第22話 きいろのぶんぶん飛ぶやつ(討伐クエスト:ハニー・ミニマ)

第一章 はじまりの島(22)



22. きいろのぶんぶん飛ぶやつ(討伐クエスト:ハニー・ミニマ)



〜(独白)〜


正直なところ、苦戦してます。

空中を高速で移動する「きいろいやつ」。

しかも緩急があり、軌道もランダム。

「炎」を連発してますが、なかなか当たりません。

タコさん、どうしたらいいですか?



   *   *   *   *   *



木々の向こう側から「ぶ〜ん」という振動音が段々近づいて来る。

明らかに昨日のカニバラス・ミニマとは別の魔物だろう。


仲間の魔物たちからも緩んだ気配が消え、それぞれに臨戦体制に入ったのが分かる。


コンちゃんは周囲の緑に紛れたようで、いつの間にか姿が見えなくなっていた。


後ろのほうでその辺の草をモグモグしながらついて来ていたウサくんも、「影潜り」でどこかに潜んだようだ。


スラちゃんは左腕に巻きついたままで、「リン(前)! リン(1体)!」と2回鳴いて、前方の森の中に未知の魔物が一体いることを知らせてくれる。


みんな昨日よりも本気度が高い気がする。


そして最後にタコさんは・・・おにぎりをかじっていた。

思わず二度見してしまう。

やっぱりおにぎりをかじっている。

度胸があるのか、鈍感なだけなのか。

タコさん、お弁当を食べるのはまだ早いと思うけど。


おにぎりを食べるメンダコの魔物を見て抜けてしまった気合いをもう一度入れ直す。

森の向こう側から聞こえる振動音は、徐々に大きくなってくる。

こちらに近付いているのは確かだけど、その姿はまだ見えない。


今日の相手がどんな魔物なのかはまだ分からない。

でもとにかく何か戦う準備をしなきゃと思い、携帯していた黒い短剣を右手でしっかりと握り、腰を落として慎重に構えた。

そう言えば昨日は短剣を使うのを忘れていた。

まあ、「炎」だけで戦ってたからね。



○クエスト : 短剣を成長させろ

 報酬   : 剣(黒)

 達成目標 : 魔物を倒す(1000体) 

 カウント : 100/1000



このタイミングでクエストが表示された。

「短剣クエスト」のことは、すっかり頭から抜けてたけど、いつの間にかカウントの数値が100/1000に変化している。

昨日倒したカニバラス・ミニマの数が加算されたってことだろうか?

短剣は全然使ってないんだけどね。


クエストに対する疑問を思い浮かべているうちに、振動音がさらに大きくなる。

そして木々の陰から今日の対戦相手がゆっくりとその姿を現した。


その魔物は空中に浮かんでいた。

聞こえていた振動音は魔物の羽音だったようだ。

大きさはタコさんと同じくらい。

全身が黄色の短毛で覆われていて、透明な羽が二対ある。

その造形は蜂をそのまま大きくしたような感じだ。



○クエスト : TAME

 報酬   : ハニー・ミニマ

 達成目標 : 100体倒せ     



(炎!)


視界に映る「TAME」クエストを確認しながら心の中で叫ぶ。

考えるより先手必勝。

腕も上げず、声にも出さず、いきなりハニー・ミニマを狙って炎のクエストを発動した。


「ぶん」


しかしまるで瞬間移動でもしたかのように、ハニー(ミニマを省略)は一瞬でその位置を変えて炎から逃れた。


(どうして分かったのかな? 動作にも声にも出してないのに。気配でバレたのか?)


「炎」は、火の玉が飛んでいくのではなく、狙った場所に炎の塊を出現させるものだ。

狙いさえ正確なら、簡単に避けられるものじゃないと思うんだけど。

でもハニーは発動のタイミングを読み切ったように炎を避けた。


(それなら数で勝負しようかな。火事には気をつけないといけないけど。)


次の作戦を考えていると、突然ハニーの動きが変わった。


「ぶんぶんぶん」


飛び方が完全にランダムになる。

しかも速い。

これではまったく軌道が読めない。

まるでこちらの作戦を察知したかのような行動だ。


「リン(針)!」


スラちゃんが警告を発した。

何かがこちらに向かって飛んでくる。

せっかくスラちゃんが知らせてくれたのに、回避が少し遅れてしまう。

どうやって攻撃を当てるかに気を取られ過ぎていたせいだ。


ハニーが口から飛ばした針が右腕を掠めた。

なんとか直撃は避けたけど、掠めた場所にうっすらと血が滲む。

そしてその傷口から鈍い痛みが右腕全体に拡がっていく。



○クエスト : 毒に耐えろ①

 報酬   : 毒耐性(小)

 達成目標 : 毒を受ける(10回)

 カウント : 1/10



視界に新たなクエストが表示される。

毒耐性のクエストだ。


(このタイミングでクエストですか? でもこれ、達成する前に死なないですかね? この体で毒10回分とか耐えられます? すでに右腕全体がダメな感じなんですけど。)


内心で「中のヒト」に抗議していると右腕に後ろから何かが触れた。

触れた場所から熱が拡がり、右腕全体を包み込む。

拡がった熱が収まると痛みも傷口もすべてが綺麗に消えていた。


振り返るとそこにはウサくんが澄まし顔で座っていた。


(ウサくん、解毒もできるの? うちの子、優秀過ぎる。)


ウサくんは(頑張れ)って感じで右前足でガッツポーズを作り、そのまま影の中に沈んでいった。


クエスト達成のためには、飛んでくる毒針を体で受けたほうがいい。

そうすれば毒耐性を獲得できる。

それは分かってるんだけど、いざ毒針が飛んで来ると反射で避けてしまう。

しょうがないよね、怖いんだから。


ハニーが炎を避け、こちらが毒針を避ける。

そんな攻防がしばらく続いたところで、「キーッ」という甲高い音が響いた。

ハニーの鳴き声らしい。


(このタイミングで鳴くとか、嫌な予感しかしないな。)


そして「嫌な予感」は基本的によく当たる。

すぐにどこからか「ぶ〜ん」という音が聞こえてきた。

  

「リン(右)!」


ベルちゃんから注意喚起の声が飛ぶ。

空中のハニーを警戒しながら右の方に視線を向けると、木々の間から2体目のハニー・ミニマが姿を現した。


(1体でも苦労してるのに、2体同時とかどうすればいいの?)


2体目のハニーはすぐに戦線に参加してくる。

ランダムモードで飛び回るハニー×2。

仕方がないので、攻撃より防御に重点を置き、転げ回り、逃げ回り、木の裏に隠れる。


ハニーたちはこちらが狙いにくいように、お互いに距離をとりつつ連携して攻撃してくる。

「炎」で物量作戦を取ろうと思ったけど、デタラメに発動すると間違いなく森の中が火事になる。

火事に対応しながら複数のハニーと戦うなんてハードルが上がり過ぎる。


さすがに2体による連携攻撃を避け続けることは難しく、何度も毒針で負傷してしまう。

でもその度にウサくんが影潜りで現れて解毒してくれた。

ウサくん、ありがとう。

あとで薬草、いっぱいあげるね。


「キーッ」 (×2)


逃げ回っていると再びハニーの鳴き声が森の中に響いた。

しかも今回はダブルで。

当然、新たに2体のハニー・ミニマが現れる。

合計で4体。


(これちょっとハード過ぎませんかね。カニバラス・ミニマから難易度上がり過ぎ!)


このままだと対応できない。

早く倒さないとネズミ算式に増えてしまう(蜂だけど)。


(撤退するしかないか。)


諦めて逃げ出そうかと考えていると、左腕のスラちゃんが大きな声で鳴いた。


「リン(水)!」


(水?)


予想外のスラちゃんの指示に思考が一瞬停止した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る