第54話 2つ目のギルドに行きます(商人ギルド)
第二章 葡萄の国と聖女(54)
54.2つ目のギルドに行きます(商人ギルド)
「商業ギルドに連れて行って下さい。」
「了解した。」
ルルさんは僕の言葉を聞くと、返事とともにすぐに歩き出す。
僕は慌てて彼女の後ろを追いかける。
こういうところは話が早くてとてもありがたい。
なぜ商業ギルドに行くんだとか、何をしに行くんだとか、余計なことは一切言わない。
興味がないだけかもしれないけどね。
「ルルさん、ギルドってどんな種類があるんですか?」
歩きながらルルさんに訊いてみる。
ルルさんはちょっと考えてから答えてくれる。
「冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルド、魔術師ギルド、錬金ギルド、諜報ギルド、暗殺者ギルド。今思いつくのはこれくらい。」
ルルさんが丁寧に答えてくれた。
さっき「商業ギルド」って言っちゃったけど、正しくは「商人ギルド」だったようだ。
あと、後半に何か物騒なギルド名があった気がする。
「諜報ギルド」はまだ分かるけど、「暗殺者ギルド」って、「裏ギルド」とか「闇ギルド」とかの類いじゃないんだろうか。
「ルルさん、暗殺者ギルドって、正式に認められているんですか?」
「正式の意味による。ギルドはすべて互助会だから存在するという意味では正式。だがどのギルドも公的機関ではない。」
「国の公認じゃない?」
「そうだ。もちろん法を破れば罰を受けるが、統制は受けない。」
「なるほど。」
ギルドのことをいろいろ質問しているのにはもちろん理由がある。
この世界の仕組みを知りたいというのが一番だけど、それとは別に少し前に達成したクエストのことがあるからだ。
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう①
報酬 : マジックバッグ機能(部屋)
達成目標 : 1つのギルドに登録
クエスト名が「ギルドに登録しよう①」となっているので、当然「ギルドに登録しよう②」があると想像できる。
冒険者ギルド以外のギルドに登録できれば、クエストが追加されるんじゃないだろうか。
…次の収納クエスト、表示しましょうか?…
(お願いします!)
「中の女性」のメッセージが流れたので、心の中で即答した。
ちょっと融通が効き過ぎる気もするけど、島の「中のヒト」と足して2で割ってちょうどいいのかもしれない。
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう②
報酬 : マジックバッグ機能(倉庫)
達成目標 : 2つのギルドに登録
(部屋)の表示が(倉庫)に変化している。
おそらくマジックバッグの収納量が拡張されるのだろう。
問題は、冒険者ギルド以外のギルドへの登録が簡単にできるのどうか。
「ルルさん、他のギルドへの登録って、簡単にできるんですか?」
「知らない。したことが無い。」
そうですよね。
ルルさん、そのあたり興味ないですもんね。
商人ギルドで直接訊いてみることにしよう。
「そういえば、商人ギルドの場所は知ってるんですね。」
「当然だ。地理の把握は冒険者の基本。」
相変わらずルルさんの答えは短い。
でも納得できたし、勉強にもなる。
常在戦場ってことですね。
自分がいる場所の周囲のことは常に把握しておく。
街の中だっていつ戦場になるか分からないしね。
ルルさんと短いやりとりをしている間に商人ギルドに到着した。
冒険者ギルドからそれほど離れていなかったようだ。
商人ギルドの建物は、白い石造りの3階建てで冒険者ギルドよりも大きくて華やかな印象がする。
入り口には冒険者ギルドと同じように旗が掲げられていて、その模様は、金貨、銀貨、銅貨の絵の下に葡萄が一房描かれている。
「ようこそ、商人ギルド・コロン本部へ。どんな御用でしょうか?」
入り口をくぐると、執事のような服装をした初老の男性に出迎えられた。
冒険者ギルドとは対応が一味違う。
どちらが良いということではないけど、ギルドによってそれぞれ特徴があるんだろう。
冒険者ギルドの時とは違い、ルルさんは前に出ることなくただ僕の後ろをついて来る。
ここは自分には関係ないって感じかな。
「薬草を売りたいのですが、買取はして頂けますか?」
「承知いたしました。ギルドカードはお持ちですか?」
そう言われて冒険者カードを差し出すと、初老の男性はそれを丁寧に受け取り確認する。
「これは、冒険者カードですね。このカードでも買取はできますが、可能であれば商人ギルドへの登録をおすすめします。買取値段に違いはありませんが、手数料が免除となります。」
「ありがとうございます。登録はすぐにできますか?」
「はい。通常は審査手続きがありますが、冒険者カードをご提示頂ければ審査を省略して作成が可能です。登録は左手の受付、買取は正面のカウンターとなります。」
初老の男性にお礼を言って、説明された通りにまず左手の登録受付に向かうことにする。
商人ギルドの一階のフロアは、冒険者ギルドより人が少なく、静かで落ち着いた感じだ。
武装した冒険者の姿がほとんどないせいかもしれない。
比較的裕福そうな服装の人が多い。
受付で冒険者カードを渡すと簡単に登録することができた。
新しく商人ギルドのカードがもらえるのかと思って待っていると、冒険者カードだけそのまま返された。
「商人ギルドのカードはもらえないんですか?」
「冒険者ギルドのカードで兼用できます。追加情報を登録しましたので。」
犬系の獣人らしい女性の受付が笑顔でそう教えてくれる。
複数のギルドに登録する場合、最初に持っていたカードで兼用できるようだ。
確かにカードを何枚も持つのは面倒だし、仕組みはよく分からないけど効率的なシステムだと思う。
たぶんこの世界では常識なんだろうな。
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう②
報酬 : マジックバッグ機能(倉庫)
達成目標 : 2つのギルドに登録クエスト
達成済み
収納クエストが再度表示された。
今回は達成済みの表示が追加されている。
どんどん親切設計になっていくようでありがたい。
受付の女性にお礼を言ってそのまま買取のカウンターに向かう。
ルルさんは相変わらず無言のままで僕の後ろをついてくる。
買取カウンターに行くと、そこにはマッテオさんよりひと回り大きくて白い髭を生やした男性がどっかりと座っていた。
僕のイメージの中のドワーフを数倍大きくした感じだ。
「薬草の買取をお願いしたいのですが。」
冒険者カードをカウンターの上に置きながら、その男性に声をかける。
「薬草を持って来てくれたのかい。ありがたいのう。早速見せてくれんか?」
喋り方がマッテオさんよりかなり年配っぽい。
でも体の大きさから受ける威圧感に比べて、その雰囲気はとても柔らかい。
僕は、鞄の中から出すフリをしてクエストで出した薬草の束を一つ、カウンターの上に置いた。
「うむ。」
そう言ったまま、買取カウンターの男性は黙り込む。
マッテオさんと同じように、薬草の束を手に取り、匂いを嗅ぎ、葉を裏返し、じっと見つめている。
しばらくしてその男性は薬草の束をカウンターの上に置き、僕の目をまっすぐに見ながら言った。
「この薬草をどうやって手に入れたか、教えてもらうことはできんかのう?」
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