第73話 たくさん集めようと思います(クエスト:貯蔵庫が欲しい)
第二章 葡萄の国と聖女(73)
73.たくさん集めようと思います(クエスト:貯蔵庫が欲しい)
「で、何本買ってくれるのかな?」
マッテオさんにそう訊かれて、何本買うか考えてなかったことに気付いた。
どうしようかな。
とりあえずざっくりでいいか。
「え〜と、白と赤、100本ずつ?」
僕の疑問形の返答を聞いてマッテオさんが真顔になる。
「ちょっと待とうか、ウィン君。10本ずつじゃなくて、100本ずつなのか? 合計200本になるぞ。」
「多過ぎます?」
「いや、こちらとしてはありがたいが・・・失礼な言い方だが、ウィン君、お金を持ってなかっただろう。」
そうですよね。
お金を一銭(1鉄貨)も持ってなくて、昨日マッテオさんに薬草を買ってもらったんだった。
マッテオさんからしたら、僕は今、銀貨1枚しか持っていないはずなんだよね。
実際は商業ギルドで聖薬草を50束売ったので銀貨50枚追加されてるんだけど。
「実は今、銀貨51枚持ってます。」
「!?」
マッテオさんが目を見張った。
そりゃ驚くよね。
記憶もなくてこの世界のことを何も知らない僕が1日で銀貨50枚稼ぐなんて、どう考えてもおかしいからね。
「ウィン君、それは冒険者として何か高額な依頼を達成してきたってことなのか?」
「いえ、商業ギルドで薬草を売って来ました。」
「薬草を売って銀貨50枚! いったいどれだけの薬草を売ったんだい?」
「50束です。」
そこでマッテオさんは言葉を止め、考え込んだ。
嘘をつきたくないので正直に言ってしまったけど、この会話の行き先は想像できた。
「ウィン君、50束で銀貨50枚ということは、1束で銀貨1枚。つまり昨日買い取らせてもらった薬草はそれだけの価値があるということだな。ウィン君、約束通り差額の銀貨4枚、きちんと払わせてもらうよ。」
やっぱりそうなりますよね。
マッテオさんの性格からすれば当然の結果ですよね。
でもこれだけお世話になりながら、さらに差額を受け取るというのはちょっとなあ。
「ウィン君、まだ知り合ったばかりだが君の性格からして差額を受け取りたくないと思っているのはよく分かる。でもな、私もワイン醸造家とは言え、ワインを売っている商売人の一人だ。だから不公平な取引に甘んじることはできないんだよ。だからこうしようじゃないか。明日、君にワインを売る。その時に銀貨4枚分のワインを上乗せさせてもらいたい。これでどうだろう。」
マッテオさんは僕の目を見ながらそう提案してきた。
お金でもらうのもワインでもらうのも結局は同じことだけど、気分的にはまだワインの方が受け入れられる。
ここは意地を張る場面じゃないよな。
「分かりました。それでお願いします。」
「了解してくれて良かった。じゃあ正式な取引は明日にしよう。今夜はとりあえず飲むぞ。」
笑顔に戻ったマッテオさんを見ると、いつの間にか両手にワインのボトルを持っていた。
* * * * * *
翌日の早朝、僕は葡萄農園の中を走ることにした。
小屋の中にお酒用の貯蔵庫を新設するためだ。
島以外で小屋の改造(部屋の追加)を行うのは初めてだったので、「中の女性」にお伺いを立ててみると次のようなクエストが表示された。
○HOME系クエスト
クエスト : 貯蔵庫が欲しい
報酬 : 貯蔵庫(基本×16)
達成目標 : 持久走(2時間)
貯蔵庫の大きさは最初から基本の16倍でお願いした。
倉庫系は16倍が基本になりつつある。
お酒を集める気満々の大きさだよね。
達成目標はいつもの「5秒間ダッシュ」ではなく持久走と表示されていた。
なぜ達成目標が変化したんだろうと考えていると「中の女性」のメッセージが流れた。
…ウィン様(ポッ)には、持久力もつけて頂きたいので(赤面)…
もう何度言っても止めないので(ポッ)とか(赤面)とかの表示は放置するとして、クエストの達成目標って実はルールがないんじゃないかと思う。
「中のヒト」や「中の女性」の匙加減で自由自在に決めてるとしか思えない。
ただ、島では瞬発力を伸ばすため、ここでは持久力を高めるためと考えれば、合理的なトレーニングなのかな?
ちなみに昨夜は、宴会が終わった後に一騒動あった。
ルルさんを小屋経由で教会に送ろうしたら、ルルさんが強硬に拒否したのだ。
「私は一人では帰らない。ウィンと一緒にいる。」
このセリフを聞いた女性陣が大騒ぎしたのは言うまでもない。
仕方がないのでアリーチェさんに頼んでルルさんの部屋を用意してもらい、僕は誤解を避けるために従魔たちと一緒に自分の小屋で寝ることにした。
「ウィン君、夜中にこっそりルルちゃんの部屋にいっちゃダメよ。階段を上がってすぐ右側の部屋だからね。」
そんなことはしません。
て言うか、アリーチェさん完全に面白がってますよね。
ルルさんの部屋の場所の説明とか必要ありませんから。
それからルルさんは戦闘訓練にもこだわった。
「ウィン、今すぐ(戦闘訓練を)やろう。もう待ちきれない。」
当然女性陣の騒ぎのボルテージはさらに上がり、僕はルルさんをアリーチェさんに丸投げしてその場を逃げ出した。
まだ薄暗い早朝の葡萄農園を黙々と走る。
早起きしたつもりだけど農園で働く人たちはもう動き始めていた。
みんな昨日の魔物退治とその後の宴会に参加していたので、すれ違うと声をかけてくれる。
「昨日はありがとう。」
「ウィンさんがいてくれて助かったわ。」
「ルル様と話ができて幸せでした。」
「従魔さんたち、可愛いですね。」
それぞれに作業の手を止めて笑顔で言葉を投げかけてくれる。
一人っきっりで島にいた時とは大違いだ。
まあ、従魔たちがいたから、島でも寂しくはなかったけどね。
しばらく走っていると後ろから足音が近付いて来た。
「あるじ〜。それが終わったら島で訓練するよ〜。」
ディーくんが軽やかに走りながらそう言った。
小さいのにあっという間に僕に並んで同じペースで付いてくる。
「敏捷」のスキル持ちだし当たり前か。
「それって、ルルさんも一緒でもいいの?」
「大丈夫だよ〜。二人一緒に面倒見るよ〜。」
絶対にルルさんがついて来るだろうと思ってそう聞くとディーくんはあっさり了解してくれた。
たぶんこれから毎朝ディーくんの訓練を受けることになるんだろうな。
ルルさんの喜ぶ顔が想像できる。
ディーくんと仲良く並んで走っていると「中の女性」のメッセージが流れた。
…クエスト達成です。表示します。…
○HOME系クエスト
クエスト : 貯蔵庫が欲しい
報酬 : 貯蔵庫(基本×16)
達成目標 : 持久走(2時間)
カウント : 達成済み
無難に2時間の持久走が終了した。
基礎体力が上がっているせいか、息が苦しくなることもなかった。
時計がないので終了時点できちんと通知をくれる「中の女性」の存在はありがたい。
ディーくんと二人で小屋に戻ると、他の従魔たちはすでに起きていて、それぞれに朝ご飯の準備をしていた。
準備といっても彼らは料理ができるわけじゃないので、ダイニングテーブルの上に各自の食材を並べてるだけだ。
でも君たち、それ、テーブルに並べる必要ないよね。
コンちゃん、ガラスのお皿に虫を並べるのって、シュール過ぎだと思うよ。
僕は食事の前に、追加された貯蔵庫を確認したくて新しい扉がないかとリビングの壁を見回した。
あれっ、扉が増えてないな。
どうしてだろう?
不思議に思っているとコンちゃんが右手の蔓を伸ばして、床の一部をツンツンした。
その場所を確認すると大きめの四角い枠があり、そこが跳ね上げ式の扉になっていた。
貯蔵庫だけに、地下にあるんだね。
それからお酒の貯蔵庫だけに、担当は(酒好きっぽい)コンちゃんなのかな。
その蔓があれば、お酒のボトルを並べるのも簡単そうだしね。
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