第86話 やっぱり最後は逃げるんですね(クエスト:選択クエスト)
第二章 葡萄の国と聖女(86)
86.やっぱり最後は逃げるんですね(クエスト:選択クエスト)
グラナータさんから冒険者カードを受け取ったところで、ようやく話が本題に入ることになった。
すっかり忘れてたけど、本題は討伐依頼の達成報告だったからね。
「それで、あの嘴の山ぁ、いったいどうなってんでぃ。説明しやがれ。」
説明役は、リーダーである僕になったんだよね。
仕方ないな、自信ないけどとりあえずやってみるか。
最初の部分から丁寧に説明しないとね。
「まず、転移でフルーツバードの群れの真ん中に行きました。」
「待て、待て! 何だそりゃ。もっと詳しく説明しやがれ。」
あれ?
何か抜けたかな?
まだ冒頭だし、抜けようがないと思うけど。
「ウィン様、私の質問に答えて頂く形でよろしいでしょうか?」
「はい。」
キョトンとしている僕にグラナータさんが仕切り役を申し出る。
僕はもちろん承諾する。
ネロさんよりグラナータさんの方が冷静に対応してくれそうだし。
「ウィン様は、この部屋を出た後、転移で森の中に移動したと?」
「はい。」
「ではルル様は?」
「一緒に転移しました。」
「「一緒に!?」」
黙っていたネロさんもグラナータさんと一緒に叫んだ。
他人を一緒に転移させるのって、もしかすると難易度が高いのかも。
何かしゃべろうとするネロさんを視線で制してグラナータさんが続ける。
「ウィン様の転移は、他の者も一緒に転移できると?」
「はい、今のところ一人だけ。」
「今のところ・・・ということはこの先さらに人数が増えると?」
「はい、その予定です。」
「・・・」
ここでグラナータさんが少し考え込む。
そこにルルさんが口を挟む。
「赤髪さん、ウィンの魔法をいちいち確認してると日が暮れるぞ。」
グラナータさんは、一度ルルさんを見て、何か覚悟を決めたような、あるいは何かを諦めたような顔で質問を再開した。
「分かりました。では転移した先はフルーツバードの群れの真ん中で、その後どうなりましたか?」
「まずルルさんがフルーツバードたちを逃さないように、『大風』で、あっこれ風魔法の応用ですけど、群れ全体を囲い込みました。」
「待って下さい。その風魔法はウィン様ではなくて。」
「ルルさんです。」
「・・・」
毎回、会話が止まるので説明が前に進まない。
僕の説明が下手過ぎるのだろうか?
「失礼ですが、ルル様は風魔法は使えなかったと記憶しているのですが。」
「ああそうそう、ルルさん、風魔法を使えるようになりました。」
「「使えるようになった!?」」
ダメだな、これは。
なんか話の前提が食い違い過ぎていて、きちんと理解してもらうのは無理っぽい。
どうしようかな?
「ウィン、時間がもったいない。要点だけ伝えろ。」
ルルさんも待っているのに飽きたようで乱暴なことを言ってくる。
でも確かに時間を無駄にしたくないので、ルルさんの指示に乗っかることにした。
「では要点を伝えます。ルルさんが風魔法の「大風」でフルーツバードを囲い込んだ後、風魔法の「風壁」と水魔法の「水玉」を併用しながら、ルルさんは拳で、僕は短剣で合計502体のフルーツバードを討伐しました。その後僕の従魔たちが解体、仕分け、回収作業をしていると、フルーツラプトルが3体現れて、従魔のディーくんが3体とも瞬殺しました。以上です。」
僕は一気にしゃべって一息ついた。
ネロさんとグラナータさんは身動きひとつしない。
呼吸さえしてないように見える。
大丈夫だろうか?
「依頼料は振り込みで。」
ルルさんはそう言うと僕の腕を持って立ち上がり、そのままギルド長室を後にした。
やっぱり最後は逃げ出すんですね。
しばらくしてネロさんの叫び声が聞こえたのも、前回と同じだった。
* * * * * *
「また逃げちゃいましたけど、いいんですか?」
「気にするな。問題ない。」
「ネロさん、また叫んでましたけど。」
「当たり前だ。ウィンの話をまともに聞いて叫ばない者などいない。」
「それ、貶してます?」
「褒めてるんだ。ウィンの当たり前は突き抜けている。凄いことだろう。」
ルルさんが迫力のある笑顔で僕を見る。
こうしてるとさすがAランク冒険者って感じで格好いいのに、あのグダグダなところも見てるから、なんか不思議な感じだ。
これって、「ギャップ萌え」ってやつなのか?
なぜ自分がそんな言葉を知ってるのかも謎だけど。
…お取り込み中すみません。クエストのお知らせです。…
○選択クエスト(水中・地中・空中)
クエスト : 冒険者ギルドの依頼を達成しろ
報酬 : 選択制
達成目標 : 依頼達成(10回)
カウント : 1/10
「中の女性」からクエストのお知らせが来た。
選択クエスト?
なんかまた新しいパターンが来た。
これ、どうすればいいの?
…選択制ですので、水中・地中・空中から1つ選んで下さい。…
なるほど、選べばいいのか。
よく分からないけど、いや分からないから悩むだけ無駄だな。
素直に最初のやつにしておこう。
「水中」でお願いします。
…了解しました。表示します。…
○選択クエスト(水中①)
クエスト : 冒険者ギルドの依頼を達成しろ
報酬 : 水中呼吸
達成目標 : 依頼達成(10回)
カウント : 1/10
おお、なんか使い勝手が良さそうなのが来た。
「水中呼吸」ってことは水の中で呼吸できるってことだよね。
冒険者ギルドの依頼をあと9回達成すればいいのか。
早速依頼を受けないと。
「ウィン、どうした?」
「新しいクエストが来ました。冒険者ギルドの依頼を9件受けたいんですけど、今すぐは戻りにくいですよね。」
たった今逃げ出して来たばかりだし、戻ってまたネロさんに捕まると面倒だし、どうしようかな。
「問題ないぞ。別の街のギルドで受ければいい。」
「別の街? あっそう言えば港街があるんですよね。」
「ポルトだな。小さい街だがギルド支部がある。」
「そこに行きましょう。」
港街ってことは魚とか貝とか甲殻類とか海藻とか、海産物がたくさんあるはず。
タコさんも喜ぶに違いない。
でも移動手段はどうしようかな。
「ルルさん、ポルトまではどれくらいの距離ですか?」
「そうだな、ここから農園までと同じくらいだな。方向は逆だが。」
「転移でも行けそうですけど、風魔法で走るのもありかと。」
「走ろう。」
ルルさん、即答でした。
風に乗って走る僕を見て気に入っただけあって、自分でも走ってみたかったんだろうな。
時間的に昼前くらいなので、通行人や馬車に気をつけないといけないけど。
「ウィン、『大風』を背中に当てる感じでいいのか?」
「いやいや、そんなことしたらすれ違う人も吹っ飛ばしちゃいますよ。小さい風を強めに当てる感じでお願いします。」
二人で街門を出てポルトへ向かう街道に立つ。
門を守っている兵士さんたちが敬礼してくれたので、見よう見まねで敬礼を返していると、その間にルルさんが先に走り出していた。
「ちょっと待って下さい。」
ルルさんはそれこそ風のように遠ざかっていく。
それにしてもルルさん、適応能力高過ぎ。
バランスもスピードも、もう完璧に制御してるように見える。
僕も急いで追いかけないと。
いざ港街ポルトへ。
海産物が僕たち(僕と従魔たち)を呼んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます