第35話 飛べないハニーはただのハチだ②(クエスト:水雨+水玉)

第一章 はじまりの島(35)



35.飛べないハニーはただのハチだ②(クエスト:水雨+水玉)



単独での実戦訓練2日目。

単独と言いながら実際はウサくん同伴だけど。


森に入ると早速カニバラス・ミニマたちがお出迎え。

いきなり3体セットで現れたところを見ると、肩慣らしをする暇も与えられないようだ。


昨日さんざん戦ったこともあって、カニバラス・ミニマとの戦闘は段違いに楽になった。

攻撃を察知してから防ぐのではなく、高確率で攻撃を予測できるようになったのが大きい。


相手の動きが読めると、こちらの動きに余裕ができる。

余裕ができると新しい戦い方ができる。


防御するためだけに振り回していた短剣では、蔓と根を弾くのが精一杯だったけど、タイミングと角度を合わせ、速度に乗せて振り抜くと、蔓でも、根でも、切断することが可能だった。


ラクネ・ミニマ戦でコンちゃんの根が斬り飛ばされた時、コンちゃんは「大丈夫」と伝えてきた。

でもカニバラス・ミニマと実際に戦って分かったのは、蔓も根も切られるとすぐには生えてこないということ。

少なくとも短時間の戦闘中には再生しないようだ。


切断が可能になると3体セットとの戦いも様変わりした。

まず根は片っ端から切り飛ばす。

本体の位置の予想がついたら蔓も切断する。

最後に本体に突進し短剣で倒す。

炎は封印した。


今日の目的は別にあるので、カニバラス・ミニマとの戦いは最低限にして時間をかけずに奥へ進むことにする。

この森で初めて5体セットのカニバラス・ミニマたちに遭遇し、短時間でそれを倒すと、聞き覚えのある振動音が木々の向こうから響いてきた。  



   *   *   *   *   *



(羽音が多いな。)


ハニー・ミニマたちはいきなり5体で現れた。

どう考えてもこちらの状況に合わせて魔物の数を調整してるよね。

「仲間呼び」をされると倍に増えるので、素早く倒さないと。


前回は「水」でハニー・ミニマを地面に落とし、コンちゃんが根で拘束し、タコさんが麻痺させ、短剣でとどめを刺すというチームプレーだった。


今回は単独で対応しないといけない。

訓練なので違う戦い方を試そうと思う。


いきなり飛んで来た毒針を短剣で弾く。

石壁での防御も考えたけど、ハニー・ミニマたちは5体いるので四方八方から毒針を打ってくる。

石壁で周りを囲むと自分自身が身動きできなくなってしまう。


毒針を避けながら、ハニーたちの動きが緩む瞬間を狙う。

そこに「水」ではなく「炎」を発動する。

燃やし尽くす作戦だ。


前回はうまく当てることができなかった。

炎の数を増やしたり規模を大きくすれば確率は上がるけど、それでは訓練にならない。

基本的に小さい炎を単発で連打する。


飛行能力の高い魔物たちに炎を当てるのは簡単ではない。

それでも、発動速度と精度を上げた炎の連打はハニー・ミニマたちを確実に仕留めて行った。

結果的に5体の集団は、仲間を呼ぶ暇もなく全滅した。



森の中を進んで行くと、間を空けずにハニー・ミニマたちが出現する。

しばらくは5体セットの襲撃が続いた。

たまに戦闘が長引いて仲間を呼ばれることもあったけど、短剣と炎という基本型を崩すことなく対処できた。


戦闘数が10回を超えたあたりで襲撃が一旦止んだ。

魔物出現のインターバル。


(たぶん潮目が変わるんだろうな。)

               

そう考えていると、大きな羽音が森の中に響き、10体のハニー・ミニマの集団が現れた。


10体のハニー・ミニマを短時間で全部倒すのはとても難しい。

でも時間をかけると仲間呼びで数が増えてしまう。

結果、戦いが延々と続くことになる。

そこで、作戦を変更することにした。


(水雨)


声に出さず心の中で念じた。

「水」の形態変化の応用だ。

空はほとんど見えないのに、ハニー・ミニマたちの周囲にだけ雨が降り始め、その体を濡らす。

ハニー・ミニマたちの動きがかなり鈍くなった。


(落とすのは無理だったか。)


「水雨」で魔物たちを落とせれば良かったんだけど、そんなに甘くはなかった。

でも攻撃手段は他にある。


(水玉)


動きが鈍った魔物たちを狙って次のクエストを発動した。

丸い水の塊がハニー・ミニマを包み込むように現れる。

水に包まれたハニー・ミニマはさすがに飛び続けることはできず、地面の上に落ちた。

それを素早く短剣で刺して倒す。


動きが鈍ったハニーを「炎」で燃やせれば楽なんだけど、「水」に触れると「炎」はすぐ消えてしまう。

短剣でとどめを刺す分、少し手間取るけど、それでも「水雨+水玉」作戦は想像よりも効果的だった。


10体をあっさり倒してしまったせいだろうか。

そこからはハニー・ミニマたちがランダムに現れるようになった。

新たに10体が現れそれに対処していると、すぐに5体追加、その後また5体、さらに・・という感じ。


「仲間呼び」してないのに追加が出てくるのは、「仲間呼び」の存在意義に関わるんじゃないかと思うけど。

内心で文句を言ってみても誰にも届かない。

もちろん中のヒトの反応もない。


ハニー・ミニマたちの攻撃が激しくなり、作戦とか訓練とか言ってられなくなる。

仕方がないので使えるものは全部使うことにする。


短剣で毒針を弾き、「石壁」で隠れる場所を作る。

「水雨」で動きを鈍らせ、「水玉」で落とす。

追加組はできるだけ炎で燃やし、その合間に落ちたハニーに短剣を突き立てる。

追加組が増えすぎるとまた「水雨」を降らせて動きを鈍らせる。      


体感で倒した数が100を超えたくらいで、ハニー・ミニマの追加が止まった。

追加がなければ倒し切るのは難しくない。


切れ目のない戦闘はさすがに疲れたけど、戦いの練度は格段に上がったと思う。

最後の方は「炎」も「水玉」も、ほとんど外さなくなってたし。


100本ノックのような戦いを終えて、ひとまず地面に腰を下ろした。

木漏れ日の角度から判断して、まだまだ時間はありそうだ。


とりあえず次に備えて回復してもらおう。

そう思って後ろを振り返ると、そこにウサくんはいなかった。


どこに行ったんだろう?

訓練に飽きちゃったのかな?

討伐報酬のハチミツを小屋に持っていったのかもしれないね。

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