第55話 女傑

カイトたちがドローデルの街に到着した次の日のお昼ごろ、昨日手紙を渡した執事さんが訪問してきた。


俺たちは借りている一軒家の中に入るように道を空けたが、執事さんは手で制して話し始める。


「この街の領主様であらせられるマリアンヌ様がカイト様一行に会うとのことです。急で申し訳ないのですが今から領主邸に同行願えませんか?」


俺たちは急な申し出に顔を見合わせる。そして、領主様に会うような洋服を持っていないことに気づく。


「あの。領主様と会うのに失礼のないような服を俺は持っていないのですが、どうすればよろしいですか?」


「そのままの格好で構いませんよ。マリアンヌ様は洋服でぐちぐちいうような方ではございませんので」


それならばと言うことで俺は執事さんに同行し、領主様ことマリアンヌ様に会うことにした。


時刻はお昼、領主様と会うことになったのは食堂であった。そこで食事をとりながら話をすることになったのだがテーブルマナーなど知らない俺はおどおどしてしまい。手が震える。それが原因で食器同士があたりガチャガチャと音が鳴ってしまった。


流石にそれに領主様も気になったのだろう。


「カイト君はどこの出身なのですか?」


「ユーステリア領のアリステル村の農家です」


「ならばテーブルマナーなど気にせずに好きに食べてください。私は学んでいないものにまでマナーを求めることはしませんので」


とは言われたもののパーティーなどにも呼ばれたことがあるため多少のマナーは分かっている。領主様から声をかけていただいたことで緊張がほぐれ音を立てることはなくなったがそれでも一流とは言えないナイフ捌きだった。


「やればできるではありませんか。いや。これは私が緊張させたせいですね。申し訳ありません。他人を気遣うことに慣れていないのです」


その言葉だけで十分気遣いができていると感じていた俺であったが、領主様の話は続く。


「少し落ち着いたところで話を進めましょう。ユーステリア領の領主よりあなたに魔法陣について調べさせるようにお願いされました。それは何故なのでしょうか?魔法陣はこの領を挙げて研究している産業の一つです。それを無償で与えるには少しばかり横暴が過ぎると思うと私は思うのですが」


「すみません。魔法陣について知りたがっているのは私なのです。その理由は、私の持つ武器が魔法陣を利用した物だからです」


それを聞いて領主様は驚いていた。


「魔法陣の武器への転用は、まだこの領でもできていないことですよ。それをユーステリア領は成し遂げたというのですか?」


「落ち着いてください。まず武器は今ここにあります。許可を頂ければここで武器を見てもらうことも可能ですがどういたしますか?」


「とても魅力的な相談ですが、まずは食事を終わらせてしまいましょう」


その後、何の話もなく黙々と食事を進めるのであった。

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