は人間の幼女そのものなので、もし誰かに見られたら間違いなく事案になるだろうな。


しかし、星3つの魔物でもやっぱり星4つの魔物は怖いんだね。

タコさん、そんなに怖くないんだけどな。

いや、ポイポイしてたタコさんは怖かったかも。

さて、この状況、どうしたもんかな。


「今の魔力は何なの? あなたが連れて来たんでしょ?」


そうか。

念話の魔力を感じ取ったのか。

ここはまあ、正直に話す以外の選択肢はないな。


「今のは僕の従魔の1人だよ。怖くないから、ここに呼んでもいい?」


「むりむりむりむり、絶対無理! 食べられちゃう。」


リーたんは、震えながら大きく首を横に振っている。

そんなに怖いのか。

でも星1つとか2つの魔物は、平気で従魔たちに向かってきたけど。

弱い魔物は逆に相手の強さが分からないんだろうか。

それとも知能レベルの差かな。

魔物や動物なら本能で相手の強さが分かりそうな気もするけど。


「僕の従魔だから大丈夫だよ。ちっちゃくて可愛いんだよ。」


「いやいやいやいや、この魔力、おかしいでしょ。」


「おかしくないの。タコさんなの。小さくて可愛いの。」


僕とリーたんが押し問答のようなやり取りをしていると、いきなり後ろから声がした。

タコさん、来ちゃったのか〜。

もう少し説得する間、待ってて欲しかった。

ほら、リーたん、驚きすぎて飛び退いちゃったよ。

人化も解けて、海竜の姿で固まっちゃってる。

でも今なんか違和感が・・・。


「タコさんはあるじの従魔なの。引きこもりの海竜を食べたりしないの。」


タコさんが固まってるリーたんに向かってさらにしゃべる。

ん?

タコさんがしゃべる?

タコさん!

しゃべってる!

ついにタコさんまで・・・。


とりあえず落ち着こう。

僕まで平常心を失うと収拾がつかなくなる。

「タコさんがしゃべる」問題は後で考えるとして、今はリーたんを何とかしないと。


「リーたん、紹介するね。僕の従魔のタコさんだよ。」

「タコさんなの。」

「・・・・・」


タコさんは、足を一本、体の前で曲げてお辞儀した。

なんか執事の礼みたいだな。

どこで覚えたんだろう。


リーたんの方は、まだ立ち直れない模様。

海竜の姿のまま座り込んで、尻尾を体に巻き付けている。

「現実逃避のポーズ」だろうか。


「タコさん、こちらリーたん。正しい名前はリバイアタン。海竜の幼体で人化もできるんだよ。」

「リーたん、よろしくなの。」

「・・・・・」


タコさんは、そう言いながら足を一本、前に伸ばした。

タコさん、それは握手を求めてるのかな?

完全に逆効果だと思うけどね。


あっ、リーたん、ひっくり返ってお腹見せた。

それって「服従のポーズ」?

これ以上続けると気絶しちゃうかもしれない。

どうしたもんかな。


僕はしばらくどうすればリーたんの恐怖心を和らげることができるか考えた。

リーたん、引きこもり体質のせいで、対人(対魔物)能力低そうだし。

リベルさんみたいに無頓着な性格なら対応しやすいんだけどな。


あっ、そうか。

腹ペコ勇者か。

その手があったね。

『腹ペコ勇者』作戦、試してみよう。


僕はマジックバッグの中からポルトの港で買ったサンマーレの串焼きを1本取り出し、左手に持ってリーたんの前に差し出してみた。


「リーたん、お腹空いてない? これ食べない?」


洞窟内に焼きたての魚の香ばしい匂いが広がる。

油が乗ったサンマーレを炭火で焼いた串焼きの香りは、抵抗し難い魅力を発している。


しばらくそのままの体勢で待っていると、服従のポーズでお腹を見せているリーたんの鼻が、ヒクヒク動くのが見えた。


もう一息だな。


僕は再びマジックバッグに右手を入れて、エビラの串焼きを取り出し、左手に足した。

焼き魚の香ばしい匂いに甲殻類を焼いた香りが加わる。

エビラの甘みを含んだ香りには、潮の気配が含まれている。


リーたんの反応を確認すると、服従のポーズは崩していないが、体全体がピクピクし始めた。


もうそろそろ限界が近そうだ。

よし、これでどうだ。


僕はさらにマジックバッグからカニラの串焼きを出して、合計3本の串焼きをリーたんに突きつけた。

少し焦げた甲羅の香りが暴力的に食欲を刺激する。


次の瞬間。

リーたんは、飛び起きながら人化し、僕の手から串焼きをすべて奪い取った。

とても鮮やかで無駄のない「ひったくり」だった。


「なんなの? これはなんなの? どうしてこんなに美味しそうな匂いがするの?」


リーたんが叫んだ。


リーたんの反応が予想以上に激しい。

もしかして今まで生の魚しか食べたことがないのか?

まあ、こんな海底の洞窟に100年も引きこもってたら、串焼きなんて知らなくて当然だよね。


なんか不憫な子供を食べ物で釣ったみたいで、いや、実際に釣ったんだけど、罪悪感でとても心が痛い。

でも、おかげでタコさんへの恐怖心を忘れてくれたみたいで、作戦としては大成功だけど。


「ねぇ、これ、食べてもいいの?」


そう言いながらリーたんが上目遣いに見つめてくる。

ちょっと可愛い。

いえ、そういう趣味はまったくありません。

そこは強く否定しておきます。


リーたん、もちろん食べていいんだよ。

そう言えば何か言う前に初対面でいきなりひったくって食べた人もいたね。

元勇者より引きこもりの海竜の方が礼儀ができてるってどういうことだろうね。


「それは串焼きっていってね。魚介類に味をつけて焼いたものだよ。全部リーたんがたべていいし、足りなかったらまだまだあるからね。」


「ホントに? ありがとう!」


そう言うとリーたんは、サンマーレに齧り付いた。

昨日からお腹が痛くて何も食べてなかったのだろう。

幼女が串焼きを食べてる様子は何とも微笑ましい。

場所が洞窟の中っていうのがちょっとシュールだけどね。


そんなことを思っていると横から脇腹をツンツンされた。

もちろんツンツンしたのはタコさんだった。


「あるじ、タコさんも食べるの。串焼きちょうだい、なの。」


タコさんがウサくんの口真似でおねだりしてきたので、串焼きを3本マジックバッグから出して渡した。

すぐにタコさんもムシャムシャ食べ始める。

しばらく、洞窟内にタコさんとリーたんの串焼きを食べる音だけが響いた。


しかし、魚介類の串焼きって万能だな。

主に餌付け用にだけど。

串焼きのストック、ちょっと少なくなってきたから、一度ポルトに戻って補充しとかないといけないかな。 

いや、同じ港町だからアマレにもあるか。


でもリーたんが元気になってくれて良かった。

これで一件落着・・・・・

あれっ?

これでいいんだっけ?

何しに来たんだっけ?

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