第81話 ハニちゃんの下位互換?(討伐クエスト:フルーツバード)

第二章 葡萄の国と聖女(81)



81.ハニちゃんの下位互換?(討伐クエスト:フルーツバード)



「ルルさん、近くまで転移陣で行きましょう。」


僕は冒険者ギルドを出ると、ルルさんにそう提案した。

南の森には行ったことはないけど、

『コロンの南の森、フルーツバードの群れがいる所』

と指定すれば多分大丈夫だろう。


「分かった。」


ルルさんはそう言うとすぐに僕の隣に立った。

冒険者ギルドの前にはたくさんの人たちがいて、ルルさんのせいで視線を集めているけど気にしない。

能力を隠すために手間をかけて、そのせいでいろいろ手遅れになったら嫌だからね。


「じゃあ行きます。転移陣。」


転移陣(単独)より少し大きくなった転移陣が二人の足元に現れる。

視界が少し揺れて、次の瞬間にはルルさんと僕は森の中にいた。

正確には森の中の木々が途切れて少し広場のようになっている場所。

地面の上には黄緑色の鳥が溢れかえり、周囲の木々の枝にも同じ鳥が鈴なりに留まっている。

どう見ても500体くらいはいるんじゃないだろうか。


え〜とこれ、フルーツバードの群れの真ん中なんですけど。

『フルーツバードの群れがいる所』って指定しちゃったから当然こうなるのか。


突然二人の人間が群れの真ん中に現れたので、フルーツバードたちは、一瞬呆気に取られたように静かになった後、一斉に騒ぎ出し飛び立った。


上空に逃げたフルーツバードたちを見上げながら、僕は魔物鑑定をかける。



フルーツバード ☆

 体型 : 小型

 体色 : 黄緑色

 食性 : 果実食

 生息地: 山・森に生息。

 特徴 : 果実類を求めて移動する。

      通常は単独で行動する。

      果実が多い場所では群れを作ることもある。

      攻撃的ではないが敵に対しては反撃する。

      嘴による突撃、鋭い鉤爪による引っ掻きで攻撃する。

      可食(手羽先・手羽元が美味)

 特技 : 飛行・突撃・引っ掻き



鑑定結果をざっと見たところ、ハニちゃんの下位互換って感じかな。

ハニちゃんの毒針のような遠距離&状態異常攻撃がないので、対処は楽かもしれない。

ただこの数だと、普通は近距離攻撃だけでも脅威になるのは間違いない。


「ウィン、始めるぞ。」


ルルさんが戦闘開始を告げる。

ルルさんは、基本が拳専門なので本来なら飛行系の魔物とは相性が悪い。

でも今のルルさんはちょっと違う。

実はすでに『水クエスト』に加えて『風クエスト』も習得している。

ディーくんの訓練の休憩時間に散々練習したので、『水』も『風』も

形態制限まで解除済みだ。



 クエスト : WATER

 報酬   : 水(NO LIMIT 個数・規模・形態)

 達成目標 : 水クエスト(1000回)

 カウント : 達成済み

 受注者  : ルル


 クエスト : WIND

 報酬   : 風(NO LIMIT 個数・規模・形態)

 達成目標 : 風クエスト(1000回)

 カウント : 達成済み

 受注者  : ルル



風クエストの初期達成目標の『大好きと叫ぶ』については、僕に向かって叫ぼうとしたので、丁重にお断りして島の浜辺で海に向かって叫んでもらった。

聖女が真面目な顔で海に向かって「大好き」と何度も叫んでる姿は、何と言うか、見た目だけは神々しさに満ちていた。

聖女の呼びかけに応えて、海から海神様が出てくるんじゃないかと思ったくらい。



「大風!」


ルルさんが『風』の形態変化の1つ『大風』を発動する。

強い風が周囲から中心へ、上空から下へと吹き荒れ、バラバラに逃げ出そうとしていたフルーツバードたちを僕たちの方へ吹き寄せる。

フルーツバードはカラスくらいの大きさなので、風を突っ切って逃げるだけのパワーはなさそうだった。


逃げ出すのを諦めたフルーツバードたちは、今度はこちらを攻撃することにしたらしい。

翼をたたみ、体を矢のような形にして二人に向かって殺到してくる。


「「風壁!」」


ルルさんと僕は同時に風の壁を自分たちの周りに展開した。

いちいち叫ぶ必要はないんだけど、二人で戦う時はお互いが何をしているか分かりやすいように発声することにしている。


突っ込んできたフルーツバードが『風壁』に当たって体勢を崩す。

『風壁』は『石壁』ほどの頑丈さはないが相手の動きを乱すことはできる。


ルルさんは体勢が崩れた鳥たちを狙って拳の一撃で屠っていく。

ルルさんの戦闘思考はすべていかにして殴るか。

魔法はそのお膳立てをするための道具に過ぎない。

さすが『鋼の拳闘士』(+戦闘狂)。


一方の僕は拳にはそれほど自信がないので、動きが乱れた鳥たちを短剣(黒)で仕留めていく。

『炎』で燃やしてもいいんだけど、鑑定結果に気になる記述があったので今回は『炎』は自粛した。


『可食(手羽先・手羽元が美味)』


黒焦げにしちゃうと食べられないからね。

フルーツだけ食べてる鳥のお肉って、美味しそうじゃない?


群れ全体の半分くらい討伐したところで、フルーツバードたちの攻撃が止まった。

さすがに闇雲に突っ込んでも倒されるだけだと理解したのだろう。

ただ逃げようにも『大風』で戻されるので逃げられず、戸惑った感じで空中でホバリングしている。


「次は水玉で行く。」


ルルさんが作戦変更を告げると同時に複数の『水玉』を発動した。

空中にいるフルーツバードたちが次々に水の塊に包まれて、羽ばたくことができずに落下してくる。

ルルさんは敏捷のスキルを使って走り回り、『水玉』の中でもがきながら落ちて来る鳥たちを左右の拳で撃ち抜いていった。


これはもう、討伐というより何かのゲームみたいだね。

上から落ちてくる物体が地面に着く前に殴れ、みたいな。

そんなことを思いながら、僕もルルさんに続いて『水玉』でフルーツバードを落とし、短剣(黒)でとどめを刺していった。


最後にはヤケクソ気味に特攻してきたフルーツバードたちを拳と短剣(黒)で処理して、無事にフルーツバードの群れの討伐が終了した。

数が多かった割りにはそれほど時間はかからなかった。



…討伐クエストを達成しましたので表示させて頂きます。なお、受注者の個人指定がありませんのでパーティーとしての討伐数はすべてリーダーであるウィン様のカウントになります。…


○討伐クエスト 

 クエスト : フルーツバードを倒せ

 報酬   : 果実の種(10個)

 達成目標 : フルーツバード(5体)

 カウント : 2/5(100回達成済み)



「中の女性」から討伐クエスト達成のお知らせが来た。

カウントの数値を見ると倒した数の合計は502体。

ルルさんの受注者指定をしなかったので、全て僕のカウントになるようだ。


報酬は果実の種。

クエスト100回分×10個で1000個の種を獲得。

実じゃなくて種ってことは、食用というより栽培用なのかな。

後で植物鑑定で見てみよう。

ん? 種って植物鑑定の対象だよね。


後じゃなくて今すぐ植物鑑定してみようかと思い直していると、さらに別のクエストが表示された。



○短剣クエスト

 クエスト : 短剣を成長させろ

 報酬   : 剣(黒)

 達成目標 : 魔物を倒す(1000体) 

 カウント : 達成済み



いつの間にか短剣クエストを達成していたようだ。

でも手に持っている短剣(黒)は短剣のままだ。

これ、どうすればいいんだろう?


…短剣(黒)を成長させますか?…


「お願いします。」


疑問に首を傾げていると「中の女性」から確認のメッセージが来たのですぐに承諾の返事をした。

すると手の中の短剣(黒)がぼんやりと光り始め、やがて光の塊になり、徐々にその形を変え始める。

やがて光が消えると、僕の手の中には元の倍くらいの長さになった黒い剣が残されていた。


…今後、短剣と剣の両方使用することができます。さらに次のクエストを表示します。…


○剣クエスト

 クエスト : 剣を成長させろ

 報酬   : 長剣(黒)

 達成目標 : 魔物を倒す(2000体)

 カウント : 1215/2000



「中の女性」から追加説明と次のクエストが表示された。


剣の次は長剣に成長するのか。

それよりも『短剣と剣の両方』というのはどういう意味だろう。

僕の手の中には一振りの黒い剣しかない。

これまでのパターンから推測すると、念じればいいのかな。


僕は心の中で『短剣』と念じてみた。

すると剣は一瞬で短剣に変化した。

続いて『剣』と念じてみると、すぐに剣に戻った。

推測は正しかったようだ。

これで武器の使い分けができる。

まだ2種類だけだけど。



ルルさんと二人で戦闘の跡を眺める。

森の中の広場には討伐したフルーツバードが辺り一面に敷き詰められたように落ちている。


この状況ってどうしたらいいのかな。

このまま放置ってわけにもいかないよね。

ウサくんに『影潜り』で運んでもらおうか。

そう考えて大事なことを思い出した。


従魔たちを呼び出すの、忘れてた。

まあ、今から呼べばいいか。

戦闘は終わっちゃったけど、後始末をお願いしよう。

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