第85話 戦争好きの大国があるようです(冒険者ランク:とりあえずC)

第二章 葡萄の国と聖女(85)



85.戦争好きの大国があるようです(冒険者ランク:とりあえずC)



「パーティー・リーダーはウィンだから、ウィンが説明するのが筋だな。」 


ルルさんがそう断言した。

今回の説明の丸投げだけでなく、今後のすべてを丸投げするその言葉に僕は驚いてルルさんを見る。

しかし、驚いているのはこの場では僕一人だったようだ。


「ウィンよぉ、何を驚いてやがる。ルルにリーダーなんて面倒なもん、できるわきゃねーだろーが。頭ん中にゃ、闘うことしかねーんだからよぉ。」

「ウィン様、パーティー登録の書類上も、ウィン様がリーダーになっております。」


ネロさんとグラナータさんから追撃が来た。

実体上も形式上も僕がリーダーで確定らしい。

確かに、ルルさんにパーティーのリーダーができるかと訊かれれば、戦闘以外の部分は無理だと認めざるを得ない。

でもだからと言って、Fランクの僕がAランクのルルさんを差し置いてリーダーを名乗るのには抵抗がある。


その辺の僕の心の動きを読み取ったのか、ネロさんがフルーツバード討伐の説明を聞く前に別の話を振ってきた。


「ウィン、冒険者カードを出してくれ。ギルド長権限でランク変更を行う。てめぇは今からDランクだ。」

「Dランク・・・。」


FからEを飛ばしていきなりDランク。

まだ冒険者ギルドに初登録したばかりなのに、いいんだろうか?


「ウィン様、冒険者じゃなくても強者はたくさん存在します。ですから、初登録時にすでに実力が高いということもあるのです。ただ冒険者ギルドのルール上、最初は全員Fランクからスタートし、実力、人格、貢献度などを見定めて、必要があるとギルド長が認めた場合にはランク変更も可能なのです。」


なるほど。

グラナータさんの丁寧な説明のおかげでよく理解できた。

でも隣に座っている女性は納得できなかったようだ。


「黒山猫さ・・ギルド長、それはおかしい。」


ルルさん、今、ネロさんのこと「黒山猫さん」って呼びかけましたね。

たぶんルルさん、名前を覚えるのが苦手で見た目で呼び名を付けるタイプですね。

でも何がおかしいんだろう?


「ルル、ウィンのランク上げに文句あんのか?」

「当然だ。Dランクなんてあり得ない。Sランクを提案する。赤髪さんもそう思うだろう。」


ルルさん、それは無茶が過ぎると思います。

ほら、ネロさんとグラナータさん、固まっちゃいましたよ。

あと、グラナータさんは「赤髪さん」呼びなんですね。


「馬鹿ぁぬかしてんじゃねぇぞ、ルル。Sランクがどんなもんか、てめぇだってよく知ってるだろうが。」

「よく知っているから提案している。黒山猫さん、私のランクは何だ?」


あ、完全に「黒山猫さん」呼びになった。


「Aランクに決まってるだろうが。」

「私の戦闘における武器は何だ?」

「スピードと拳だろう。」

「ウィンは、スピードは私より早く、拳は現時点でほぼ互角だ。」

「「何だと(ですって)!」」


ネロさんとグラナータさんが同時に叫んだ。

でも拳はまだ互角とは言えないと思うけどな。

まあ最近はそれなりに殴り合えるようにはなってるけど。


「しかもそれは、魔法なしでの話だ。ウィンが魔法を使うと・・。」

「「使うと?」」

「私は100%瞬殺される。」

「「瞬殺!」」

「しかもウィンは軽く流す程度でだ。」

「「軽く流す程度で!」」


不謹慎だけどなんか見てて面白くなってきた。

それにしてもネロさんとグラナータさん、呼吸がピッタリだね。

驚くタイミングも使う言葉も。


「黒山猫さん、赤髪さん、これでSランクじゃないなら、私のAランクは何だ?」


ギルド長室内はしばらく静寂に包まれた。

ネロさんは腕を組んで考え込み、グラナータさんはネロさんの次の発言を待っている様子。

やがてネロさんが口を開いた。


「ルル、言ってることに嘘がねぇのは分かるがなぁ、この目で見ねぇことには、信じられねぇってのも正直なところだ。それとな、ギルド長権限での特例昇格はCランクが限度だ。」

「ルル様、Bランク以上は中央ギルド本部の承認が必要です。冒険者としての実績が十分であれば推薦すれば通ると思いますが・・・。ウィン様の場合は実績がありませんので確認のために中央本部に呼ばれると思います。」

「ルル、今の状態のウィンがセントラルへのこのこ顔を出しゃあ、あの国の王族が必ず目ぇつけるぞ。」


Bランク以上は、ネロさんが勝手に決められないってことは分かった。

冒険者ギルドを統括する本部があることも。

で、セントラルって何だろう?

話の流れとネーミング的に中央にある国で王族が面倒そうってことだろうか。


「それは確かに面倒だ。」


僕の考えを肯定するかのようにルルさんがそうつぶやいた。


「ウィンよぉ、戦争好きの大国の王族と関わりたいか?」

「いえ、そんな趣味はありません。」


ネロさんの問いかけに素直に答えた。

王族ってだけでも面倒そうなのに、「大国」で「戦争好き」って危な過ぎだよね。

この世界、もっと穏やかなところだと思ってたけど、そうでもないのかな。


「ハハハ、ウィンにかかると、戦争好きの大国も趣味の範疇なのだな。」


ルルさんが突然笑い出したのでどうしたんだろうと思ったら、僕の言葉の使い方がツボにはまったようだ。


「ウィンよぉ、そうは言っても奴らしつけぇぞ。てめぇのことがバレたら、どんなことしてでも戦力にしようとしてくんぞ。」

「逃げます。」

「てめぇは逃げれても、周りの親しいもん、質に取られたらどうすんだ?」

「助けます。」

「それでも諦めないと思うがな。」

「その場合は・・・」

「「その場合は?」」


ネロさんとのやり取りにここだけグラナータさんも参加。


「理不尽な敵は、殲滅します。」

「「!?」」


無意識に出た自分の言葉に自分で驚いた。

前の世界ではどうだったのか記憶がないけど、この世界での自分はかなり過激なのかもしれない。

倫理観もちょっと(かなり?)欠如してる感じ。


ネロさんとグラナータさんは座ったまま目を剥いている。

ルルさんは・・・なんか不敵に笑っている。


「ルル、こいつ、見た目と違って超危ねぇヤツじゃねぇのか。こんなのとパーティー組んで、でーじょうぶなのか。」

「何を言う、黒山猫さん。私との相性、完璧だろう。」


ネロさんとグラナータさんは同時に溜息をついた。

この二人ホントに仲が良いね。

ところで僕の冒険者ランクの話、どうなるんだろう?

別に僕自身はランクはどうでもいいんだけど。


「ということで、ウィン、不本意だがとりあえずCランクで我慢してくれ。」


ルルさんが僕を見ながら仕方がないという感じでそう告げた。

それをルルさんが言っちゃいます?

ランク決めはネロさんの権限だと思いますけど。


「ルル、てめぇ、何勝手に決めてやがる。」

「他の案があるのか?」

「ねぇよ。グラ、Cランク昇格で手続きしやがれ。」


こうして僕の冒険者ランクはあっさりCランクになった。

いいのかな、こんな言い加減な感じで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る