第36話 タコさんも戦うようです(墨吐き:タコさん)
第一章 はじまりの島(36)
36.タコさんも戦うようです(墨吐き:タコさん)
結局、単独での実戦訓練は2日間で終了した。
個人の戦闘能力は飛躍的に伸びたと思う。
カニバラス・ミニマとハニー・ミニマであれば、ある程度の数まで一人で倒すことができるようになった。
これが僕自身の本来の才能なのか、何かに与えられた能力なのかは分からない。
まあ、たぶん、ほぼ、圧倒的に後者だろうけど。
ということでいよいよ、中断していたラクネ・ミニマ退治に向かおうと思います。
* * * * *
○ ラクネ・ミニマ ☆☆☆
体型 : 小型
体色 : 銀色(金属質の外殻)
食性 : 肉食
生息地: 森の中。
特徴 : 昆虫系蜘蛛型
4対の足のうち、一番前の1対が鎌状。
口から粘着質の糸を吐く。
死んだふりをする。
特技 : 切断・粘糸・擬死・物理耐性(中)
島の中央に向かって真っ直ぐに森の中を進んで行く。
コンちゃんとハニちゃんが一緒なので、カニバラス・ミニマとハニー・ミニマたちは襲ってこない。
もちろん他の従魔たちも同伴している。
出発する前に全員でラクネ・ミニマ対策の作戦会議をした。
従魔たちの能力についていくつか確認し、それぞれに役割をお願いするためだ。
コンちゃんの根とタコさんの足が斬り飛ばされた反省もあり、安全確保を最優先することを強く念押しした。
森の中の移動はとてもスムーズだった。
慣れてきたせいかほとんど疲れも感じない。
やがて大きな木が2本、視界に入ってきた。
前回、ラクネ・ミニマと遭遇した場所だ。
タコさんがしゃがんだり、頭を左右に倒したりしている。
ラクネ・ミニマの罠を探しているのかな?
他の従魔たちを見ると、それぞれに戦いの準備を始めていた。
「キーッ」
ハニちゃんが甲高い声で鳴く。
しばらくすると木々の間からハニー・ミニマが1体現れた。
ハニちゃんは従魔となっても「仲間呼び」を使えるらしい。
ただクールタイムがあるので連続使用はできないとのこと。
(ハニちゃんの仲間は便宜上ハニー1号と呼ぶことにする。)
コンちゃんは細長い石の棒で素振りをしている。
僕がクエスト「STONE」で予備も含めて数本作った。
蔓での直接打撃は切断される危険性があるので、打撃用の武器で戦ってもらうことにした。
スラちゃんは左腕の定位置にいる。
ラクネ・ミニマが複数同時に出現した場合、どうしても死角ができてしまうので、そこをカバーしてもらう役割だ。
ウサくんはいつも通りの回復役。
誰かがピンチの時だけは、「影潜り+突撃」のコンボで援護して欲しいと伝えてある。
タコさんが足で前方を指している。
どうやらラクネ・ミニマの罠を見つけたようだ。
後ろに下がるようにタコさんに合図して、入れ替わりで僕が前に出て糸の位置を確かめる。
「じゃあ、始めるよ。」
従魔たちにスタンバイの声をかける。
糸を見失わないようにしながら距離を取り、糸の真上にクエストで石を発現させる。
石が落下し白い糸に触れた瞬間、銀色の蜘蛛が上から落ちてきた。
落下中のラクネ・ミニマに向かって真横から蔓の鞭が迫る。
その先に握られた石の棒がまともに銀色の体に衝突する。
「カーン」
大きな金属音とともにラクネ・ミニマが横に弾き飛ばされた。
その弾かれた先に「石壁」を斜めに出し、下方向に跳ね返らせる。
即座にラクネ・ミニマの上に「水蒸気爆発」を発生させ、その体を地面に叩き落とした。
落ちたラクネ・ミニマの体を「氷」で球形に包み込む。
ハニー・ミニマたちを水で包み込んだ「水玉」のICE版だ。
氷で固めても長時間は動きを止められない。
だけど短時間でも止められれば勝機はある。
ラクネ・ミニマが氷を壊す前に「氷玉」の上に「溶岩」を出す。
そしてそのすべてを包み込むように、現状最大の氷の塊を出現させた。
「溶岩」は瞬時に小さい方の氷玉の上部を溶かしてラクネ・ミニマに到達する。
次の瞬間、ラクネの銀色の体が光の粒になって消えた。
(よし、作戦通り。)
初回の先制攻撃は、あまりにも綺麗にはまってくれた。
毎回こんなに上手くはいかないだろう。
でも目指すべき攻略の方向性は見えたと思う。
溶岩を包んだ氷が段々小さくなっていく。
それにつれて溶岩の輝きも弱まっていく。
これなら火事になる心配は無さそうだ。
「リン(敵)!」
溶岩の後処理に気を取られていると、スラちゃんが警告を発した。
いつの間にか次のラクネ・ミニマが現れている。
木から木へ糸を張ってこちらに移動してくる。
しかも2体一緒に。
(いきなり、応用編に突入って・・・。
もう少し単体相手に練習させてくれてもいいのに。)
そんなことを思いながらもすぐに戦闘体制に入った。
2体が相手の時のフォーメーションは決まっている。
従魔たちがラクネ・ミニマたちの気を逸らし、その間に1体ずつ倒していく作戦だ。
ハニちゃんとハニー1号が、それぞれ別々のラクネ・ミニマに毒針を飛ばす。
金属質の体に毒針は通らないので、眼球を狙うよう事前に指示してある。
眼球に当たればラッキーだけど当たらなくても構わない。
少しでもラクネの意識が毒針に逸れてくれればそれでいい。
コンちゃんは本体を隠したままで、隙を見て石の棒で攻撃している。
なかなか簡単には当てさせてくれないけど、これも警戒してくれるだけで構わない。
タコさんは時々走り出てきては、離れた位置からラクネ・ミニマに向かって墨を吐いている。
まったく届いていないけど、墨が付着して周辺の糸が見えやすくなるので、それはそれで良しとしよう。
注意が散漫になっているラクネを選び、僕が複数の炎をだして足場の糸を焼き切る。
バランスが崩れたところに、コンちゃんの石の棒が真上から振り下ろされる。
ギリギリで石の棒を交わしたラクネ・ミニマの顔にハニちゃんの毒針が飛ぶ。
頭部に命中したけど眼球からはわずかに外れたようだ。
戦闘態勢のラクネ・ミニマの回避能力は並はずれている。
従魔同士の連携はかなりいい線を行ってるけど、なかなか決定打に繋がらない。
ただ、そのラクネ・ミニマは回避に気を取られ過ぎていた。
だから気づいていなかった。
背後から迫る赤い刺客に。
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