第44話 冬ごもり3
昨日在庫管理をしていてアリステル村で仕入れた秋物野菜が残っていることを思い出した。売る当てもないため商業ギルドに行くと、閑古鳥が鳴いていた。
「行商人のカイトだけれど裏で商品の値付けをお願いしたいのですが」
「この季節に行商をやってきたのですか?」
「まあそんなとこです」
商人ギルドの受付は担当者を呼びに行ったので、俺は裏に回って待っていることにした。
すぐに値付け担当のギルド員がやってきて商品を見ると、その商品を何度見もしていた。
「あのー。これ秋物野菜なのですけれど」
「そうですね。俺は農家の息子なのでそれは知っています」
「かなり足が速くて、収穫して数日しか持たないっていう代物なのですけれど・・・」
「詳細は秘密ですが保存する方法がありまして、それで保存していたので新鮮だと思いますがいかがですか?」
「すみません。前例がなさ過ぎるのと需要が分からないため値付けできません」
「ならギルドマスターに聞いてみてもらっても構いませんがどうですか?」
「おそらく同じ結果になるかと。あとあの人は権力欲がすごいので保存方法を教えろと言いかねませんがよろしいですか?」
「やめておきます」
俺は商品を持ち帰り、この木箱に詰め込んだ秋物野菜たちをどうするか悩んだ。その結果ダメもとで領主様に持って行ってみることにした。
場所は変わって領主の館の倉庫。領主様は流石に冬の間も書類仕事で忙しいとのことでこの場にはいない。代わりに料理長と執事さんが立ち会ってくれた。
「見て欲しいのはこの木箱の中にある秋物野菜です。新鮮さは保証します」
そう言った後に、料理長と執事さんは木箱の中身をのぞき込む。中身を見た途端料理長が声を荒げた。
「こいつは確かに秋物だが特に足が速くて領主様でもなかなか食べられない珍しいもんじゃねーか。こいつをいくらで売ろうっていうんだ?」
「前例がなく値段がつけられないって商業ギルドでは言われたのですが、料理長ならいくらまで払えますか?」
料理長と執事さんが顔を見合わせると。
「ちょいとばかり相談させてくれ」
そのあときっちり十分話し合った結果。
「こいつを使ってパーティーを開くことを領主様に進言する。つまり今は買い取れない。パーティーで使えば在庫はなくなるし、来年以降買い手もつくだろう。そちらにも悪い話ではないと思うがどうだ?」
「他に当てもありませんしお願いします」
と言うわけでその日は売ることができなかったが在庫を一掃できそうなので良いことにした。あとは値段だが領主様が行うパーティーの素材に安値はつかないだろうと思い、今後の楽しみとした。
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