第2話 決心
屋敷を出た後、どうやって宿に戻ったのか覚えてもいない。
(クソ......)
なんで、なんで追放なんてされるんだよ。
ハリーの言う通り、剣術はハリーやリバルのように扱うことはできないし、マリアのように魔法を使うことも出来ない。
それでも、位置取りやカバーの早さなら誰にも負けない自信がある。
(それなのになんでだよ‼)
ベットの上で自問自答をしていると、瞳から涙が流れる。
(あ、あれ? なんで......)
なんで涙が出てくるんだ。あいつらのことが憎い。俺の意見なんて聞かず、追放を言い渡して来たんだから。
それなら涙なんて出てこないはずなのに。
(クソ)
胸糞が悪い状況なのに、なぜかあいつらのことを思い出した途端に涙の量が増えていった。そこから、どれぐらいの時間泣いただろう。すでに外が暗くなっていた。
その時、ふと頭によぎった。
「あ、あぁ。そう言うことだったんか」
俺はもっとあいつらと冒険がしたかったんだ。あいつらともっと違う景色を見たかった。笑い合いたかったし、同格に見てほしかった。
そこで、昔の夢を思い出した。
子供の頃は、勇者になりたかった。誰もが認めるヒーローになりたかった。でも、俺は勇者に選ばれることが無かった。
その次は、英雄になりたいと思った。見返りを求めずに人を助ける存在に。
そう考えていた時、ハリーと出会うことが出来て、勇者パーティの一員になることができた。
そこで、勇者と言う夢からハリーを影から支える存在になりたいと思ったんだ。
「なんでこんなことを忘れていたんだろう」
そう。ここ最近の俺は、あいつらと肩を並べられるようになりたいという劣等感をずっと抱きながら冒険をしていた。
でも、それはおかしなこと。肩を並べなくてもいい。少しでもいいから、あいつらに必要としてもらえるような存在と思ってもらえればよかったのに。
「はは。今更気付いても遅いけどな」
(でも、これは好機じゃないか?)
勇者パーティを追放されたことは、今でもきつい。この感情は今後も忘れることは無いだろう。
だけど、勇者パーティと言う縛りが消えた今、俺みたいに絶望を感じている人を助けたい。もっと、いろんな人のために今の力を使いたい。
(でも、人を助けるってどうやればいいんだ?)
はっきり言って、人を助ける方法が思い浮かばない。勇者パーティにいた頃は、あのパーティ自体に人助けの意味があった。
でも、今の俺はただの一般人。
そう思った瞬間、アクルから言われた言葉を思い出す。
【無能らしく有象無象の一人として頑張ってください】
胸糞が悪くなる。
「クソが」
ハリーたちのことを許したわけじゃない。
「有象無象なりの悪あがきをしてやろうじゃないか‼」
(だったら、何をすればいい?)
あいつらに見返せるぐらいの功績を残す方法。
「商業ギルドで名を上げることや学者になったところで、本当の意味で見返すわけではない」
そう。俺が世界有数の学者になったり、商業ギルドでなお上げたところで戦闘面で追放した見返しにはならない。何なら、追放されてよかったじゃねーかと言われるのが関の山だ。
その時、ふと頭に浮かぶ。
「あ、なんでこんなことが思い浮かばなかったんだ!!」
(冒険者になればいいじゃないか)
冒険者になれば、俺の実力を証明することが出来るし、人助けすることも出来る。
「よし、じゃあ明日にでも冒険者ギルドにでも向かうか」
俺はそう思いながら、ベットの中に入って就寝した。
翌朝。朝一で冒険者ギルドに向かい、受付嬢の元へたどり着いた。すると、俺の顔を見ると驚いた表情をして話しかけてきた。
「ダイラルさん‼ どうしたんですか⁉」
「あ、冒険者になりたいんですけど」
俺の言葉に受付嬢は首を傾げながらこちらを見ていた。そのため、俺は苦笑いをしながら言った。
「お恥ずかしい話ですが、勇者パーティを追放されてしまいまして......。あはは」
「つ、追放ですか......。ダイラルさんの実力がありながら追放されるなんて驚きです」
「え?」
(俺の実力がありながら追放されるのがおかしい?)
そんなはずはない。自分で言うのも何だが、勇者パーティの中では一番実力が伴っていなかったのは事実なのだから。
「だって、ダイラルさんがすごいということはいろいろな方から聞いていますよ。だから、ダイラルさんが追放されるなんて厳しい世界なんだと思いました」
「......」
ここで、自分の実力を否定することは簡単だと思ったが、それを受付嬢に説明する意味が無いと思った。
「話が脱線しましたね。冒険者の件、了解いたしました。少々お待ちください」
「はい」
受付嬢の言われた通りに少しばかり待っていると、一枚の紙を渡された。
「ダイラルさんはCランク冒険者からの登録になりますが大丈夫ですか?」
「俺としてはありがたいですが、本当にいいのですか?」
流石に、冒険者のルールぐらいは知っている。最低ランクがF、最高ランクがSの仕組みになっている。
だからこそ、最初からCランクの指定を受けたことに驚きを隠しきれなかった。
「大丈夫です。ダイラルさんの実力は冒険者ギルドの職員全員が認めていますので」
その言葉を言われた瞬間、心の中が温かくなった。
「あ、ありがとうございます。では登録させてもらいます」
俺は受付嬢に言われるがまま、自身の血を契約書に垂らして契約を結んだ。
★
この冒険としての始まりが、世界の英雄と言われる道のりの第一歩であることを今だ知りもしなかった。
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