第55話 高価な薬草だったようです(薬草クエスト:再構成)

第二章 葡萄の国と聖女(55)



55.高価な薬草だったようです。(薬草クエスト:再構成)



「この薬草をどうやって手に入れたか、教えてもらうことはできんかのう?」


受取カウンターの男性がそう尋ねてきた。

口調は淡々としているけど、目元の表情から真剣さが伝わってくる。

どう答えたものかと考えながら黙っていると、商人ギルドの中に入って初めてルルさんが口を開いた。


「申し訳ないが、冒険者の秘匿事項だ。」


なるほど、都合が悪い時はそう答えればいいんですね。

心のノートにしっかりメモしておこう。


「冒険者の秘匿事項ならば仕方ないのう。失礼した。年甲斐もなく気が焦ってしもうた。わしの名前はジャコモ、このギルドの買取主任で副ギルド長も兼ねておる。」

「僕は冒険者でウィンといいます。よろしくお願いします。」


冒険者カードで既に確認済みだとは思ったけど、ジャコモさんが名乗ったので礼儀として自分の名前を名乗り返した。

ルルさんは特に名前を告げるつもりはないらしい。

この薬草に関しては、マッテオさんも見たことがないと言っていたので、ジャコモさんに訊いてみることにした。


「ところでこの薬草、そんなに珍しいんですか?」

「そうだのう、最近では滅多に手に入らん。生息地の情報も無くてな。ウィン殿は薬草のことはどれくらい知っておられるかのう?」

「素人だと思ってください。」

「なんと! それでこの薬草を手に入れるとは、ウィン殿は星に愛されておるのう。」


星に愛される?

使い方からして、幸運に恵まれるって感じかな。

それにしても、おそらく僕よりかなり年上のジャコモさんに「殿」呼びされるのは背中がむず痒くなる。

でもせっかくなので余計なことは言わず、この機会に薬草のことをもう少し学ばせてもらおう。


「ジャコモさん、良ければ薬草の基本を教えてくれませんか?」

「もちろんじゃ。薬草にはの、低品質、普通、良質の3区分があって、さらにその上に上薬草というのがある。」

「じゃあこれは、上薬草ですか?」

「違うのう、これはそのまた上の聖薬草じゃ。」

「聖薬草!?」

「そうじゃ。これでポーションを作ると聖級ポーションができる。ほとんどの怪我を一瞬で治せるポーションじゃ。それ以外にも錬金の貴重な材料になるのう。」


説明を聞いて、言葉が出なくなる。

薬草クエスト、ちょっとスペック高過ぎじゃないですかね。

こんなのホイホイ出してたら滅茶苦茶怪しまれるよね。


…すみません、前任者が大雑把で。

 薬草クエスト、再構成して表示し直します…


僕の心の中での不満に反応して、中の女性(ヒト)のメッセージが流れた。

その後すぐに薬草クエストが列挙される。



○薬草クエスト

 クエスト : HERBS①

 報酬   : 薬草(1束)

 達成目標 : 片足立ち(10秒)

 カウント : 達成済み


○薬草クエスト

 クエスト : HERBS②

 報酬   : 上薬草(1束)

 達成目標 : 薬草クエスト(10回)

 カウント : 達成済み

 

○薬草クエスト

 クエスト : HERBS③

 報酬   : 聖薬草(1束)

 達成目標 : 薬草クエスト(100回)

 カウント : 達成済み


○薬草クエスト

 クエスト : HERBS④

 報酬   : 神薬草(1束)

 達成目標 : 薬草クエスト(1000回)

 カウント : 231/1000


…達成目標の回数を超えると報酬の薬草のランクが上がります。

 達成済みの薬草は全て選択可能です…



「どうかしたかのう?」


視界に映る薬草クエストに気を取られて黙り込んでしまっていると、ジャコモさんが心配して声をかけてきた。

『神薬草』とか、すごく気になるけど、そこは先送りにしてとりあえず会話に戻る。


「すみません、ちょっと予想外だったのでびっくりしちゃいました。ジャコモさん、ちなみに買取値段はどんな感じでしょう?」

「今の相場じゃと1束の値段で、低品質が鉄貨5枚、普通が銅貨1枚、良質が銅貨2枚、上薬草が銅貨5枚じゃな。」


ジャコモさんはそこまで言って一呼吸置いた。

そしてカウンターの上の薬草の束を見ながら説明を続ける。


「それでのうウィン殿、この聖薬草じゃが、ここ数年取引がなくてのう。わしとしては安過ぎると思うんじゃが、過去の相場で見ると1束で銀貨1枚なんじゃよ。」

「銀貨1枚!」

「やはり、安過ぎるかのう? これを逃すとまたいつ手に入るか分からんし、もう少し色をつけて・・・」

「いえいえ、十分です。それでお願いします!」


銀貨1枚って、銅貨10枚分だよね。

マッテオさんが教えてくれたのは、薬草(普通)と薬草(良質)の値段だったみたいだ。

聖薬草の本当の値段は、マッテオさんには黙っておこう。

お金を持っていなかった僕のために、好意で買い取ってくれたんだし。


「じゃあ銀貨1枚。本当にこれでいいんじゃな?」

「はい、ありがとうございます。」


ジャコモさんがトレイのようなものに銀貨を載せて、カウンターの上に置いた。

僕はそれを右手で取り、鞄(マジックバッグ)の中に仕舞う。


…鑑定クエスト「薬草を売れ①」を表示します…



○鑑定クエスト

 クエスト : 薬草を売れ①

 報酬   : 植物鑑定(初級)

 達成目標 : 薬草を売る(10回)

 カウント : 1/10


植物鑑定を取得するためのクエストが表示された。

達成目標もとても普通だ。

たいへん喜ばしいことのはずなのに、なぜかちょっとがっかりしている自分がいる。

心のどこかで「中の女性」のこじらせた目標設定を期待してしまっているのだろうか。

ダメだ、血迷わないように気をつけないと。


「ところでウィン殿、聖薬草、まだあったりするかのう?」

「えっ?」


僕の心の隙を突くように、ジャコモさんの質問が飛んできた。

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