第9話 残った組み合わせは(スラちゃん:ベル・スライム)

第一章 はじまりの島(9)



9. 残った組み合わせは(スラちゃん:ベル・スライム)



ウサくんは三つ目の薬草の束を食べ終えて、満足したように目を閉じて香箱座りをしている。

試しに手を伸ばして体に触れてみたが逃げ出す気配はない。


(少し、大きくなったような。)


比較対象がないので感覚でしかないけど、サイズがさっきとは違う気がする。

テイムすると、普通の個体と少し変化するのかもしれない。

白い星のマークも付いてるしね。


意思疎通についても確認してみる。


(お座り。)


心の中で呟く。

ウサくんは背筋を伸ばして座り直した。


(お手。)


これも心の中で。

ウサくんは右前足を差し出した。


「おかわり。」


今度は声に出してみる。

ウサくんは左前足を差し出した。


声に出しても出さなくても確実に通じている。

タコさんの時と同じだ。

調子に乗ってウサくんの薄茶の毛並みを撫でてみると、とても滑らかで柔らかかった。

もふもふが大好きな人の気持ちが理解できた気がする。


ウサくんは気持ちよさそうに、しばらくむにゃむにゃしていたけど、何かを感知したのか耳をピンと立てた。

顔を上げて草原の奥の方を見ると、いつの間にかお饅頭がいくつか出現していた。


(迎えにきたのかな?)


ウサくんはこちらを見上げ、耳を左右に二回振った。


(それはたぶん「バイバイ」だよね。)


僕が右手でバイバイすると、ウサくんはクルリと背中をむけて仲間と思われる群れの方へ跳ねていった。

ウサくんが群れに合流すると、薄茶色のお饅頭の集団は初遭遇の時と同じ様に、草原の中へ沈み込むように消えていった。



(さて、最後の組合せは・・・)


浜辺の方に歩いて戻りながら、次の作戦を考える。


残った組み合わせは、小石と金色の「スラちゃん」。


流れから展開は読めるけど、それが正解とは限らない。

まあ、間違えても何も問題はないけどね。


空を見ると太陽は天辺を過ぎて、やや傾き始めている。


お腹が空いたので浜辺でおにぎりを二つ食べ、水を二杯飲んだ。

念のためタコさんが来た場合に備えて、おにぎりと水を追加で5セット置いておく。


小石を10個、両手で抱えて岩場の方に移動した。

出発地点の浜辺がどこかよく分からなくなっていたので、とりあえず1番近くにある岩場に行ってみる。


岩場と砂浜の境目まで来ると、探すまでもなく昨日聞いた音(鳴き声?)が聞こえてくる。


“リーン、リーン“


こちらが岩場の中まで探しに行くと、また逃げられてしまうかもしれない。

たぶん、スラちゃんが一番警戒心が強いよね。

そう考えて少し岩場から離れて作戦を開始する。


小石はピンポン球を微妙に押しつぶしたような、そんな大きさと形をしている。

両手に持っている10個の小石のうち3個を砂浜の上に落とし、そこから10歩ほど離れて座る。


斜めになった日差しを浴びながら、できるだけのんびりした気分を心がける。

強い感情は感知される、なんとなくそんな気がする。


スラちゃんはなかなか姿を表さない。

警戒心が余程強いのか。

あるいは小石にはまったく興味がないのか。

ただ時間はたっぷりあるので気長に待ち続けることにする。


海からの風がパタリと止まった頃、ようやく岩場の陰からスラちゃんが姿を現した。



○クエスト : TAME(ベル・スライム)

 報酬   : ベル・スライム(1体)

 達成目標 : とにかく触れ



「餌付け」とか考えるまでもなく、スラちゃんを見た瞬間にクエストが表示された。

達成目標が「とにかく触れ」ということは、触ることが非常に難しいということなんだろうな。


種族名はベル・スライム。

やっぱりスライムの1種ってことだよね。


スラちゃんは、そろりそろりという感じで砂浜に落ちている3個の小石に近づいて来る。

ここまではウサくんの時と同じ。

あまり見過ぎないように気をつけて、視界の隅でその様子を観察する。


スラちゃんは、3個の小石に近づくと体の端っこを伸ばしてつんつんする。

そのへんはタコさんの動きに似ている。


危険性の有無でも確認したのか。

あるいは味見でもして納得したのか。

スラちゃんは、おもむろに小石の上に乗り、金色で透明な体の中に取り込んだ。

スラちゃんの中で小石がシュワシュワしている。

見ていると3個の小石があっという間に溶けて消えた。


スラちゃんが小石を消化(?)したのを確認した後、できるだけ驚かさないようにゆっくりとした動きで立ち上がってみた。

スラちゃんは二つの目でこちらを見ている。

敵か味方か、有害か無害か、じっくり見定めているのかもしれない。


一歩、足を踏み出すとまたあの音が聞こえた。


“リーン、リーン“


(これは警戒音なのかな。これ以上近づくのは無理かもしれないな。)


さて、どうしようかな。

こちらから近づくと確実に逃げ出すと思う。


しばらく考えて近づくのは諦めることにした。

その代わりに小石をひとつ投げてみることにする。


攻撃していると思われないように、スラちゃんがいる位置からかなり逸れた方向に小石を山なりに投げる。


スラちゃんの目が小石の行方を追う。


その小石が砂の上に落ちると、スラちゃんはかなりの距離を横に飛び、小石を体内に確保した。

体の割に、ジャンプ力が半端ない。


続けて今度は逆の方向に小石を投げてみる。

スラちゃんは同じ様に反応して小石に飛びつく。

やっぱり結構な距離を跳ねている。


(あのジャンプ力、利用できるかもしれない。)


スラちゃんの動きを見ていて、ひとつ作戦を思いついた。

ダメもとで試してみよう。


小石をひとつ手に持ってスラちゃんに見せる。

そしてそれをゆっくり山なりに投げる。

スラちゃんは、それを目で追いかけて飛びつく。

スラちゃんの視線がこちらから外れたタイミングで、数歩だけ近づいて止まる。


なんというか、「だるまさんがころんだ」戦法だ。


同じことをさらに3度繰り返すと、距離は最初の半分くらいまで縮めることができた。

手には最後の小石。

もちろん小石の追加は可能だけど、これ以上近づくとさすがに逃げられる気がする。


ゲームみたいでちょっと楽しくなってきたけど、おそらくチャンスは一度だけで、最後はギャンブルみたいなものだろう。


最後の小石を手に持ち、スラちゃんに見せる。

なんとなく雰囲気で、ニヤリと笑ってしまう。

気のせいかスラちゃんの表情も、「さあ来い」って感じに見える。


小石を持った右手を下から上にゆっくりと振り上げる。

今までより高く山なりに、そして初めてスラちゃんに向かって真っ直ぐに小石を放り投げる。


スラちゃんの目が小石を追いかける。

その軌道はスラちゃんの頭上を越えていく。

スラちゃんはタイミングを測り、大きく真上にジャンプして見事にその小石をキャッチした。


スラちゃんの体は空中高く浮いている。

スラちゃんに触れるチャンスはここしかない。

僕は落下してくるスラちゃんの下に真っ直ぐに走り込み、その体を両腕でしっかり受け止めた。


(作戦成功!)


さすがのスラちゃんも、空中で逃げることはできなかったようだ。

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