第29話 安全に耐性を得ます(クエスト:麻痺無効・毒無効)

第一章 はじまりの島(29)



29. 安全に耐性を得ます(クエスト:麻痺無効・毒無効)



「僕に麻痺をかけてくれませんか?」


タコさんの目が点になっている、ような気がする。

他の従魔たちも動きを止め、こちらを見ている。

僕は言葉を続ける。


「タコさん、麻痺をかけても解除できるよね?」


タコさんが2本の足で丸を作る。

僕はウサくんの方を見る。


「ウサくんも、麻痺を解除できるよね?」


ウサくんは僕の目をしばらく見つめた後、ゆっくり首を縦に振る。


「なら問題ない。タコさん、僕に麻痺をかけてすぐに解除して。」


タコさんは少し考えた後で、恐る恐る足を伸ばして「チョン」という感じで僕の腕に触れた。

その瞬間、体が硬直して指一本動かせなくなった。


(これが麻痺・・)


意識は完全にあるのに、体を動かすための命令はすべて遮断されている感じ。

瞬きすることもできないし視線を動かすこともできない。

これを戦ってる最中に受けるとか、考えただけでも怖過ぎる。


タコさんがもう一度チョンと僕の腕に触れた。

途端に硬直が解けて、僕は大きく息を吐く。

念のため体を動かしてどこかに異常がないか確かめる。

大丈夫そうだ。

すぐ横でウサくんが心配そうに見上げている。



○クエスト : 麻痺に耐えろ①

 報酬   : 麻痺耐性(小)

 達成目標 : 麻痺を受ける(1/10)



狙い通り、麻痺耐性のクエストが表示された。

毒耐性のクエストがあるなら、他の状態異常の耐性クエストがあってもおかしくない。

そしてそれを戦いの中ではなく、安全に取得する方法があるのなら、そうした方がいいに決まってる。


「タコさん、続けてくれる?」


それから「麻痺を受けて解除してもらう」を繰り返した。

もちろん毎回、体に異常が出ていないかチェックしながら。

タコさんが麻痺担当でウサくんがバックアップ。

その他の従魔たちは見守り隊という感じでソファの周りに集まっていた。



○クエスト : 麻痺に耐えろ①

 報酬   : 麻痺耐性(小)

 達成目標 : 麻痺を受ける(10/10)


○クエスト : 麻痺に耐えろ②

 報酬   : 麻痺耐性(中)

 達成目標 : 麻痺を受ける(25/25)


○クエスト : 麻痺に耐えろ③

 報酬   : 麻痺耐性(大)

 達成目標 : 麻痺を受ける(50/50)


○クエスト : 麻痺に耐えろ④

 報酬   : 麻痺無効

 達成目標 : 麻痺を受ける(100/100)



無事に「麻痺無効」を獲得することができた。

毒の時は、耐性が上がるにつれて痛みが軽減されていったけど、麻痺の場合は麻痺にかかる確率が変化するようだ。

麻痺の回避率は、耐性(小)で2割、(中)で5割、(大)で8割という感じ。

もちろん麻痺無効になると何度タコさんが「麻痺」をかけても麻痺状態にはならなかった。


さて、実はここで終わりではなくて、まだやり残していることがある。

「毒無効」の獲得だ。


ハニー・ミニマの討伐クエストで「毒耐性(大)」まで達成しているけど、「毒無効」まであと15回毒を受けないといけない。

となると当然ハニちゃんの出番なんだけど・・・。


(「毒針」をわざと受けるのはなかなか勇気がいるんだよね。)


そんなことを考えながらハニちゃんのほうを見ていると、タコさんが足を一本真上に上げた。

発言を求める時の生徒のように。


「タコさん、どうしたの?」


尋ねてみるとタコさんは上に伸ばした足でビシッとダイニングテーブルの方を指した。

その先にはジュエルたちが入っている水槽がある。


「ジュエル?・・・弱毒! タコさん、天才!」


ということでジュエルの「弱毒」を15回受けて、「毒無効」獲得に成功。

「毒耐性(大)」があると「弱毒」はほとんど効果がなかったけど、カウントはされたようだ。

タコさんから「弱毒」を強要されたジュエルたちは、かわいそうに怯えてたけどね。



   *   *   *   *   *



その日の昼ご飯から、食事に関してルールを作ることにした。

従魔たちの「食材山盛り攻撃」への対策だ。


まず僕がキッチンのシンクの前に立つ。

従魔たちが各々、自分が食べたい食材を持って並ぶ。

先頭の従魔が手に持った食材を僕に渡す。

僕が食材を受け取り「COOK」で料理を出す。

従魔がその料理を受け取って自分でテーブルまで運ぶ。

次の従魔が食材を僕に渡す。

以後、繰り返し。


ちなみに、倉庫内の食材は僕が自由に使っていいそうだ。

コンちゃんが「好きなだけ食べて下さい」という意思を伝えてきたけど、虫は・・まだちょっと・・無理かな。


スラちゃんも「どうぞ、どうぞ」と推してきたけど、鉱石類を食べるのは、この先・・たぶん・・ないかな。

でも錬金の実験には使わせていただきます。


昼食後に森に行こうかとも考えたけど、今日は小屋で過ごすことにした。


従魔たちとソファでだらだらしながら、思いついたことや、やり残していたことを少しずつこなしていく。


(もう少し照明を作ろう。)


現在の照明はリビングに1つ(ジュエル3体)、寝室と浴室とトイレに1つずつ(ジュエル1体)の合計4つ。

倉庫と作業部屋にそれぞれ1つと、リビングにもう1つ増やしたい。


「ウサくん、砂浜の砂を取ってきてくれる? 作業部屋で錬金したいんだけど。」


ウサくんは「影潜り」で砂浜に移動し、作業部屋に大量の砂を運び入れてくれた。


「タコさん、倉庫にまだジュエルある? とりあえず3体。」


まだ倉庫の中にジュエルの在庫があったようで、タコさんはすぐにジュエルを3体持って来てくれた。


ウサくんとタコさんの協力のおかげで、あっという間に追加の照明が完成した。

早速各部屋に設置してみる。

ジュエル1体だとちょっと暗いかもしれないけど、明るさの調整はまた後で考えればいい。

ジュエルの数を調整するだけだしね。


もしかするとこの世界には電気や魔力型の照明が存在するのかもしれない。

でも今は入手方法が見つからない。

クエストもいろいろ試してみたけど反応しないし。

まあ「ジュエル照明」でも特に問題はないから、いいかな。


(薬草からできた液体、確認できるかな?)


倉庫の棚から青くて透明な液体を持って来る。

確認といっても自分で鑑定できないので、薬草に詳しいと思われるウサくんに聞いてみるしかない。


「ウサくん、これ何か分かる?」


僕の問いかけにウサくんは頷いて、右前足で自分のツノを指す。

その動きの意味を少し考えて、2つの可能性が頭に浮かんだ。


まず右手を前に差し出して質問する。


「ウサくんがヒールを使うために飲むもの?」


ウサくん、薬草をよく食べてるからね。

この液体もウサくんのヒール発動の原料になるのかもしれない。


次に左手を前に出して質問する。


「ヒールと同じ効果があるもの?」


ウサくんは迷わず僕の左手に触れた。

つまりこれは、回復系のポーション。

重要なことなのでさらに追加で確認してみる。


「効果は、ウサくんのツノとまったく同じ?」


ウサくんは頷いた。   

うん、頷いたね。

ということは、この液体には少なくとも治癒と解毒と浄化の効果があるということ。          

そんなものが簡単にできちゃっていいのか?

自分の中で「ヒール・ポーション」と勝手に名付けておこう。


(あと錬金を試してないのは・・・)


そういえば「水」があったなと思い、クエストで水を出して「錬金」してみた。

残念ながらまったく反応しなかった。


関連で思いついたので、海まで行って海水を「錬金」してみると、白い粉になった。

舐めてみるとしょっぱい。

見事「塩」の獲得に成功したようだ。

でも「COOK」で料理しちゃうので、塩の出番がないんだけど。

まあ、もし島の外に出られるようになったら、売ればいいか。



いろいろ試した後でソファでだらだらしてると、従魔たちが迫ってきた。

視線の圧力が強い。


(はいはい、分かりました。)


何も言わなくてもどうして欲しいかは分かる。

倉庫を拡大して欲しいのね。


外に出て倉庫の広さを2倍にと願うと、視界の中に表示が出た。



○クエスト : 倉庫を広くしたい(HOME)

 報酬   : 倉庫(拡大 基本×4)

 達成目標 : 5秒間ダッシュ(20本)



「中のヒト」、これ、間違ってないですか?

20本になってますけど。


…30本でもいいぞ…


いえ、遠慮します。

20本、走ります。


砂浜でダッシュ20本を終えて小屋に戻ると、従魔たちが入れ違いで嬉々として出て行った。

また食材が増えるんだろうな。


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