第51話 パーティー登録するようです(ステータス:ウィン)

第二章 葡萄の国と聖女(51)



51.パーティー登録するようです(ステータス:ウィン)



「私とウィンのパーティー登録に決まっている。」


ルルさんがそう告げると、しばらくギルド内は静まり返り、次の瞬間大騒ぎが始まった。


「ルル様がパーティー登録って、なんだそりゃ!」

「ルル様、永遠のソロ冒険者じゃなかったの?!」

「パーティー組むやつは、何処の馬の骨だ!」

「馬の骨な訳あるか!あのルル様が組む相手なんだから。」

「でもあの隣にいるやつじゃないのか。」

「なんかパッとしねぇぞ。」

 

「パッとしない」とか、ほっといて下さい。

まあ確かに筋骨隆々な冒険者たちから見ればちょっと貧相かもしれませんが、これでも脱いだらそれなりなんですよ。

脱ぎませんけど。

それよりルルさん、超有名人ぽいですね。

兵士さんの対応でなんとなくそんな気はしてましたけど。

この騒ぎ、どうなるんでしょう?


そんなことを考えていると、グラナータさんがスッと両手を上げた。

その途端に騒いでいた人達が静かになった。

グラナータさん、カッコイイ。

真のギルド長は、実は彼女なんじゃないだろうか。


「ルル様、ウィン様、ここでは騒ぎになりますので別室に移動して頂いて構わないでしょうか?」

「了解した。ウィン、行こうか。」


グラナータさんとルルさんが合意してそのまま歩き出す。

その後ろを僕とネロさんがついて行く。

ネロさん、ギルド長というよりグラナータさんのペットに見えちゃってますよ。


案内された部屋はギルド長室だった。

来客用のソファに僕とルルさんが並んで座り、対面にグラナータさんと黒山猫のネロさんが座る。

口火を切ったのはネロさんだった。


「おぅ、ルル、どういう風の吹き回しでぇ? 今までパーティーなんてまったく興味なかったじゃねぇか。」

「組みたい相手がいなかっただけだ。」

「するってぇと何かい、このあんちゃんなら、てめぇに相応しいってことかよ?」

「相応しいんじゃない。組みたいだけだ。」

「理由は?」

「風が、綺麗だった。」

「なんじゃそりゃ!」


激しくネロさんに同意。

薄々気づいてたけど、ルルさんって説明が足りないというか、言葉が足りないというか、行動あるのみって感じなんだよね。

だから短気そうでチャキチャキのネロさんとは、会話が噛み合わないんだろうね。


「ルル様、少し確認させて頂いてもいいですか?」


ここでグラナータさんが参戦し、ルルさんがコクリと頷く。


「風とは、どういう意味でしょうか?」

「ウィンが作る風だ。」

「ウィン様が風を作られるのですか?」

「そうだ。ものすごい速さで走っていた。」


そこでグラナータさんが困った顔になる。

うん、その説明じゃ分からないよね。

でも僕は分かったかもしれない。

ルルさんは、この街に向かって走っている僕の姿を見て、さらに僕が発動していた風も見えたってことかな。

そしてその風が綺麗だったと。

なぜ風が見えたのかは分からないけど。


「ウィン様がものすごい速さで走っていたのですか?」

「そうだ。風に乗っていた。」


そこでグラナータさんは頭の中で考えをまとめるように間を置く。

そしてルルさんに確認するように言った。


「ウィン様が風を作り、その風に乗って走っていたと? そしてその風が綺麗だったと?」

「そう言っている。」


グラナータさん、凄いね。

今までの会話でそこまで理解できるなんて尊敬してしまう。

ルルさん、普通はあの説明じゃ分からないからね。


「ルル様、風が綺麗とは、どういう意味でしょうか?」

「魔力の純度が限りなく高く、制御が完璧だった。」

「ちょっと待ちな。」


今まで黙って聞いていたネロさんが声を上げた。


「それはちょっとおかしくねぇか。ウィンに魔力はねぇんだからよぉ。」


そうだった。

ステータスには魔力0と表示されていた。

ということはクエストのおかげで、自分の魔力とは関係ないところで魔法が発生するということだろうか。


「ギルド長、個人のステータスを他人に開示することは禁止事項です。」

「ギルド職員への開示は問題ねぇだろ。それにルルとウィンは同じパーティーのメンバーだから、これも問題ねぇ。」

「正確にはパーティー登録はまだ終わってませんが。」

「ギルド長が認めりゃあ問題ねぇ。それで、ウィン、どういうことか説明してくんねぇかな。」


ギルド長の黒山猫の瞳が心なしか厳しくなっている。

説明したいのは山々だけど、どこまで何をどう説明すればいいのか自分でもよく分かっていない。

仕方がないので手探りで事実だけ述べていくことにする。


「風、の魔法?は、発生させられます。」

「なんで魔法のところが疑問形になってんだ?」

「今まで確信がなかったので。」

「確信がねぇのに、なんで『純度の高い魔力』を『完璧に制御』できんだよ?」

「なぜでしょう?」

「ルルといい、てめぇといい、要領得ねぇんだよ、まったく!」


こんな会話になりますよね。

自分でもよく分からないのに他人に分かるように説明なんでできないし。


「ギルド長、ステータス開示までは容認できますが、それ以上の詳細を聞き出すのは、本人の同意がない限りどの立場の者でも禁止されています。」


グラナータさんが助け舟を出してくれた。

でもネロさんは引かない。


「てめぇら、ウィンのステータスを見てねぇからそんなに平然としてられんだよ。これ、見てみろってんだ。」


そう言ってネロさんは僕のステータスが表示された紙をテーブルの上に出した。


「こ、これは・・・スキルが表示不可で魔力0・・・。ウィン様、大変失礼な質問ですが、隠蔽魔法でステータスを偽装してませんか?」


しばらく僕のステータスが表示された紙を見つめた後、赤髪のグラナータさんが言葉に詰まりながらそう訊いてきた。


「グラよぉ、考えてみろよ。偽装すんならもっと普通のステータスにするんじゃねぇのか。こんな、なんじゃこりゃみたいな偽装なんて意味ねぇだろうが。」

「でもギルド長・・・」


「放浪者か。旅もいいな、ウィン。」


狼狽える二人を前にして、ルルさんがそう呟いた。

どんな時もマイペースですね、ルルさん。

そういうの、割と好きです。

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