第56話 負けん気を発動します(クエスト:植物鑑定)

第二章 葡萄の国と聖女(56)



56.負けん気を発動します(クエスト:植物鑑定)



「ところでウィン殿、聖薬草、まだあったりするかのう?」

「えっ?」


ジャコモさんの言葉は、一応質問の体をとっているけど、明らかに「まだ持ってるよね」と確信している響きだった。

心の準備ができていなかった僕は、とても間抜けな返事をしてしまい、まあなんて言うか、バレバレな感じ。

他の薬草も出せることが分かったので、普通の薬草を出して誤魔化そうと思っていたけど無理っぽい。


ジャコモさんはまっすぐに僕の目を見つめてくる。

その眼力に耐えきれず、僕は白旗を上げてしまう。


「は、はい・・もう少し・・あります・・」

「フォッフォッフォッ、やはりのう、ウィン殿は星に深く愛されとるようじゃ。で、売ってくれるかのう?」


僕のたどたどしい返事を聞いて大笑した後、すぐに切り込んでくるジャコモさん。

失敗した。

柔らかい雰囲気のせいで甘く見ていた。

商人ギルドの買取主任兼副ギルド長の肩書きは伊達じゃない。

この世界の商人、怖いです。


僕は返事をする前に自分の気持ちを落ち着かせる。

やられっぱなしは嫌いなので少しでもやり返したい。

負けん気発動だ。

とりあえずジャコモさんに人物鑑定を発動する。



名前 : ジャコモ(70歳) 男性

種族 : ドワーフ族

職業 : 商人ギルド職員・商人・鑑定士

スキル: 植物鑑定(上級)・鉱石鑑定(上級)・武具鑑定(上級)

     人物鑑定(中級)・算術・交渉

魔力 : 80



ジャコモさん、鑑定スキルを4種類も持ってる。

しかも上級3つに中級が1つ。

さすが商人ギルドの副ギルド長で買取主任なだけのことはある。

植物鑑定中級のマッテオさんが聖薬草を見抜けなかったってことは、上級じゃないと分からないのかもしれない。

さて、こちらからも反撃させてもらおうかな。


「ジャコモさん、聖薬草、どれくらい必要ですか?」

「できれば、あるだけ買い取りたいんじゃが、いくつくらいあるかのう?」


ジャコモさんは余裕の笑顔だ。

まあ、僕の鞄を見る限り、そんなにたくさん入っているようには見えないからね。


「では、カウンターの上に出しますね。」


僕はそう言うと鞄から聖薬草の束を取り出して置いていく。

もちろん鞄の中で薬草クエストを発動している。

最初の1つを含め、聖薬草の束が5個カウンターに積まれたところで、ジャコモさんの顔から笑顔が消える。

さらに追加で聖薬草を5個取り出すと、ジャコモさんが堪らず声を上げた。


「ちょっと待つんじゃ。ウィン殿、それはマジックバッグじゃな。」

「そうですよ。」

「それにこの薬草の束は・・・ぬぅ、確かに全て聖薬草じゃ。」


ジャコモさんの焦った顔が見られたので少し溜飲が下がる。

正確にはマジックバッグからではなく、クエストで聖薬草を出しているんだけど、そこは説明しない。

聖薬草を10個出した時点で薬草を10回売ったと判定されたようでクエストが表示された。



○鑑定クエスト

 クエスト : 薬草を売れ①

 報酬   : 植物鑑定(初級)

 達成目標 : 薬草を売る(10回)

 カウント : 達成済み


○鑑定クエスト

 クエスト : 薬草を売れ②

 報酬   : 植物鑑定(中級)

 達成目標 : 薬草を売る(50回)

 カウント : 10/50

 

植物鑑定(初級)を獲得することができた。

新たに植物鑑定(中級)を獲得するためのクエストも表示されている。


呆気に取られて言葉を失っているジャコモさんの顔を見ながら、僕はニヤリと悪い笑顔を浮かべる。

まだ終わりじゃないよ。

心の中でそうつぶやきながら、鞄から聖薬草を取り出す作業を続ける。


買取カウンターの上に聖薬草の束が積み上がるにつれて、異変に気付いたギルド職員たちが徐々に集まり始めた。

商人ギルド内の他の人たちもざわつき始めている。

もうこれくらいにしておこうかな。

そう考えて僕は50個目の聖薬草をカウンターの上に置いた。 

同時に視界の中にクエストが表示される。



○鑑定クエスト

 クエスト : 薬草を売れ②

 報酬   : 植物鑑定(中級)

 達成目標 : 薬草を売る(50回)

 カウント : 達成済み


○鑑定クエスト

 クエスト : 薬草を売れ③

 報酬   : 植物鑑定(上級)

 達成目標 : 薬草を売る(100回)

 カウント : 50/100


「ウィン殿、降参じゃよ。」


ジャコモさんは両手を上げて降参の意思を態度で示しながら言葉を続ける。


「余計な駆け引きをしてしもうた。いや、正直に言わんといかんな。ウィン殿を侮ってしもうた。申し訳ない。まだまだ人を見る目を磨かんといかんのう。」


ジャコモさんはそう言いながらトレイを僕の方に差し出す。

トレイの上を見ると、そこには金貨4枚と銀貨9枚が載せられていた。

聖薬草49束分の代金だ。

ジャコモさん、言ってることは弱ってる風でも、行動はどこまでも抜け目がない。

どんどん出て来る聖薬草に驚きながらも、束の数はきちんと数えて代金を準備していたらしい。


「ウィン殿、心から感謝申し上げる。聖薬草がこれだけあれば、どれだけの者たちを助けられることか。これからも良き取り引きを。」

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします。」


ジャコモさんの口調が真剣なものに変わったので、僕も真面目に応答する。

子供じみた仕返しだったけど、聖薬草ならたくさん出しても誰かの役に立つだろうと思ったからやってしまった。

自重しないのかって?

その時の気分かな。


「それにしてもルル様、良き相方を見つけらましたなあ。」

「私は物は分からんが、人は分かる。」


ルルさんが後ろにいるのをすっかり忘れていた。

そしてジャコモさんとルルさんが普通に会話している。

二人は知り合いだったんですね。

ルルさん、この街の有名人みたいだから、当然と言えば当然か。


「ウィンは、ビックリ箱だな。次はどこに行く?」


ルルさん、『ビックリ箱』は褒め言葉ですよね?

まさかディスってませんよね?


最後にジャコモさんから、何か鋭い気配が飛んで来たけど、害意は感じなかったので無視することにして、商人ギルトを後にした。

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