第5話 本当にバカみたい
日曜日は少しボーッと過ごしつつも、結衣とメッセージでやり取りを重ねた。
今日は家を出ても瑠璃さんはおらず、少し寂しく登校する。
廊下で乃愛に聞いた話だが、瑠璃さんは今日は熱で休みになったらしい。
「次の土曜日に二回目行きませんか?」
乃愛からそんな誘いを受けるけど、俺もこれは何周かしないといけないなと思ってたところだった。
「うん、行こう」
「入場特典が変わる毎にとかも大丈夫ですか?」
「もちろん、そのつもりでいたよ」
「これからデート三昧ですね」
乃愛は「ふふふっ」と笑みを浮かべていて、嬉しそうで何よりと俺の口角もあがる。
まあ、このデートは男女で出掛ける事を指してるだけで、恋愛感情なんてない事は分かる。
♢ ♢ ♢
「君が一ノ瀬さんだよね?今日カラオケとかどう?」
教室から、廊下でかわいらしい後輩にかまけてる裕也を見て嫉妬心を抑えていると、名前も知らない人に声をかけられる。
チャラ男ぶってるだけと言うのが分かるほど、見た目も振る舞い方もダサかった。
だから──いや、そうでなくとも、私は無視して最近読み進めてるラノベを開く。
「おーい、一ノ瀬さん?誘ってあげてるんだけどー」
下心が透けて見えて吐き気がする。
裕也に助けてと視線を送るも、裕也はかわいらしい後輩と楽しそうに話すばかりで、私には気付いてくれない。
私は、無視を続ける。
「俺の彼女にしてあげてもいいと思ってたんだけど、やっぱりセフレがよかったか〜カラオケじゃなくてホテルにしようか?」
仮に私が噂通りの人間だったとして、高校生に払えるレベルのそれで満足するのだろうか。高校生の技術で満足するのだろうか。
私にはまだ分からない話だけど、このやり場のない嫌悪感は一生残ると思う。
「結衣ー、昨日の書類書いてきてくれた?」
吐き気が限界に達しそうになったところで、廊下の方から裕也の声が聞こえてきた。
遅いよ……
そうは思うものの、きっとこれが一番自然な形だったんだろうなと思う。裕也も苦しい思いをしながらなんだろうなと、声色でそう感じる。
私は、スクールバッグから紙を一枚取り出し、泣きそうになりながら短い距離を全力で駆ける。
「ありがとう……」
「遅すぎたよな…ごめん」
「そんな事ないよ…」
裕也はさりげなく私の背中をさすってくれて、かわいらしい後輩からはハンドタオルを差し出される。
ひたすら謝る裕也に私はひたすら感謝して、悟られる前になんとか落ち着いた。
席に戻る時も裕也がずっと話してくれて、それに見兼ねたのか見ず知らずの人はどこかへ消えて行ってくれた。
「できるだけ近くにいるようにするから、その…安心してほしい」
そう言ってくれた裕也は、顔を少し赤く染る。
「うん…ありがと……」
嬉しいし安心もするけど、裕也の負担にならないかが心配で、微妙な返しをしてしまう。
やっぱり、好きなんて言うんじゃなかった…今の私がそんな事言ったって迷惑をかけるだけだったのに……
ただでさえ私の誤解を晴らそうと頑張ってくれてるのに、余計な事を考えさせちゃって…きっとあの後輩ちゃんとだって、もっと笑顔で話してたんだと思う。
頑張って誤解を解こうともせずに逃げ続けた私なんかが、裕也と友達以上──幼馴染以上になるなんてあっちゃいけない。
碧ちゃんも後輩ちゃんも、私なんかよりずっと努力してて、だから裕也が自主的に話しかけたりしてる。
それに対して、私のはあくまで生徒会委員としての仕事で──それがなかったら、きっと会話なんてなかった。
「結衣、大丈夫……?」
私がそんな考え事をしていると、裕也がまた優しく背中をさすってくれる。
「うん、大丈夫──もう大丈夫…全部大丈夫」
♢ ♢ ♢
俯いいて表情は見えないけど、明らかに大丈夫なはずがない声色で、結衣は「大丈夫」と言い続ける。
「結衣の誤解を晴らすまで、告白は保留と言うか……その、一旦考えなくてもいい……?」
我ながら、人としてあまりにも残酷だと思う。
だからこそ、しっかりと伝える。
「俺はその両方を同時にできるほど器用じゃないから、できるだけ早く誤解を解いてから、改めてしっかりと俺が結衣の事を好きなのかとか考えたくて……」
言い訳でしかないけど、つい最近、変えたくない部分を受け入れてくれない人とは付き合えない。と言う後輩の言葉を貰ったばかりだ。
俺は、俺なりにできるだけ早くできるだけ正確に結衣の告白に答えるためには、こうするべきだと考えた。
だから、ここで告白を押し通されたら──その時の覚悟はもうできてる。
だけど、そうしないでほしい。受け入れてほしい。わがまますぎるか……
「うん、私も、なんであのタイミングで告白しちゃったんだろうって思ってた──」
顔を上げた結衣は、ツーっと涙を流しながらも満面の笑みを浮かべていま。
「──だから、また告白するから……一旦なしでいいよっ!裕也はいつもそう──」
結衣はそう言って再び俯き、目元を強く抑える。
♢ ♢ ♢
「──本当にバカみたい…」
私は、裕也に聞こえないよう、限りなく小さい声で自分を罵倒する。
裕也には、私の心が透けて見えてるんだと思う。
そうじゃなきゃ説明がつかないって、何回も思わされてきた。
メッセージでも、こう返してほしいと思った事を的確に返してくれるし、私と裕也は以心伝心してるんじゃないかって思ってしまう。
私も、裕也が答えてほしいように答えられてるかな…答えられてたらいいな……
裕也から告白の一旦なしが振られて、だいぶ楽になった気がする。
これからは、自分でも何とか訴えていこう。ちゃんと裕也に見合う女にならなきゃいけないしね。
これが終わったら、あとは好きなだけ裕也を惑わして迷わせてやる!だから、それまでは私も裕也もただの幼馴染。
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