第32話 仇討ちしたいと思います(クエスト:溶岩)

第一章 はじまりの島(32)



32.仇討ちしたいと思います(クエスト:溶岩)



少し頭を冷やす。

闘志は大事だけど、熱くなり過ぎちゃいけない。


幸い従魔たちは、大丈夫そうだった。


コンちゃんは根を切断されたけど、一瞬姿を表して、両手で丸を作っていた。

足を斬り飛ばされたタコさんも、「大丈夫」と合図を送ってくる。


タコさんの側にはウサくんがいた。

ウサくんのヒールで足が生えたのか、とりあえず傷口を治療しただけなのか、ここからでは確認できない。


ラクネ・ミニマに「溶岩」を使うことは決めたけど、使い方はよく考えないといけない。

やたらに連発すると、その熱で森が大火事になってしまう可能性が高い。

そうなると戦闘に支障が出る。


とにかくラクネ・ミニマの動きを止める。

そして溶岩を確実に当てる。

複雑な作戦を組める程の技術はまだないので、単純に力押しで行くしかない。


気絶したふりをしていたラクネ・ミニマは、それでもダメージはあったようで、警戒してなかなか近寄って来なくなった。

でもこちらは見える範囲であれば離れていてもクエストの効果は届くからね。


(コンちゃんの根とタコさんの足の仇を取ってやる。)


仇討ちの決意を胸に反撃を開始する。


まず空中を跳ね回って移動するラクネ・ミニマの周囲を狙って「炎」を発動する。

ラクネ・ミニマにたいしたダメージは与えられないけど足場の糸を燃やすことはできる。


足場が減り、多少動きが単調になったところを今度は「水蒸気爆発」で狙う。

直撃は難しくても、その爆風を当てることはできる。  


爆風でラクネ・ミニマが飛ばされたところに素早く「石壁」を出す。

石壁にぶつかって地面にひっくり返ってくれればベストだけど、そう簡単にうまくはいかない。


ラクネ・ミニマのほうも、新たに糸を吐いたり、張り巡らせた糸を利用してこちらの攻撃を器用に避けようとする。

たまに地面に落とすことができても、体勢を崩せなければ着地した瞬間にまた逃げられてしまう。


炎と爆発と壁を根気よく発動し続ける。

ハニー・ミニマとの戦いの時と同じで、段々と攻撃の流れが滑らかになってくるのが分かる。

速さ、タイミング、連動性、戦うための勘のようなものが心と体を動かし始める。



その機会は唐突にやってきた。

爆発をラクネ・ミニマの目の前で発生させることに成功し、瞬時にその後方に石壁を出した。

勢いを殺せずに石壁に激突したラクネ・ミニマは、そのまま地面に逆さまに落ちた。


ひっくり返った体を起こそうともがく銀色の体の真上に、迷うことなく「溶岩」を発動する。


赤く光る小さな流体がラクネ・ミニマの上に落ちる。

そしてそのまま銀色の体を貫通し、ラクネ・ミニマが光の粒になって消えた。


(よし、倒せた!)


無意識にガッツポーズが出た。

でもすぐに後処理のことを思い出した。

溶岩はラクネ・ミニマを倒した後も消えることなく、地面に生えた下草を燃やし始めている。


僕は溶岩とその周囲に「ICE」を発動した。

溶岩全体を包み込むように氷を出現させる。

「水」を使うと水蒸気爆発の恐れがあったので「氷」を選択したけど、1回では不十分だった。

完全に溶岩の影響を押さえるまでに5回の発動が必要だった。



○ラクネ・ミニマ ☆☆☆

 体型 : 小型

 体色 : 銀色(金属質の外殻)

 食性 : 肉食

 生息地: 森の中。

 特徴 : 昆虫系蜘蛛型

      4対の足のうち、一番前の1対が鎌状。

      口から粘着質の糸を吐く。

      死んだふりをする。

 特技 : 切断・粘糸・擬死・物理耐性(中)

      


○クエスト : TAME

 報酬   : ラクネ・ミニマ

 達成目標 : 100体倒せ(1/100)



○クエスト : ラクネ・ミニマを倒せ

 報酬   : 糸(ランダム)

 達成目標 : ラクネ・ミニマ(1/5)   



後処理が終わって、ラクネ・ミニマの情報を確認する。

魔物としての詳細情報とTAMEクエスト、討伐クエストが表示されていた。


(これが戦う前に分かれば対策も立てられるんだけどなあ。森の討伐クエストだと魔物鑑定は1体倒すまで適用されないみたいだね。)



次のラクネ・ミニマが現れる前にコンちゃんとタコさんの状態をチェックしないといけない。


コンちゃんの方を見ると、新しい根をこちらに見せてフリフリしている。

根と蔓は切断されてもまた生えるらしい。

何回まで再生可能なのかは分からないけど。


タコさんは近くにいたので直接聞いてみる。

    

「足、生えたの?」


タコさんは、ウサくんを指してから頭の上で丸を作った。

ウサくん、欠損部分の再生までできるの?

できる子すぎる。



   *   *   *   *   *



ラクネ・ミニマとの戦いは、この1戦で中断して一度森から出ることにした。

初めての途中撤退。


理由はいろいろある。


まずは従魔たちの戦い方の問題。

ラクネ・ミニマの鎌の切断力が強過ぎてコンちゃんとタコさんが攻撃に参加できない。

ハニちゃんの毒針も金属質の体には通らない。

何か工夫が必要だ。


次に自分自身の戦い方の問題。

炎と爆発と壁で足止めして、溶岩で止めを刺してようやく1体を倒したけど、どう考えても確実性に欠ける。


それでも1対1 、そして1戦だけなら戦える気もするけど、連戦が続くと体力的にきついし、複数が相手だともう勝ち筋が見えない。   


最後に溶岩の問題。

やはり溶岩を出すと周囲が燃えてしまう。

複数のラクネと戦う時は、後処理の時間を取れるとは限らない。


今回発動したのは最小の溶岩だったけど、その鎮火にあれだけの氷が必要だった。

海の上で実験した時、海水に触れて爆発したので水での鎮火は難しい。

あれっ、クエストの水なら大丈夫なのかな?

これも確認が必要だね。


とにかく、クエストでの戦い方をもっと極めなければいけない。

実戦での経験ももっと積まないといけない。

まだ準備が足りていない。


「コンちゃん、ハニちゃん」


森の中を戻りながら、従魔二人に話しかける。

そして気になっていたことを聞いてみる。


「君たちがいなければ、カニバラス・ミニマやハニー・ミニマともう一度戦える?」


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