第82話 ちょっと大きいのが来ました(討伐クエスト:フルーツラプトル)

第二章 葡萄の国と聖女(82)



82.ちょっと大きいのが来ました(討伐クエスト:フルーツラプトル)



「従魔全員、召喚!」


僕が叫ぶと、7人の従魔たちが全員横並びで現れた。

タコさんだけ、なぜかひっくり返ってるけど大丈夫?


「あるじ〜、もう終わったの〜?」


ディーくんがフルーツバードで埋まっている広場を見ながら話しかけてきた。


「一応終わったよ。500体くらいあるけど、後始末頼んでもいい?」

「いいよ〜。これだとラクちゃんとウサくんに頼めばいいかな〜。」


ラクちゃんとウサくん?

ウサくんは分かるけど、なぜラクちゃん?

糸で束ねたりするのかな。


そう思って見ていると、ラクちゃんが両方の鎌をシャキンと構えて地面に落ちているフルーツバードのほうへ向かって行った。


えっ、解体してる!?

しかも物凄く速い。

そうか、ラクちゃん、生活特技に『解体』があったんだっけ。

すっかり忘れてた。


目の前のフルーツバードたちが、あっという間に嘴と爪と羽と鳥肉と骨に分けられていく。

ラクちゃんの後ろをコンちゃんがついて回りながら、蔓を使って器用に部位ごとに仕分けしている。

そしてある程度各部位が集まると、ウサくんが『影潜り』で運び去る。

なんという洗練された流れ作業。

全部うちの倉庫行きだな。


「ウィンの従魔たちは・・・便利だな。」


僕の隣でその作業を見ていたルルさんがボソリと呟いた。

いや便利というか、こんなことができるって僕も認識してませんでした。

自分の従魔たちだけど、把握してないことが多過ぎてすみません。


ハニちゃんとスラちゃんは、果実の種が気になるらしく、山と積まれた達成報酬にチョンチョンと触れたりしてる。

タコさんは・・・僕の顔を見上げて3本の足で三角形を作って見せた。


はいはい、おにぎりね。

タコさん、たまに凄いと思うけど、それ以外はほとんどダメダメだね。

筆頭従魔なのにそれでいいの?

どちらかというと、ディーくんが筆頭みたいだけど。


そう思ってディーくんはどこだろうと探してみると、僕の隣にいたはずのルルさんと拳を交えて訓練しているのが見えた。


戦闘狂は、まったく。

目を離すとすぐ戦闘訓練してる。

でも今日は訓練クエストのカウント外だよね。

ディーくん、安息日は休みって言ってたし。


森の中の広場に視線を戻すと、もう半分くらい解体作業が済んでいた。

ラクちゃんの解体、コンちゃんの仕分け、ウサくんの運搬、このトリプルコンボは半端ない。

おにぎりを3つ持ってムシャムシャしてるタコさんも、ちょっと見習った方がいいと思う。


しばらく眺めていると、あっという間にフルーツバードたちの処理が終わってしまった。

最後にウサくんが果実の種の山を『影潜り』で地面の下に沈めていく。

これで森の中の広場は、魔物討伐など無かったかのように普通の状態に戻った。


果実の種が運び去られたので、ハニちゃんとスラちゃんが僕の方に戻って来る。

ハニちゃんはパタパタ、スラちゃんはチョロチョロって感じで。

でも途中で、突然スラちゃんの動きが止まり、一拍おいて鋭い鳴き声を発した。


「リン(大きいの)! リン(上)!」


スラちゃんの警戒音に反応して上を見上げると、前方の森の木々の上空に人間より一回り大きいくらいの鳥が三体、飛んでいるのが見えた。


僕はすぐに魔物鑑定を発動する。



フルーツラプトル ☆☆

 体型 : 中型

 体色 : 橙色

 食性 : 雑食(果実を好む)

 生息地: 山・森に生息。

 特徴 : 果実類を求めて移動する。

      果実好きだが肉も食べる。

      単独で行動する。

      好戦的で人を襲う。

      翼から風刃(風魔法)を飛ばす。

      口から音波を発し耳と脳を揺さぶる。

      可食(腿肉が美味)

 特技 : 飛行・風刃・音波



「あれはフルーツラプトルだ。襲ってくるぞ。」


いつの間にかルルさんが隣に来ていた。

その隣にはディーくんもいる。

特技に『風刃(風魔法)』がある。

魔物って魔法が使えるのもいるんだ。

あと『脳を揺さぶる音波』!?

これ、結構強くない?


「ウィン、遠距離から攻撃が来る。予備動作をよく見ろ。」

「予備動作?」


ルルさん、よく見ろって言われてもその予備動作を知らないんですが。


「風刃が来る。」


ルルさんがよく分かって無さそうな僕に警告してくれた。

フルーツラプトル3体のうち1体が上体を起こし、両方の翼を大きく前方にはためかせる。

はっきりは見えないけど、何かがこちらに向かって飛んでくるのが感覚で分かった。

幸いスピードはそれほど速くない。

僕は難なくその『風刃』をかわした。


「飛行中に上体を起こしたら風刃だ。」

「音波は?」


ルルさん、事後ではなく事前に予備動作を教えてくれた方が楽なんですけど。

ルルさんから答えが返ってこないので、3体のフルーツラプトルの動きを観察していると、『風刃』を放った個体とは別の個体が、大きく首を振るのが見えた。


「音波が来る。」


再びルルさんから警告。

僕は首を大きく振った個体から『音波』が来ると予想して、その嘴が向いている射線から体をずらした。

直後に僕の体の横を空気の波のようなものが通り過ぎ、その瞬間、耳がキーンとなった。

完全にはかわし切れなかったようだ。


でも予備動作が分かってしまえば、攻撃を避けるのはそんなに難しくない。

そろそろ反撃しようかなと思っているとディーくんから声がかかった。


「あるじ〜、今日はまだ働いてないから、あれやっちゃっていいかな〜?」

「いいよ。」


どうぞディーくん、やっちゃって下さい。

でもディーくん、確か遠距離攻撃は無いんじゃなかったっけ。

フルーツラプトル、結構高いところ飛んでるけど。


「じゃあ、行ってくるね〜」


ディーくんはそう言い残すと、目の前から一瞬で消えた。

慌てて上空のフルーツラプトルに目を移すと、3体の真上にディーくんが現れ、手に持った刀(?)のようなものを振った。

3体のフルーツラプトルだったものは、それぞれ真っ二つに切断され、半体×6になって森の木々の中に落ちていった。


「あるじ〜、終わったよ〜」


呆気に取られて落ちていく魔物だったものを見ていると、隣からディーくんの声がした。

そこには、ずっとそこにいたかのようにディーくんがいた。


「ディーくん、今のは?」

「転移と剣術だよ〜」

「なんか刀みたいなの持ってなかった?」

「それは秘密だよ〜。冒険者の秘匿事項だよ〜。」


ディーくん、凄過ぎて言葉もないけど、説明をもう少ししてくれないかな。

主人に対して秘匿事項ってどういうこと?

それにディーくん、従魔であって冒険者じゃないからね。

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