第30話 銀色の切れるやつ(ラクネ・ミニマ)

第一章 はじまりの島(30)



30.銀色の切れるやつ(ラクネ・ミニマ)



〜(戦闘シーン)〜


鋭い鎌状の足が振り抜かれ、タコさんの足が1本、宙に舞った。

コンちゃんの根は、既に切断されている。

さらに逆側からもう一本の鋭い鎌が、タコさんの体に迫る。

コンちゃんの蔓が伸びてタコさんに巻きつき、間一髪でその体を引き戻した。



  *   *   *   *   *



〜時間をその日の朝に戻す〜


朝起きて、まず最初に倉庫の中をチェックした。

そしてその光景にちょっと目眩がした。

昨日2倍の大きさに拡大したにも関わらず、倉庫の棚はもうほとんど埋まっている。


(何が従魔たちをそこまで駆り立てるんだろう? 食材への執着が凄過ぎる。)


よく見ると1棚だけ、何も置いてない棚があった。

昨日の夕食後、再び食材調達に出かける従魔たちに、

「倉庫、僕の分も空けておいてね。」

とお願いしたのでその分だろう。


(全部で40棚くらいあるんだけど、僕の分は1棚だけということだね。 一応ここの主は僕だと思うんだけど。)


倉庫を出てリビングに入ると従魔たちは誰もいなかった。

実は昨日、食事のルールを追加することにした。

朝食は基本的に外で自分たちで食べること。

昼食はその日の状況(討伐クエスト中ってこともある)で僕が判断する。

夕食は僕が「COOK」する。


従魔たちは今まで自然の中で食料を確保していたはず。

それがいきなり調理済みの料理ばかり食べるのは、健康面でも生態系的にも心配だ。


というのはもちろん建前で、本音は3食全員分「COOK」するのが面倒だから。

まだ、従魔が増える可能性もあるし。


自分の朝食を済ませると従魔たちを待たずに外に出た。

これから3度目の森に挑戦する。

今日は朝から森に向かうとみんなには伝えてある。


浜辺を歩いているとタコさんとスラちゃんが走って来た。

草原を進んで行くとウサくんがいつの間にか合流している。

森の手前に到着するとコンちゃんとハニちゃんが待っていた。

これで全員揃った。


森の中を中央に向かって真っ直ぐに進んで行く。

カニバラス・ミニマもハニー・ミニマも1体も現れない。

一度「TAME」に成功するともう襲ってこないのか、コンちゃんとハニちゃんが一緒にいるから襲ってこないのか。

今は判断がつかないけど、そのうち一人で森に入って試してみよう。


森の中には辿るべき道は見当たらない。

ただ斜面ではないし、木々がそれほど密集しているわけでもないので比較的歩きやすい。

それでもいつ新しい魔物と遭遇するか分からないので、警戒しながら慎重にゆっくり進んでいく。


しばらく進むと島の中央にかなり近付いたようで、枝葉の隙間から台地の山頂部分が見えてくる。

もうそろそろハニー・ミニマと戦った領域は抜けた気がする。

それぞれの魔物の出現場所がエリアで分けられているかどうかは分からないけど、未踏エリアは警戒しないとね。


だんだん木々がまばらになり、薄暗かった森の中に日差しが届くようになった。

点々と木漏れ日が落ちる地面を踏みしめながら進んでいくと、周囲の木々より明らかに大きい木が2本、前方に見えた。

少し間隔を開けて横に並んで生えているので、その太い幹が大きな門のように見える。


2本の大木の間を抜けようとした時、左腕に巻き付いているスラちゃんが短く鳴いた。


「リン(止まって)!」


全員が立ち止まり警戒体制をとる。

ウサくんとコンちゃんは姿を隠し、ハニちゃんは少し高い位置から周囲を警戒している。


全員が動きを止めた中、タコさんだけは何を思ったのか、ひとりでトコトコ前に出ていった。

そして頭を斜めに傾げながら、足で前を指し示す。


何があるのかよく見えなかったので、しゃがんでタコさんの視線の高さに合わせてみる。

タコさんの足の先に目を凝らすと、ちょうど膝がひっかかるくらいの位置に細くて白い糸が見えた。


(蜘蛛の糸?)

      

そのとても細い糸は2本の大木の間に張られていた。

なぜこんなところに糸がと考えているとタコさんが足を伸ばしてその糸に触れようとした。


「リン(ダメ)!」


スラちゃんが慌てて叫んだけど少し遅かった。

タコさんはスラちゃんの声にビクッとして、その拍子に足が糸に触れてしまった。


その糸は、おそらく音の出ない鳴子のように侵入者や獲物を感知するためのものだったのだろう。

タコさんの足が触れた瞬間に、上から銀色の塊が落ちてきた。   


「石壁!」


嫌な予感がして咄嗟にタコさんの上に石の壁を水平に出す。

銀色の物体が石壁に当たると、「キンッ」という甲高い金属音が森の中に響いた。


石壁の上を見ると銀色に光る蜘蛛のような魔物が乗っていた。

大きさはタコさんと同じくらいで、前部に2本の鋭い鎌のような足がある。

その2本の鎌を振り上げて、こちらを威嚇している。


空中に出現した石壁は、しばらくすると重力に従って下に落ち始める。

長時間空中に留めておくだけの技量は僕にはまだない。

タコさんが足で必死にそれを支えてるけど長くは保ちそうにない。

コンちゃんも地面から根を出して支えてくれている。


「カン、カン」


ハニちゃんが毒針を連続で撃ち、銀色の蜘蛛を後方へ弾き飛ばす。

その隙にタコさんが石壁の下から逃げ出し、こちらに向かって走って来る。

ハニちゃん、ナイスアシスト。


地面に着地した銀色の蜘蛛はじっとこちらを見ている。

ハニちゃんの毒針は蜘蛛の体には刺さらなかったようだ。

毒が効いている様子もない。

銀色の光具合や甲高い衝突音から判断すると、どうやら体は金属質なんだろう。



○クエスト : TAME

 報酬   : ラクネ・ミニマ

 達成目標 : 100体倒せ 


○クエスト : ラクネ・ミニマを倒せ

 報酬   : 糸(ランダム)

 達成目標 : ラクネ・ミニマ(5体)



クエストが視界の中に表示される。

魔物の名前はラクネ・ミニマ。

クエスト内容は今までと変わらない。

TAMEクエストは100体討伐。

討伐クエストは5体ごとに報酬。


かなり固そうな相手だけど、どうやって倒せばいいの?


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