第31話 油断は大敵です(擬死:ラクネ・ミニマ)

第一章 はじまりの島(31)



31.油断は大敵です(擬死:ラクネ・ミニマ)



ラクネ・ミニマは少し離れた場所でじっとしている。

こちらを観察しているのかもしれない。


足は4対あり、前の1対が鎌のような形状。

体は蜘蛛型で大きな目が前面に2つだけ確認できる。

蜘蛛の目は最大で8個あるはずなので、他の場所にもあるかもしれない。


物理攻撃はなかなか厳しそうだ。

ハニちゃんの「毒針」が直撃しても傷一つつかなかったからね。

「炎」はあの体に効くのだろうか?

「水蒸気爆発」はどうだろう?

「石壁」はある程度防御に使えそうだった。

「溶岩」は・・・使いこなせるかな。

森の中が大惨事になるかもしれないよね。


戦い方を考えていると、ラクネ・ミニマが先に動いた。

口をこちらに向けて何かを吐いたので、反射で横に飛んでそれを避ける。

丸い塊が体の横を抜けて背後の木に当たり、そのまま付着した。

その塊にはラクネ・ミニマから糸が繋がっている。


ゾクリと悪寒がして視線をラクネ・ミニマに戻す。

銀色の蜘蛛はその糸を辿ってこちらに迫っていた。

僕の目の前で鋭い鎌状の足が振られる。

その一撃をギリギリで体を捻ってかわす。

空振りした鎌が背後の木に当たり、太い幹があっさり切断された。


(何あれ、ヤバすぎる。切れ味がハンパない。)


ラクネ・ミニマは動きを止めない。

切断されて倒れていく木を蹴って、空中で糸を吐く。

今度はハニちゃんを狙ったようだ。

ハニちゃんは糸をかわし、鎌攻撃を受けないように瞬時に移動する。


ラクネ・ミニマはハニちゃんが逃げた後の空間に向かっている。

空中ですぐには方向転換できないのかもしれない。

僕はラクネ・ミニマの少し前方を狙って「炎」を発動した。

炎の塊が空中の糸を燃やし、ラクネ・ミニマ本体も燃え上がる。

そして銀色の蜘蛛は炎に包まれたまま地面に落ちた。


(仕留めたかな。あっだめだ、そういうセリフはフラグだった。)


急いでラクネ・ミニマが落ちた場所を確認すると、当然のように無傷の蜘蛛がそこにいた。


(やっぱりあの体は燃えないんだね。足場の糸が燃えて落ちただけか。とにかく、やれることは全部やろう。)


落ちたラクネ・ミニマに向けて即座に「熱水」を発動する。

沸騰した水がラクネを包み込むように出現する。

しかしラクネ・ミニマはそこから簡単に脱出した。

ダメージを受けた様子もない。


続けて「水蒸気爆発」を使う。

ラクネ・ミニマの本体に当てるつもりで発動する。

さすがのラクネ・ミニマも吹き飛んだけど、すぐに体勢を立て直してくる。

どう見ても弱ったようには見えないな。


とにかく「炎」「熱水」「爆発」を連発する。

あまり効果はないけど、攻撃こそ最大の防御だからね。

近接されるとあの鎌で攻撃されるので、遠距離に徹するしかない。

ラクネ・ミニマになるべく攻撃させないようにして、対応策を考える時間を稼がないと。


でもまあなかなか思うようには行かない。

ラクネ・ミニマもこちらの攻撃の合間を狙って糸を吐き、空中に足場を作っていく。

足場が増えるとラクネ・ミニマの動きが複雑になるので、できるだけ「炎」で糸を燃やす。


(う〜ん、決め手が見つからない。物理攻撃は除外してたけど、「石」もどうにか使えないかな。)


従魔たちを見ると彼らもかなり苦戦している。


コンちゃんはあの鎌相手では相性が悪い。

蔓も根も切断される危険性があるし。


ハニちゃんの「毒針」は銀色の体に弾かれてしまう。

気をつけないと空中の糸に絡め取られる恐れもある。


スラちゃんは左腕。

ウサくんは回復要員。

タコさんは、たぶんどこかに隠れている。

あの金属質の体に麻痺は通るんだろうか?


(いよいよ、「溶岩」しかないかな・・・)


逃げ回りながら、そんなことを考える。

あれなら、金属でも溶かせるはずだ。

でも森の中で溶岩を出したら、どうなるんだろう?

後悔先に立たずだけど、もう少し実験しておくべきだった。


ラクネが張り巡らせる糸は細くて見えにくい。

戦闘中にすべてを視認して燃やし尽くすのは不可能だ。

かといって手当たり次第に炎を出すと火事の危険が増してしまう。


そんな状況で見落としていた糸があったのだろう。

ラクネ・ミニマが突然軌道を変えて、鎌を振り上げてこちらに飛んできた。


「石壁!」


咄嗟に目の前に石の壁を出すと、カーンという金属音が響きラクネ・ミニマが跳ね返った。

地面に落ちてひっくり返った銀色の蜘蛛を見て、反射的にクエストを発動した。

今自分に可能な最大限の大きさの石を10個、ラクネ・ミニマの真上に出現させた。


ラクネ・ミニマとほぼ同じ大きさの丸い石が、銀色のお腹の上に10個続けて落ちる。

ラクネ・ミニマは初めのうちは起き上がろともがいていたけど、途中で動きが弱まり、石がすべて落ちた後はピクリとも動かなくなった。


コンちゃんの根が地面から出てラクネ・ミニマの体を拘束する。

どこからかタコさんが走ってきて、麻痺をかけようとその足を伸ばす。

その瞬間、ラクネ・ミニマの大きな目が開いた。


「危ない!」

「リン(ダメ)!」


僕とスラちゃんが同時に叫んだ。


銀色の鎌がコンちゃんの根を断ち切り、伸ばしていたタコさんの足を斬り飛ばす。   

足を切られて動きが止まったタコさんに次の鎌が迫る。


流石に真っ二つにされてしまうとウサくんのヒールでも回復できないかもしれない。

嫌な想像が頭をよぎった瞬間、間一髪でコンちゃんの蔓がタコさんに巻きつき、タコさんの体を引き戻した。


「死んだふり」というより「気絶したふり」。

光の粒子になって消えなかったので倒せたとは思っていなかった。

でもいわゆる「スタン」状態だと思ってしまった。


油断した自分に腹が立った。

この島で目覚めて一番の怒りが体を満たす。

下手をしたらタコさんが光になって消えていたかもしれない。


手探りしている場合じゃない。

後のことは考えず、全力でいくべきだ。


(「溶岩」を使おう。)


僕はそう決断した。


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