第34話 それって避けられないですよね(突撃:ウサくん)

第一章 はじまりの島(34)



34.それって避けられないですよね(突撃:ウサくん)



〜(戦闘シーン)〜


けして油断していたわけではなかったんですが・・・。

カニバラス・ミニマの本体に向かって走ろうとしたところ、根に足を引っ掛けられてしまいました。

すぐに根が体に巻き付きついてきます。

短剣を持っている腕を動かすことができません。

蔓がこちらに振り下ろされる様子がスローモーションで見えます。



   *   *   *   *   *



〜時間を危機に陥る前に戻す〜


午前中いっぱいは、カニバラス・ミニマと戦い続けた。

1対1に慣れて楽に倒せるようになると、2体が同時に現れるようになった。

森の意思か、島の思惑か、ダンジョンのルールか、何かが状況に応じて戦闘を調整している気がする。


敵が2体になると攻撃が複雑になりパターンが読みにくくなる。

それでも繰り返し戦っているうちに慣れてきたのか、本体の位置が推測できるようになった。

身体能力だけではなく、思考能力も成長率が高くなってる気がする。


1対2が無難にこなせるようになったあたりで、お腹が空いたので昼食を取ることにした。

こちらが戦闘態勢を解いてその場で止まると、新たなカニバラス・ミニマは出現しなくなった。

予定調和って感じかな。


僕はおにぎりを出して黙々と食べる。

ウサくんは青汁を気に入ったようで、前足で抱えてゴクゴク飲んでいる。


討伐クエストの報酬の野菜は、トマトにキュウリにセロリに大根に・・・。

今回は見事にバラバラ(ランダム)だった。

「中のヒト」が「これでどうだ」と胸を張ってる気がする。

素直に初めからランダムにすればいいのにね。


もちろん持ち運ぶのは大変なので、ここまでの分はウサくんが「影潜り」で小屋の倉庫に運んでくれた。


昼食の後、念のためにウサくんが「ヒール」をかけてくれた。

切り傷や擦り傷が消え、服の汚れも落ちる。

長時間の戦闘で溜まった疲れも体から抜ける。

ウサくんの「ヒール」って万能だよね。

これで午後も充分戦えそう。      


森の中を進んで行くと敵が現れた気配がした。 

短剣を構えて警戒していると、左右から同時に蔓が飛んでくる。

右の蔓の軌道から体を外らせ、左の蔓を短剣で弾く。

そこに真上から3本目の蔓が振り下ろされる。


かろうじて前に転がり第三の蔓をかわし、すぐに起き上がって木の陰に逃げた。

ここからは1対3になる模様。


しばらくは回避と短剣での防御で逃げ回る。

特に根に捕まると動きを封じられるので、地面への注意も疎かにできない。


3体を同時に相手にすると、攻撃の組み合わせがさらに複雑さを増す。

それでも時間をかければ本体を見つけることはできる。

それができるくらいには、僕自身がカニバラス・ミニマとの戦いに慣れ始めていた。


まずは攻撃を交わしながらパターンを観察する。

しばらくすると何となく相手の場所が把握できるようになる。

最初の1体を見つけて倒すことができれば、後は1対2の時と同じ。

順番に対処していけば3体を倒すことができる。


休憩を挟みながら1対3の戦闘をこなしていった。

多少攻撃をくらうこともあるけど大怪我をするほどでもない。

単独での実戦訓練は初日とは思えないほど順調に進んでいた。



森の中にいても、日差しの傾きでだいたいの時間は分かる。

木漏れ日の角度がかなり斜めになり、戻りにかかる時間のことも考えてそろそろ訓練を終えようか、そう思い始めた頃。


これで最後と決めた戦いで2体のカニバラス・ミニマを倒した。

残るは1体だけ。

本体の位置も把握済みだ。


最後の敵に向かって走りながら根の攻撃を避ける。

いや、避けたと思った。

しかしわずかに右足の先が根に引っかかり、バランスを崩して転倒してしまった。

思ったより体が疲れていたのかもしれない。


すぐに根が体に巻きついてくる。

短剣を持った右手も封じられてしまう。  

カニバラス・ミニマの蔓が鞭のようにしなり、真上から振り下ろされる。

これはもう回避できない。


心が諦め、体が衝撃に備えて硬直したその瞬間、カニバラス・ミニマの蔓と根が光の粒になって消え去った。

それは一瞬の出来事だった。


何が起こったのか分からず、カニバラス・ミニマの本体がいた場所を確認する。

もちろんそこにカニバラス・ミニマはいない。

蔓や根と一緒に消えたのだろう。

そしてそこには、後方に待機していたはずのウサくん姿が。


立ち上がって呆然とウサくんを見る。

ウサくんは地面に沈むように消え、すぐにこちらの足元に現れた。


「ウサくんが倒したの?」


ウサくんはフンフンと頷き、右前足で自分のツノを指している。

ヒール?

いやそんなわけがない。

ツノで倒したってこと?


「もしかして、突撃?」


ウサくんは再び頷いた。

そうか、ウサくんには「突撃」があったんだね。

ずっと回復役に徹していたのですっかり忘れてた。


戦うところを見たことがなかったのでイメージできてなかったけど、ウサくんも戦えるんだよね。

でも「影潜り」で移動して、死角からいきなり「突撃」とか・・・。


「ウサくん、本気出すと凄くない? ていうか、それ、誰も回避できない気がするんだけど」  



   *   *   *   *   *



ウサくんに助けてもらったお礼を言って、その日の訓練は終わることにした。

帰りの森の中を慎重に警戒しながら進んでいく。

訓練は終わりと言っても魔物に遭遇する可能性はあるからね。

でも結果的には、一度も戦闘にならなかった。

森の中では、こちらに戦う意思がないと魔物は現れないのかもしれない。


小屋に辿り着くと、リビングには既に従魔たちが集まっていた。

もちろんそれぞれの食材と一緒に。


僕はキッチンのシンクの前に立ち、順番に「COOK」で夕食を作り、料理を従魔たちに渡した。

従魔たちはそれぞれ自分の椅子に登って、料理をダイニングテーブルの上に置いていく。

最後に僕が自分の椅子に座ると、全員で両手(両前足)を合わせて、

新しくルール化した「いただきます」をする。


みんなが嬉しそうに食事を始める中で、僕は改めてウサくんを見てお礼を告げた。


「助けてくれてありがとう。」


ウサくんは、野菜スティックのセロリをポリポリかじりながら、「たいしたことじゃない」と右足を上げる。


「影潜り」と「突撃」のコンボは、たいていの敵や獲物に対して途轍もなく強力だ。

凶悪と言ってもいい。


影さえあれば、突然現れてツノで貫くことができる。

そして一瞬でそこから離脱できる。

ハニー・ミニマのように空中にいたり、ラクネ・ミニマのように硬い場合は一撃必殺とはいかないだろう。

それでも条件さえ揃えば、大きなダメージを与えることができる。


「ウサくん、最強かもしれないね。」


ポリポリ、モグモグしている姿を見ると、とてもそうは思えないんだけどね。




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