第24話 ムスタル男爵

貴族の方々の視線が俺に集まる中、ムスタル男爵は領主様に質問していた。


「それならば彼から食料を卸して貰うのは今後できないということですか?」


「いや。それは本人と交渉してくれ。私は後援者として彼を支援するだけで誰と商売するかを制限するつもりはない。ただし、貴族としての責務を果たしていない者や後ろ暗いことをしている者にはその限りではないがな」


その言葉を聞いてムスタル男爵はほっとした顔で俺に近づいてきた。


「カイト殿、先日君に卸して貰ったモーモーの肉は本当に美味しかった。これからも手に入るのであれば是非家に卸してほしい。これからもよろしく頼むよ」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


そう言いあい。握手してムスタル男爵はその場を離れた。


そんな俺たちを遠目に見ている貴族たちがいたが近づいてくることはなかった。


「さあ。みんな紹介したいことも済んだことだし、料理を味わってくれ。この肉もカイト殿が卸してくれたモーモーの肉なんだ」


貴族の方々は領主様の挨拶が終わったことでそれぞれの派閥で飲食を始めた。中には味の虜になったようで俺に直接挨拶に訪れる人も数人はいた。そんなパーティーの熱も冷め止まぬうちに食材が底をつきたようでパーティーは終わりとなり皆解散していった。


会場の片付けが始まった頃に領主様が話しかけてくる。


「まさかムスタル男爵があんなに懇意にしているとは思わなかったよ。あの人は食にはうるさくてね。仕事はできる人なのだけれどどこの派閥にも属さない人だったんだ。君のおかげでこちら側に引き込めるかもしれないね」


派閥などに関心が全くない俺はとりあえず笑って返しておいた。


会場の片付けが終わったのは夕暮れ時で俺はそのままくれると言われた屋敷へと送られた。それは他の屋敷に比べるとこじんまりとしており、ハウスキーパーも数人雇われていた。


「カイト様は明日からどう過ごされる予定なのでしょうか?」


と聞いてきたのは女性の兵士であるナターシャさん。


「うーん。とりあえずはガンツさん。ああ、鍛冶屋の親方ね。その人のところに行って補充を行った後は薪を集めに行きたいかな」


「薪ですか?」


「うん。ウルク村では毎年薪が不足しているようでね。今度行くときに仕入れておくって言っちゃったんだよね」


「仕入れの場所はお決めになられているのでしょうか?」


とメイドのミリアナさん。


「ううん。そのあたりは詳しくないんだ」


「ではアデル村の先にあるヘキサ村が良いと思います。あそこは街で使う薪の三分の一を伐採している村ですので購入には困らないかと思います」


「ならそうしようかな。アデル村にも用事があるし」


と言うことで次の行商の予定が決まった。

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