第10話 魚の食べ方(クエスト:FIRE)

第一章 はじまりの島(10)



10. 魚の食べ方(クエスト:FIRE)



作戦は成功した。


空中高くジャンプしたスラちゃんを両腕でしっかりと受け止めることができた。

柔らかいと思っていたスラちゃんの体は、受け止めた時はカチコチに硬直していた。


(防御反応かな?)


一呼吸おいて、スラちゃんの全体が光に包まれた。

光が収まるとスラちゃんの硬直が解けて、柔らかくなった感触が両腕に伝わってきた。

スラちゃんがモゾモゾし始めたので、砂浜の上にそっと降ろしてみる。


スラちゃんがこちらを見上げてくる。

改めて見ると、くりんとした目に愛嬌がある。

もう逃げる気配もなければ、リーンリーンと鳴く事もない。

そしてその金色の体には、白い星のマークがひとつ浮かんでいる。


しばらくスラちゃんと見つめ合っていると、体の端っこを器用に伸ばして僕の脚をトントンしてきた。


「どうしたの?」


思わず声に出して聞いてみる。

スラちゃんがまたじっと見上げて来るので、しゃがんで頭を撫でてみると、もう一度僕の足をトントン。


「もしかして、石?」


速攻でうなづくスラちゃん。

まだお腹が空いてるんだね。

クエストで小石を5個出してスラちゃんにあげることにした。


(この島の魔物たち、食い意地張り過ぎじゃないかな。食べ物が不足してるんだろうか?)


そんなことを考えているとメッセージ表示が連続で流れた。


…しょうがねぇなぁ…

…予定より早いが…

…特殊クエスト達成、特別報酬だ…


何か、とても不本意だという雰囲気満載の「中のヒト」。

予定って何だろう?

それに特殊クエスト?

スラちゃんをテイムするの、特殊クエストだったの?

そんな表示どこにもなかったけど。

あと特別報酬って?


いろいろ思いながら続きを待ってみたけど、何も起こらない。


(説明は・・・?)


…見れば分かる(怒)…


ですよね。

塩対応は分かってましたが、ちょっと質問してみました。


さて、「見れば分かる」特別報酬とは?

周囲を見回してみたけど、特に変化はない。

海、空、砂浜、岩場、草原、森、台地(あるいは山)。

そして足元にスラちゃん。


スラちゃんは、小石を食べて(吸収して?)満足したのか、体をゆらゆらさせている。

なんか微笑ましい感じ。

その様子を眺めていると視界に表示が現れた。



 ○「スラちゃん」 : ベル・スライム(☆☆☆)

  体型 : 小型

  体色 : 金色がかった透明

  食性 : 鉱石を食べる。

  生息地: 鉱石が豊富な場所(岩山・鉱山・洞窟等)にいる。

  特徴 : 警戒心が強い。

       他の生物、敵意や害意を感知すると鈴の音で鳴く。

       攻撃を受けると硬化する。

  特技 : 硬化・変形・逃げ足・気配察知



確かに「見れば分かる」。

スラちゃんに関する情報が詳しく表示されていた。

これは「鑑定」能力だろうか?


正直な気持ちを述べよう。

グッジョブ、「中のヒト」。

態度はもう少しどうにかしてほしいけど。  


改めてスラちゃんの情報をチェックしてみる。


星が3つというのは種族としてまあまあレアってこと?

基準を知らないので、これだけだと判断がつかない。

あの音はやっぱり警戒音だったんだね。

硬化は体がカチコチになるやつで、変形は体の形が変わる?

逃げ足は確かに速かったし、当然気配察知もあるんだね。


もし鑑定が可能になるならこんなありがたいことはない。

ただ問題は、この能力の範囲はどこまでかということ。

試しに周囲を見回してみる。

岩場を見ても鉱石の種類は表示されないし、草原を見ても植物の情報は出てこない。


残された可能性は、テイムした魔物だけなのか、それとも魔物全般なのか。

その答えは、図らずも翌日の朝判明することになる。



   *   *   *   *   *



浜辺が薄暗くなり始めると、スラちゃんは岩場の方へ帰って行った。


する事もないので、おにぎりと水を置いた場所まで戻る。

おにぎりと水は、両方とも綺麗に無くなっていた。

タコさんが来たようだ。

新たにおにぎりと水を2つずつ出して自分で食べる。


(タコさん。)


心の中で呼びかけてみたけどタコさんは現れない。

海は規則正しく波音を響かせるだけ。

空には少しずつ星が見え始めている。


(ウサくん。)


草原の方を振り返り声に出さずに呼んでみた。

お饅頭はどこにも見当たらない。

時折サラサラと草がこすれる音がする。


「スラちゃん。」


岩場に向けて声に出してみる。

反応は・・・ない。


寂しくはない、いや、少し寂しい。

砂浜に寝転がり瞬き始めた星を見る。

夜の長さも、昼の長さも、どれくらいあるのかよく分からない。

暗くなれば寝て、明るくなれば起きる。

それでいいか、と思っているうちに眠りに落ちた。



   *   *   *   *   *



(ん? なんか乗ってる?)


お腹の上に重みを感じて目を開けた。

そこには、まん丸お目々のタコさんがいた。



 ○「タコさん」 : クラーケ・ミニマ(☆☆☆)

  体型 : 小型

  体色 : 赤色

  食性 : 雑食(好物:おにぎり)

  生息地: 浅い海にいる。陸上活動も可能(乾燥には弱い)。

  特徴 : 攻撃的ではないが、麻痺させて獲物を狩る。

       可食。(かわいいので食べるには勇気がいる。)

  特技 : 墨吐き・麻痺・逃げ足・水流操作



ぼんやりした視界の中にタコさんの情報が表示された。

それを見て寝ぼけていた頭がはっきり覚醒した。


タコさん、麻痺とかできるんだね。

墨吐きって、そのままの意味なのかな。

逃げ足は納得(経験済み)。

水流操作はどんな能力だろう?

好物のおにぎりは・・完全に後付けだと思う。

あと、可食って・・・。

まあ、食べる気にはならないけどね。


タコさんの情報をよく吟味した後で、ゆっくりと上体を起こした。

タコさんをお腹の上から落とさない様に気をつけながら。


タコさんが僕を見ながら足を1本、真横に伸ばす。

その指し示す方に顔を向けると、薄い青色をした魚が3体、砂浜に転がっていた。

よく見るとその魚には透明な羽の様なものがある。



 ○アゴー・フライ(☆☆)

  体型 : 小型

  体色 : オーシャンブルー

  食性 : プランクトンや幼魚を食べる。

  生息地: 浅い海で群れを作る。

  特徴 : 体の左右に翼状のヒレが2組4枚ある。

       海の上を一定時間飛ぶことが可能。

       可食。(焼き魚がおすすめ。出汁にも良い。)

  特技 : 飛翔・水鉄砲

  


(飛び魚・・・)


…アゴー・フライだ(怒)…


「中のヒト」、そこに反応するの?

でも昨日の疑問は一応解決。

テイム以外の魔物の情報も表示されることが分かった。

これはかなりありがたい。

あとは、普通の動物にも適用されるかどうか。

この島、「普通の動物」っているんだろうか?


タコさんは、お腹の上から降りると、3体の魚を器用に持ち上げて、こちらに差し出す。


「食べろってこと?」


声に出して尋ねるとタコさんはコクリとうなづいた。

差し出された魚を受け取って、どうしようか考える。

生のまま食べるのは抵抗がある。


(確か、おすすめは焼き魚って・・・)


そこまで考えるとクエストが表示された。



○クエスト : 火をつけろ

 報酬   : 焼き魚

 達成目標 : 逆立ち(10秒)



そう来ましたか・・・。

やってみるしか・・ないんだろうな。



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