第52話 収納問題が解決しました(クエスト:マジックバッグ)
第二章 葡萄の国と聖女(52)
52.収納問題が解決しました(クエスト:マジックバッグ)
「放浪者か。旅もいいな、ウィン。」
平然としてそう告げるルルさんの言葉にネロさんが反応する。
「ルルっ、気にするのはそこじゃねぇだろ。」
「何か問題があるのか。」
「問題だらけじゃねぇか。」
「冒険者は人それぞれ。そして冒険者は自由だ。」
ルルさん、正論。
ちょっと惚れなおしたかもしれない。
…お取り込み中すみません…
ルルさんの綺麗な顔に見惚れていると視界にメッセージが流れた。
このタイミングで「中の女性」が登場。
何の用だろう?
…達成したクエストがあるので表示していいですか?…
何かしたっけと思いながら心の中でYesと念じるとクエストが2つ表示された。
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう①
報酬 : マジックバッグ機能(部屋)
達成目標 : 1つのギルドに登録
○収納クエスト
クエスト : パーティーを組もう
報酬 : 時間停止機能(マジックバッグ)
達成目標 : パーティー登録する
はい、収納系来ました。
「中の女性」、かゆい所に手が届くタイプですね。
あっ、前任の「中のヒト」をディスってるわけではありませんよ。
あれはあれでとても味があると思います。
相変わらず、達成目標と報酬の関係性は謎だけど、「大好きだと叫ぶ」とか「愛してると囁く」とかじゃなくて良かった。
ただ、これ、どうやって使うのかな。
マジックバッグ機能の後ろに付いている(部屋)ってどういう意味だろう。
…指定した鞄をマジックバッグにできます。
それに時間停止機能を付けることができます。
(部屋)は容量が普通の部屋くらいという意味です。…
僕の疑問に対して、「中の女性」からの説明が表示される。
この打てば響く感じ、素晴らしい。
ありがとうございます、「中の女性」。
これで荷物を持ち歩くのが楽になります。
…そんなに誉めらると・・・ときめきが・・・…
あっ、そういうのはいいです。
謹んで遠慮しておきます。
ということで早速マッテオさんにもらった鞄をマジックバッグに指定してみた。
もちろん時間停止機能付きで。
「ところで、ウィン。風以外にいくつある?」
マジックバッグのことに気を取られていると、ルルさんから突然質問が来た。
相変わらず言葉の足りない言い方だけど、慣れてきたので言いたいことは理解できる。
魔法というか、スキルというか、そういうものを何種類くらい使えるのかという意味だろう。
でもこれ、どうカウントすればいいのかな。
派生系とかあるし、HOME系統みたいに多様なパターンに分かれているものもある。
それにまだ中級が始まったばかりで、これからもっと増えそうな感じもする。
隠すつもりはないんだけど、正直、説明が面倒臭い。
まあここは、ざっとでいいか。
「ええっと、10個くらい? 今のところ?」
「「10個! 今のところ!?」」
自分でも半信半疑なのでどうしても語尾が上がってしまう。
大雑把な僕の答えに対して、ネロさんとグラナータさんが目を見張りながらハモる。
「10個か。楽しみだな。」
一方でルルさんは微かに嬉しそうな顔をしてそうつぶやく。
彼女が表情を変えるのを初めて見たかも。
「では行くか。ウィン。」
「ちょっと待ってくんねぇか、ルル。」
ルルさんがもういいだろうという感じで立ち上がると、ネロさんが慌てて彼女を止めて僕の方を見た。
「ウィン、本当は訊いちゃいけねぇってのは承知の上だが、その10個ってのを、おおまかにでもいいから教えちゃくれねぇか?」
ネロさんの目がけっこう必死だ。
そりゃ気になるよね。
魔力0なのに魔法(のようなもの?)をいっぱい使えるなんて、意味不明だからね。
まあ、本人が一番よく分かってないんだけどね。
どうしようかなとルルさんの方を見ると、ルルさんは無表情で腕を組んで立っていた。
たぶん、好きにすればいいって感じだろう。
普通に活動し始めればどうせバレてしまうことなので、ギルド長と副ギルド長には教えておこうかな。
「ええっと、この国での正式な呼び方が分からないので、僕独自の呼び方で伝えますね。」
そう告げると、グラナータさんが紙とペンを取り出した。
書き取るつもりだろう。
僕は今までの出来事を思い出しながら、一つずつクエストの名前を伝えていく。
「風・水・炎・石・氷・薬草・おにぎり・ホーム・テイム・転移・鑑定・収納・・・あと錬金と料理もかな。」
何か抜けてるような気もするけど、これくらいでいいかな。
そう考えながら向かい側を見ると、ネロさんとグラナータさんが口を開けたまま固まっていた。
「よし、出るぞ。」
ルルさんはそう言うと、僕の腕を持って立たせ、そのまま二人でギルド長室を出る。
ギルド長たちの隙をついた見事なタイミング。
後ろで何か叫ぶ声が聞こえた気がしたけど、ルルさんはそれを無視して僕を引っ張って行く。
一階のホールでは、冒険者やギルド職員たちの視線が一斉にこちらに向けられたけど、ルルさんは気にすることなくその中を通り抜け、冒険者ギルドの外に出た。
「ギルド長たち、なんか叫んでたけど、いいんですか?」
「問題ない。」
ルルさんの答えはあっさりしている。
ギルド長室であったことをバッサリ切り捨てる感じ。
僕としては問題ありまくりな気がするけど、いざとなれば島に逃げるので気にしないことにする。
「ウィン、旅に出るぞ。」
唐突にルルさんが宣言する。
もう完全に決定事項であるかのように。
いやいや、ルルさん、いろいろすっ飛ばし過ぎじゃないですか。
パーティー登録のこともそうだけど、普通は相手のことをよく理解して、相手の承諾をとって、それから実行するものだと思いますよ。
それに、まだこの街に来たばかりだし、マッテオさん夫婦のこともあるし、すぐには旅には出ませんよ。
「まだ、旅には出ません。」
「えっ? なぜ?」
ルルさんは驚いた顔をする。
彼女は意外と表情が豊かなのかもしれない。
終始無表情に見えたのは、興味の方向性が偏っていて、それ以外には極端に無関心なのだろう。
それにしても、その『理不尽で理解不能なことを言われた』みたいな態度はやめてもらえませんか。
最初は強引さに圧倒されましたけど、もう中身が少しずつ分かってきたので、言うべきことは言いますよ。
「この街で、それからこの国で、したいことがたくさんあるので、まだ旅には出ません。」
そう告げるとルルさんは腕を組んでしばらく考える素振りをした。
そして一つ頷くと口を開いた。
「了解した。ウィンにはしたいことがある。それをした後で旅に出よう。」
ちょっと理解の方向がずれてるような気もするけど、すぐには旅に出ないということでひとまずは善しとしよう。
「で、ウィンは何がしたい?」
ルルさんが続けて訊いてきたので、考えていたことをそのまま告げる。
「商業ギルドに連れて行って下さい。」
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