第33話 ひとりで挑戦したいと思います(訓練:カニバラス・ミニマ)

第一章 はじまりの島(33)



33.ひとりで挑戦したいと思います(訓練:カニバラス・ミニマ)



「君たちがいなければ、カニバラス・ミニマやハニー・ミニマともう一度戦える?」


コンちゃんとハニちゃんに尋ねてみた。

結論から言うと、森の中でカニバラス・ミニマやハニー・ミニマと戦うことは可能らしい。

コンちゃんがいなければカニバラス・ミニマたちは襲ってくるし、ハニちゃんがいなければハニー・ミニマたちも攻撃してくるとのこと。


一度みんなで小屋に戻り、そこで従魔たちに「解散」を告げた。

自由行動してね、という意味だ。

しばらくは自分ひとりでいろいろしたいことがあるので。


森の中で実践訓練をする前に、クエストの訓練をすることにした。

NO LIMITの利点を活かすために、数を増やす訓練、規模を大きくする訓練、様々な形を作る訓練をひたすら繰り返す。


発動速度や発動場所の精度を上げる練習もする。

同じクエストを連続で出したり、異なるクエストを連打したり、海の上に氷の塊を浮かべて標的にしてみたり、氷を複数にして連続で狙ってみたり。


数日間は、明るくなってから暗くなるまで、延々と攻撃用のクエストに取り組んだ。


朝と昼はおにぎりと青汁で済ませ、夕食だけ小屋で従魔たちと一緒に食事をとった。

従魔たちにせがまれたので、倉庫だけはさらに拡大(基本×8)しておいた。


僕がクエストの訓練に没頭している間、従魔たちは思い思いに過ごしているようだった。


コンちゃんとハニちゃんは森の中にいるようで、夕食時以外あまり姿を見せない。


ベルちゃんは岩場の方から時々様子を見に来る。


ウサくんは突然現れて僕に回復をかけ、そのまますぐ影に潜って消える。         


タコさんは標的代わりの氷が浮いている波間に時々顔を出す。

危ないのでほんとにやめて欲しい。


クエスト訓練の最後に溶岩の冷却方法を試してみる。

まず最小サイズの溶岩を砂浜に出し、その上からクエストの水をかける。


海水に触れた時のような爆発はしないが、冷却するには何度も水を出さないとダメだった。

氷よりも時間と手間がかかってしまう。


次に今出せる最大の氷で、溶岩を包み込むように出現させてみた。

練習の成果もあって、ラクネ・ミニマとの戦いの時よりかなり大きい。

氷はどんどん溶けていくけどなぜか水にはならなかった。

この氷は水ではなく魔力か何かでできているということだろうか?

ただ今回は、氷が溶けて無くなる頃には溶岩は冷却されていた。   


これでとりあえず問題は解決。

溶岩は最大の氷で冷やす。

これならそんなに手間取ることもないだろう。

あと、ラクネ・ミニマの足止め方法も思いついた。



   *   *   *   *   *



寝室で目が覚める。

最近は寝る時はほぼ裸だ。

小屋の室温は常に適温に保たれているようで、風邪をひくこともない。


服はテーブルと椅子の背に掛けて干してある。

夜、お風呂に入ったついでに洗ったものだ。

ウサくんの「ヒール(たぶん浄化を含む)」のおかげで、洗わなくてもきれいなんだけど、なんというか気分の問題だ。


切実に着替えが欲しい。

でもどうすれば着替えが手に入るのか。

今の所まったく分からない。

島を出て人がいる街に行かないと無理かもしれない。


服を着て寝室を出る。

「おはよう」って感じで、ウサくんが右前足を上げる。

他の従魔たちはここにはいない。


今日からいよいよ森に行こうと思う。

単独の実践訓練に挑む。

ただ単独と言いながら、万一に備えてウサくんにだけ付き合ってもらうことにした。

命綱は大事だからね。      


ウサくんに薬草を出して、自分には青汁を作る。

ウサくんが薬草をモグモグしながら、こちらをじっと見ていたので青汁も渡してみた。

ウサくんは器用にグラスを抱えて、美味しそうに青汁を飲んでいた。


ウサくんと二人で小屋を出て、ちょっと散歩に行くような気軽な感じで森に向かって歩き出す。

けしてこれからの訓練を軽くみている訳じゃない。

気負わず、焦らず、平常心で臨みたいってところかな。


森の中に入ると、待ち構えていたかのようにカニバラス・ミニマの蔓が飛んできた。

気配を伺う暇もなくいきなりの洗礼。

右手に持った黒い短剣で冷静にその攻撃を払い除け、敵の位置を探ってみる。

最初の接敵はどうやらカニバラス・ミニマが1体のようだ。


対カニバラス・ミニマの訓練目標は、短剣で蔓と根の攻撃を防ぎ本体を見つけて倒すこと。

「炎」で蔓に火を付け本体まで燃やすほうが簡単だけど、簡単だと訓練にならないので。


根が地面から飛び出してくるのを避けながら、蔓の攻撃を短剣で受け止める。

スラちゃんを装着していないので、索敵も警戒も自分の感覚に頼るしかない。   

カニバラス・ミニマは「緑隠」の能力持ちなので、なかなか本体を見つけることができない。


初めのうちは向かってくる蔓に対して反射的に対応するので精一杯だった。

でも戦闘が長引くにつれて、なんとなくパターンが分かってきた。


蔓自体は左右の木の陰や頭上の枝の間から鞭のように飛んでくる。

でも本体はおそらく動かずに隠れているはずだ。

本体が動けばそれだけ見つかりやすくなるからね。


攻撃のパターンに慣れてくると、その起点としての本体の位置がおおまかにだけど推測できるようになってきた。

気配察知も少しずつ能力が上がってる気がする。

この気配察知はクエストの報酬じゃなく身体能力向上に属するのかもしれない。


(あの辺かな・・・)


当たりをつけた場所の少し手前を狙って「炎」を発現させてみる。

本体を燃やすためじゃなくて驚かせるために。

カニバラス・ミニマにとって炎はやはり弱点なのだろう。

すぐ近くの緑の中で、隠れていた本体がわずかに動くのが見えた。


視線を外さず本体に向かってまっすぐ走る。

真上から蔓が飛んできたけど短剣で軽く弾く。

確実に受け止めるより、逸らした方が自分の動きが止まらないので戦いやすい。


走り過ぎた背後に根が飛び出したのを感じる。

迷ったら相手に捕らえられる。

判断の速さと反応の速さ、両方を鍛えないといけない。


そのままの勢いで目星をつけた場所に走り込むと、カニバラス・ミニマは慌てて逃げ出そうとした。

その体の中心に短剣を突き立てる。


カニバラス・ミニマの体は光の粒になり、霧散して消えた。

僕はすぐに、次の敵に備えて短剣を構えた。


まずは一体目の討伐完了。



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