第146話 管轄を争っていたようです(呼称:リーたん)

第三章 世界樹の国と元勇者(146)

   (アマレパークス編)



146.管轄を争っていたようです(呼称:リーたん)



「中の侍」に心の中で呼びかけてからしばらく待っていると、ようやく視界にメッセージが流れた。



…うぃん殿、遅くなり、申し訳ないでござる…


どうしたの?

お手洗いに行ってたとか?


…実は・・・縄張り争いが勃発いたしまして・・・…


縄張り争い?

どういうこと。


…海の中の担当が曖昧だった故、前任者がごねたのでござる…


ええっと、「中の女性」が海の中の管轄権を主張したってこと?


…その通りでござる…


でもここ、アマレパークスの海だよね。


…この世界、領海の概念があやふやなのでござる…


なるほど、それで「中の女性」が「海はコロンバールから繋がってるから私が担当する」とか言ったのかな。


…さすがうぃん殿、その通りでござる…


で、管轄問題は解決したの?


…前々任者が基準を決めたでござる…


ああ、「中のヒト」が仕切ったんだね。

どういう基準になったの?


…海に入る直前の陸地の担当者が担当すると…



なるほど。

一度海に出たら、次にどこかに上陸するまでは同じ担当が続くってことか。

分かり易くていいね。

でもこちらからしたら誰が担当でもいいんだけど。

管轄で争うとか、前の世界の官僚みたいだね。


…『官僚』とは何でござるか?…


ええっと・・・北町奉行と南町奉行が事件が起こった場所によって担当を争うみたいな・・・。

うん、なんか違うな。

まあそんなことはどうでも良くて、聞きたいことがあるんだけど。


…うぃん殿、何なりとお聞きくだされ…



そこから『竜種』についていくつか質問して、「中の侍」がわかる範囲で答えてくれたので、大まかなことは理解できた。


まずは、予想通りこの世界には『竜種』と『龍』が存在し、『竜種』は魔物の最強種の一つらしい。

そして『龍』は魔物とは別格で、『神獣』扱いのようだ。


どちらにも親が子を産むという生態はなく、自然発生的に生まれる。

ただ例外的に、他の生物から進化する例もあるとのこと。


寿命に関しては、個体差はあるが『竜種』は数千年、『龍』に至っては寿命の概念がないらしい。

ただ不死ということではなく、何らかの理由で消滅することはあるそうだ。


ついでにリバイアタンが気にしている鱗問題は、海竜には鱗がないものが多く、それ以外の『竜種』はほとんど鱗持ちとのこと。

ちなみに、『名前持ち』は特殊個体で、通常より能力が高いらしい。



「ということで、リバイアタン、何も心配はいらないみたいだよ。」


「何がということなのか、全然分からないんだけど。」


「中の侍」さんとの長めのやり取りを終えて、リバイアタンに話しかけると、意味が分からないって感じで返された。

まあ、念話でのやり取りが分からない以上、いきなり黙り込んだと思ったら、急に話し出した変な人って扱いをされてもしょうがないよね。


「頭の中にこの世界のことをよく知ってる人がいてね。その人に確認したら、鱗がないのも、親がいないのも、それが普通で何も問題ないって言ってた。」


「あなた、頭、大丈夫?」


あっ、なんか可哀想な人を見る目で見られた。

幼女の姿でそんな態度を取られるのはちょっと辛い。

確かに客観的に見て変な説明だけど、どう説明すればいいのか分からないし。


「とにかく、リバイアタンは・・・・・会っていきなり失礼かもしれないけど、名前、短くして呼んでもいいかな?」


「いいよ、呼び方は何でも。」


いちいちフルネーム呼びが面倒になってきたので提案してみると、あっさり許可された。

たぶんそういうことにこだわりがないのだろう。

でも何て呼ぼうかな。

考えるの面倒だし、分かりやすいのでいいよね。


「じゃあ、『リーたん』で。」


「待って! なんか背中がゾワってした。他の候補はないの?」


「もう何も思いつきません。」


「ええ〜・・・しょうがないなぁ・・・何でもいいって言っちゃったし・・・」


ということでリバイアタンの呼び名は「リーたん」で決定。

批判、不満は受け付けません。

まあ、リーたんは引きこもりだし、この先関わるかどうか分からないけどね。


「とにかく、海竜は鱗がないのが普通だって。」


「そうなの? でも他の竜たち、みんな鱗あったよ。」


「他と違ってもいいんじゃないかな。」


「違ってもいいの?」


「違うってのいうのは個性だし、素敵なことだと思うよ。」


「・・・あなた、自分に言い聞かせてない?」


リーたん、なんて鋭いんでしょう。

痛い所を指摘されてなんか涙出てきた。

話題を変えよう。


「リーたんは、食事はどうしてたの?」


「食事? エネルギー補給のこと?」


「そう。」


「だいたいは海から魔素を取り込めば大丈夫。あと時々魚とか食べてた。」


「魚、どうやって獲るの?」


「簡単よ。水流操作でここまで引き込むだけ。」


おおっ、『水流操作』ってそんなことができるのか。

確か、選択クエスト(水中③)の報酬が『水流操作』だったよな。

早く達成して使ってみたい。



…うぃん殿、くえすと達成のお知らせでござる…



『水流操作』のことを考えていると、それに合わせたように「中の侍」さんからメッセージが流れた。

続いて達成済みのクエストが表示される。



○選択クエスト(水中③)

 クエスト : 冒険者ギルドの依頼を達成しろ

 報酬   : 水流操作

 達成目標 : 依頼達成(100回)

 カウント : 255/100



あれっ、もうクエストが達成扱いになってる。

ここに来る途中でタコさんが魔物たちをポイポイしたので、その分のカウントが加算されるだろうとは思ってたけど、それは冒険者ギルドで申告した後だと思ってたのに。



…うぃん殿、協議の結果、討伐依頼につきましては討伐時点で依頼達成扱いとなったでござる…


なぜ?

まあこれまでもクエスト達成表示のタイミングはかなりいい加減だったけど。


…常時依頼の場合、冒険者ぎるどへの報告あるいは納品まで大きく時間が開く可能性があるため、即時認定となったでござる…


なるほど、時間が開き過ぎると中の人たちが忘れちゃう可能性が高くなるから、早めに対応しようということね。

了解です。


…いや・・・けして・・・そのような・・・…



「中の侍」さん、動揺し過ぎ。

別に責めてる訳じゃないから。

僕としても、早めに能力が増えた方がありがたいし。


それにしてもクエストのカウントが200くらい増えてるということは、タコさん、魔物を200体くらいポイポイしたんだね。

ということはマジックバッグの中に海の魔物が200体入ってるのか。

なんかちょっと嫌だな。


そんなことを考えていると、いきなり念話が頭に響いた。


(あるじ、まだなの? 待ちくたびれたの。)


そうだ、タコさん待たせてるんだった。

もう少しリーたんから話を聞きたいし、タコさん、中に来てもらおうかな。

そう思ってタコさんに返事をしようとした瞬間、目の前から大きな声が上がった。


「あなた! いったい何を連れて来たの!」


視線を向けると、青い髪、青い目、青いドレスのリーたんが、真っ青になって震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る