第20話 またひとつ階段を昇ります(NO LIMIT②)

第一章 はじまりの島(20)



20.またひとつ階段を昇ります(NO LIMIT②)



〜(独白)〜


森に少し入った所からなかなか進めていません。

次から次へと休む暇もなくカニバラス・ミニマが襲ってきます。

転がり回っているせいか、お腹が空いてきました。



  *   *   *   *   *



(そう簡単にはうまくいかないよね。)


初戦闘はかなりラッキーパンチ的な勝利だったことが、その後の戦いで判明した。


戦い方は単純だ。

鞭のように振るわれるカニバラス・ミニマの蔓に「炎」で火をつける。

蔓が導火線のように燃えて、本体も燃える。

THE END。


問題は、「炎」の精度。

初回はタイミングも位置も完璧だった。

でも毎回そううまくはいかない。

少しでもずれると炎をすり抜けた蔓が自分に向かって飛んでくる。


スラちゃんの正確な指示のおかげで、まともに攻撃を受けることはないけど、回避行動をしながらの「炎」の発動はどうしても精度が下がってしまう。


時には狙いを外し過ぎて木を燃やしてしまうこともある。

そんな時は慌てて「水」を出して消火した。

火事になると、こっちの逃げ場がなくなるからね。


さらにはカニバラス・ミニマも戦いながら学習するようだった。

蔓よりも根で攻撃することが増え始める。

蔓を燃やせば本体まで炎が届くけど、根の場合は燃えるのは地上から出てる部分だけで本体まで届かない。


ちょっと疲れてきたので、ウサくんに言ってみた。

「手伝ってくれないかな?」

毎回あれだけの野菜を集めてくるんだから、戦えるんじゃないのかな。


でもウサくんは、モグモグしながらこちらを見つめるだけだった。

“ボク、戦えないよ“ なのか、“今は戦う気分じゃないよ“ なのか、判断がつかない。


タコさんは乾燥するのが嫌なのだろう、時々「水バシャン」を要求してくる。

今、それ所じゃないんだけどね。


なんだかんだ苦労しながらも、数をこなせば体のほうが慣れてくる。

50体目のカニバラス・ミニマを倒す頃には、蔓さえ視認できれば、「炎」一撃で倒せるようになっていた。


50体目を倒したところで、一時的に襲撃が止んだ。

しばらく周囲を警戒してみたけど、新しい敵は現れない。

スラちゃんの索敵にも反応がなく、キリがいいところでインターバルがあるのかもしれない。


(今のうちに、ちょっと休もう。)


意識の半分は警戒しながらも、地面に腰を下ろして休憩する。

動きっぱなしだったので筋肉にも疲労が溜まっている。



ウサくんとタコさんのほうを見ると、そこにはタマネギが山のように積まれていた。

討伐クエストの報酬だ。


クエスト「カニバラス・ミニマを倒せ」は常時クエストのようで、5体倒すごとに毎回報酬として野菜が出るようだ。

合計10回達成したけど、報酬はすべてタマネギだった。


(中のヒト、確か「ランダム」って書いてましたよね。同じものが続くのも「ランダム」のうちってことですか。)  


山と積まれているタマネギを見ながら、どうしたものかと考えていると、ウサくんがタマネギの山に右前足で触れた。

ウサくんとタマネギが少しずつ森の地面に沈んでいく。

呆気に取られて見ていると、しばらくしてウサくんだけ戻ってきた。

ウサくん、そうやって野菜を運んでたの?

影潜り、便利だね。


お腹が空いたのでみんなにおにぎりを配ることにする。

薬草や小石も出そうかと思ったけど、みんなおにぎりを美味しそうに食べてるし、いつ戦闘が再開されるかもしれないのでおにぎりだけにしておいた。

スラちゃんも金色の腕輪から普段の姿に戻って、おにぎりをシューシューと吸収している。


カニバラス・ミニマの襲撃はしばらく治まっている。

間違いなく50体倒したところで一時休憩って感じ。

スラちゃんも特別に警戒している様子がないので、少し気持ちを緩めることにする。

精神的な疲れを取るのも大事だからね。


体を見るとあちこちにすり傷や切り傷ができていた。

強い打撃は受けなかったけど、蔓や根がわずかに当たることは何度かあったし、回避のために転げ回ったりしたので仕方がない。


「水」を出して傷の周りの汚れを落としていると、おにぎりを食べ終えたウサくんが近寄ってきた。

右手を伸ばして撫でようとすると、ウサくんは頭を下げてツノをその手に押し当てる。


(おお、気持ちいい。)


右手から暖かい何かが流れ込み、全身に拡がるのが分かった。  

思わず目を閉じて心地よさに身を任せる。

暖かさが消えた後、全身を確認すると、傷はすべて消えていた。

汚れていた服も綺麗になっている。


(ウサくん、ありがとう。)


こちらを見上げるウサくんの頭をポンポンとして感謝を伝える。

ウサくんは「別に」って感じでポーカーフェイス。

タコさんとスラちゃんを見ると、食事を終えて何やら準備運動みたいなことをしている。


(そろそろ休憩を終えるとしますか。後半戦に突入だね。さあみんな、奥へ進むよ。)



   *   *   *   *   *



休憩を終えて森の奥に向かって進み出すと、すぐにカニバラス・ミニマとの戦いが再開された。

ただパターンが前半と少し変わったようだ。

休憩前は1体ずつとの戦いだったけど、休憩後は一度に2体出てくるようになった。


敵が1体増えただけと考えればたいしたことが無いように思えるけど、相手からの攻撃量が倍になると思うと結構大変だ。

しかも連携攻撃も複雑になる。

蔓と根1本ずつの連携だったのが2本ずつになると、蔓と蔓、根と根、蔓と蔓と根、蔓と根と根という具合にバリエーションが一気に増える。


最初は逃げ回るのに精一杯で、森の中をバタバタ、ゴロゴロ、ピョンピョンしていた。

でも段々慣れてくるとなんとなく打開策が見え始める。

相手の攻撃をギリギリで避けながら、少しずつ作戦を修正していく。


カニバ1体と戦う時の作戦は基本的に簡単だった。

『根を避け、蔓が来たら燃やす』というもの。

蔓を燃やせば本体まで燃やすことができたからだ。

でも敵が2体以上になると、攻撃対象を選んでいる余裕がなくなる。

そこで作戦を修正し、『根も蔓も見たら全部燃やす』ことにした。


とにかくまず相手の攻撃を避ける。

そして攻撃を避けながら、狙えれば蔓でも根でもすべて「炎」で燃やす。

根を燃やせば根の攻撃が減り、蔓を燃やせば本体を仕留めることができる。

この作戦なら相手の攻撃がどれだけ増えても、基本的な対応は変わらない。

ただひたすら『見たら燃やす』の繰り返しだ。


戦闘の数をこなすにつれて、新しい作戦がスムーズに回り始める。

最後の方は一度に出現するカニバラス・ミニマの数が3体に増えたけど、なんとか合計100体まで倒し切ることができた。



○クエスト : FIRE

 報酬   : 炎(NO LIMIT 個数・規模)

 カウント : 503



気がつくと視界の中にクエストが表示されていた。

いつの間にか『FIRE』のカウントが500を超えていたようだ。

クエスト500回達成で、NO LIMITに『規模』が追加されている。

しかし規模制限がない「炎」って大丈夫なんだろうか。

試してみないと何が起こるかよく分からないけど。


この流れでいくと、「WATER」と「STONE」も500回達成で規模制限が無くなりそうだ。

「ICE」も同じかもしれない。

「RICE」と「HERBS」は・・・。


おにぎりの個数・規模無制限?

うん、まったく使い所が想像できない。


くだらないことを考えていると目の前に光が集まり、その中からカニバラス・ミニマが1体出現した。

トウモロコシのような体に白い星マークがひとつ付いている。

敵ではなく、「TAMEクエスト」の報酬のほうだろう。

そしてその横には玉ねぎの山が・・・。


「中のヒト」、クエスト報酬の(ランダム)の表記、削除してもらっていいですか?

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