第72話 何事にも裏技があるようです(状態異常回復:ウサくん)

第二章 葡萄の国と聖女(72)



72.何事にも裏技があるようです(状態異常回復:ウサくん)



○鑑定クエスト

 クエスト : 酒をイッキしろ②

 報酬   : 酒鑑定(中級)

 達成目標 : 酒の一気飲み(50回)

 鑑定項目 : 酒ランク(B〜E)・種類・作り手・度数

 カウント : 21/50



(さすがにちょっと飲み過ぎたかも。)


ルルさんがアリーチェさんに回収された後、何杯かワインを一気飲みしていると、だんだん酔いが回ってきた。

周囲の喧騒が心地良くなり、少し眠気を感じる。

イッキ・カウントは21/50。

そろそろ限界かな。


少しふらふらする視界で陽気にお酒を酌み交わす人たちを眺めていると、膝の上に重さを感じた。

(タコさんかな?)と思って見ると、そこにはウサくんがいた。


ウサくんは(大丈夫?)って感じで首を傾げて見せる。

従魔たちはみんな念話ができるみたいだけど、それぞれ得意不得意や好き嫌いがあるようで、ウサくんもどうしても必要な時以外は身振り手振りで伝えてくる。

まあウサくんは、しゃべれるんだけどね。


「ちょっと、酔ったかな。」


僕がそう返すとウサくんは短い右前足で自分のツノを指し示した。


「ヒールをかけてくれるってこと?」


僕が確認するとウサくんはふんふんと二度頷いた。

僕は深く考えずにお願いすることにした。

体の疲れが取れるかなくらいのつもりで。


ウサくんのツノが光の粒子で包まれる。

そしてその粒子が僕の体に流れ込んでくるのが分かる。

全身が暖かくなり、不要な物をすべて洗い流すような感覚が拡がる。

とても気持ちがいい。


ヒールの暖かさが体の中から消えると僕の状態はリセットされたように元気になっていた。

そして当然のように、酔いも消えていた。


(酔いは酩酊、つまり状態異常。だからヒールで消すことができる。そういうことでしょうか、ウサくん?)


ウサくんに確認すると、ウサくんは再びふんふんと頷いた。


ということは、酔っ払うまでイッキしてウサくんにヒールを掛けてもらえば、あっという間に酒鑑定のレベルを上げられるってことだよね。

でも酒鑑定のレベル上げのためだけに、無駄にマッテオさんのワインを消費するのはちょっと気が引けるな。


そんなことを考えていると、ルルさんが真剣な表情でこちらに向かって来るのが見えた。


「ウィン、今のはなんだ?」

「はいっ?」

「今、ヒールを使わなかったか?」

「はい。」

「ウィン、ヒールも使えるのか?」

「使えません。」


ルルさん、顔が近いです。

それと勢いが凄すぎて詳しく説明する暇がありません。


「どういうことだ?」

「ヒールができるのはウサくんです。」

「それは誰だ?」

「この子です。」


僕はそう言いながらウサくんを抱え上げてルルさんの目の前に突き出した。

ウサくんは抱え上げられながら、何かをもぐもぐしている。

従魔たちは小屋の中で一通りルルさんに紹介したけど、ルルさんは名前を覚えるのが苦手なようだ。


「何を言っている? 魔物・・・従魔がヒールを使えるわけがないだろう。」

「ウサくん、使ってますよ。いつも。」

「なんだと!」


ルルさんはそのまま黙り込んでしまった。

そしてもぐもぐしているウサくんをじっと見つめている。


「ルルさん、もしかして、ヒールって凄いんですか?」

「当たり前だ!・・・いやでも従魔がヒールを使えるとか・・・これもウィンの当たり前・・・なのか?」


その口癖、忘れてくれないかなあ。

でも今はそれよりヒールの情報を聞かないと。


「ルルさんは、『聖女』ですよね?」

「そうだ。」

「ヒールはルルさんのスキルにないですよね。」

「ない。いつか獲得したいとは思うが。」

「ヒールはどうやって手に入れるんですか?」

「治癒と浄化と回復の統合スキルだ。私には回復がない。」


ルルさんの簡潔な説明では今ひとつ情報が足りないので、1つ1つ丁寧に聞いていったところ次のようなことが判明した。



治癒(初・中・上・極) : 怪我・病気を治療する。


浄化(初・中・上・極) : 身体及び精神の汚れを清める。

              状態異常を治す。

 

回復(初・中・上・極) : 体力・魔力を回復させる。


ヒール : 治癒・浄化・回復の統合スキル。

      それぞれ上級以上のレベルが必要。



薄々分かったてけど、ヒールって回復系としては万能なんだね。

ヒール持ちのウサくんって、さすが星3つの魔物ってことかな。

もぐもぐしてるとそんなふうには見えないんだけど。

持ち上げたウサくんを膝の上に戻してなでなでしていると、ルルさんがボソリと呟いた。


「師匠が・・・二人に・・・」


師匠?

どういう意味だろう?

少し考えて分かった気がしたけど、念のため確認してみる。


「ルルさん、師匠って誰のこと?」

「戦闘の師匠クマさんとヒールの師匠ウサギさんだ。」


やっぱりか。

ルルさん、まさかの従魔たちを師匠認定。

でもルルさん、師匠とまで言うなら名前はきちんと覚えましょう。

ディーくんとウサくんです。

クマさんとウサギさんではありません。


「ルルちゃん、ちょっと目を離すとまたウィン君のところに来ちゃうのね。しょうがないわねぇ。あら、かわいいウサギさんね。ウィンくんの従魔の子たちって、みんな可愛いわ。」


ルルさんに改めて従魔たちの名前について指摘しようとしてると、再びアリーチェさんが登場した。

従魔たちを褒められてちょっと嬉しくなる。

それに聞きたいことがあったのでちょうど良かった。


「ありがとうございます。ところでアリーチェさん、マッテオさんはまだ大丈夫でしょうか? ちょっと仕事の話がしたいんですけど。」

「あの人は・・・あそこのテーブルで飲んでるわね。まだ全然大丈夫よ。ルルちゃんのことは私に任せていってらっしゃい。」


僕はアリーチェさんの言葉に甘えてマッテオさんがいるテーブルに向かった。

ルルさんはアリーチェさんに抱きつかれて(捕縛されて)動けなくなっていた。


「マッテオさん。」

「おお、どうしたウィン君。」

「ちょっとお願いがあります。」

「そうか、遠慮なく何でも言ってくれ。ウィン君はこの農園の救世主だからな。」


マッテオさんは豪快に笑いながら先を促して来る。

僕はちょっと前に思いついたことをそのまま伝えることにした。


「マッテオさん、ワインを売ってもらえませんか?」

「ワインを? もちろん構わないが今日の分は魔物討伐のお礼だし、まだまだあるから飲んでくれていいんだぞ。」

「はい、今夜は遠慮なく甘えさせて頂きます。ただそれとは別にきちんと購入もしたいんです。いいですか?」

「もちろんだ。そう言ってくれるのは作り手としてとても嬉しい。で、何本買ってくれるのかな?」


あっ、何本買うか考えてなかった。

普通はどんな買い方をするんだろう?

こういう時、常識が分からないととても困る。

さて何本買おうかな?

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