第17話:最強決定戦


「思ったよりも、すんなり通してくれたな……」


「すげー、あっちいっぱい肉あるぞ!! うまそ~、なぁディアンナ! あとで一緒食べよ!」


「ふん、アルーインの小娘が負けたら、それどころではなくなるんだぞ? まぁ、勝ったら一緒に食べてやろう。そのためにも、アルーイン、必ず勝つのだぞ? 我のために」


「すいません、二人共着いてきちゃって……」


 紅蓮の騎士、愛蛇夢あだむが団長であるハイレベルクラン【紅蓮道嵐】の本拠地、帝都ラジャーン近くの山岳エリアにある中立地帯に彼らの縄張りがある。無許可ここへ立ち入ろうものなら彼らは容赦なく殺しに来るという。


 ゲーム時代は単なるPKだったが、今の世界では話が違う。軽いものじゃない、殺せば本当に死んでしまう。だが、今でも彼らはその習慣を続けているという。


 騎士と言うよりは賊や蛮族、今では非プレイヤーの荒くれ者達も彼らと合流しているらしい。そんな危険地帯にダクマとディアンナは着いてきてしまった。


「いや、どのみち君に決闘の立会人を頼んだ時点で、こうなることはある程度予測していたし、ここでわたしが負けるなら、この世界も終わる。そういう心構えで来ているから、何も問題はない。わたしが勝ちさえすればね」


 そう、俺はアルーインさんにアダムとの決闘の立会人を頼まれた。なんで自力のない俺がとも思ったけど、頼まれた以上はしっかり役目を果たすつもりだ。


 仮に、もしアルーインさんが負けたら、俺はダクマとディアンナを連れて逃げに徹するつもりだ。俺が全速で走ればもしかしたら逃げられるかもしれないし。


 着いて来たいというダクマとディアンナを止められなかったのは不甲斐ないけれど、もしもアルーインさんが勝って未来が繋がるのなら、頂上の戦いを見るというのは俺達にとっていい経験になるかもしれない。


「おーおー、マジで女になってんじゃん。いやぁ、あのむっつりした男が女だったなんてなァ! 久しぶりだなアルーイン!」


 木組みの粗雑な小屋のような建物から背の高い男が出てきた。赤い髪で、ギラついた目、笑う口からはギザギザな白い歯が見える。全体的に軽装で、身軽さを重視した感じの服装だ。


「決闘を受けてくれたこと、ここまで無事にわたし達を通してくれたこと、感謝する」


「はっは、そりゃあオレにだってプライドはあんだよ。決闘を穢せば、オレの戦い、つまりプライドを穢しちまう、そんなのは嫌でよぉ……でも大変だったんだぜぇ? なんせオレら紅蓮道嵐は荒くれ者が多いからなぁ。脅しでもしねぇとお前に襲いかかろうとしちまう」


 確かに道中、ダクマもアルーインさんも滅茶苦茶紅蓮道嵐メンバーに滅茶苦茶見られていた。餌を前に待てと言われた犬のような感じだった。


「陛下がわたしに君を倒せと言った意味はわかっているだろう? 今の君はラシア帝国の、皇帝の意を汲んでいない。命令無視を続け、ダンジョンの攻略もサボっている。そんな君らのせいでわたし達は仕事を押し付けられて、嫌な気持ちにさせられてるんだ。だというのに、恩着せがましいね、君は」


 さっきアルーインさんは感謝してるって社交辞令を言ってたくせにアダムの返事を聞いた瞬間キレた……マジでストレスが溜まってたみたいだ。


「はは、アッハッハッハッハ! なんだっけ? 女になっちゃったから騎士団長降ろされて、自費で騎士団崩れの集団を運営してるってことになってるんだっけ? ギャハハハ、笑えるぜぇ……ハイレベルクランの王者なんて面して、のさばってた癖によォ! あいつら分かってねぇよなぁ。エンドコンテンツ攻略がどれほどの負担なのかをさぁ。馬鹿だぜいあいつら! 思い知らせてやった方がお互いのためなんじゃねぇーの?」


「じゃあ、君は……そのためにわざと高難易度ダンジョンの攻略をサボっているというのか?」


「ああ、そうだ。支配者気取りのモブ共が偉そうによぉ、オレをぶっ殺す力もねぇ癖に、オレに命令するだと? ふざけんじゃねーよ。ケッ、だったらプレイヤーの手を借りずにテメェらでダンジョンボスの相手をしろってんだ」


 あーそういうことか。確かに今のこの世界の支配者層は高難易度ダンジョンやそのボスの脅威度を正確に把握していないように思える。まぁ、高難易度を攻略してない俺が言えたことじゃないんだけど……普通のモンスター退治のノリで言っているように見えるんだよな。


 まぁ現実でも予算を多く取るために大げさに報告したりとかはあるし、世界が滅ぶというのも誇張だと思われてるのかもなぁ。現実問題としてアルーインさん達ハイレベルクランの頑張りでどうにかなっちゃっているから、いつまでたっても実態が見えてこないのかもしれない。


「まぁ気持ちは理解できる。わたしも待遇には不満はあるしね、けれど、君がプレイヤーで、英雄の資質を持つ者なら、道は自分で切り開くべきなんじゃないか? やれるものならやってみればいい、世界の指導者達に不満があるのなら、君がなればいいだろう? そうすれば思いのままだ。君はそれを可能とする力をすでに持っているはずだが?」


「はぁ? イカれてんのか? んなもんやろうと思ってできるもんじゃねーだろ? ッチ……ムカつくぜ、死んだ目で見下しやがって! 話しててもイラつくだけみてーだからな、やろうぜ! 決闘! 着いてこい、決闘の舞台に案内してやるよ」


 俺達はアダムの後に続き、移動する。そうして辿り着いた先は、紅蓮道嵐の本拠地のあるラジャト山脈の山頂付近だった。頂上付近は火山系の地質、軽石のような砂礫の広がる、緑のない場所だった。


 歩くと少し滑る、足元が不安定だ……これは、地の利は完全にアダムにあるな。まぁ、本拠地にこちらが出向いて決闘する以上、それは当然ではあるんだけど。


「さて、それじゃあ始めようか。シャヒル君、決闘の合図を頼む」


「はい! これより灰の騎士アルーインと紅蓮の騎士アダムによる決闘を行う。両者は距離を取り、武器を構えて!」


 アルーインさんとアダムは10mほどの距離を取り、それぞれの武器をアイテムボックスから出現させ、構えた。


 アルーインさんは剣と槍の二刀流、アダムは身の丈程もある大剣を使うみたいだ。


「──始め!」


 俺の決闘開始宣言と共にアルーインとアダムが動き始める。アダムは突進するようにアルーインへと距離を詰める、それに対してアルーインは逆に距離を取る。アルーインは軽やかにステップするようにランダム性のある動きで素早く移動し、アダムを翻弄する。


 しかし、アダムはすぐに最強と謳われるその実力を、対応力を発揮し始める。アルーインのステップの移動先を予測することはできなくとも、ステップのタイミングに合わせた攻撃、距離詰めができるようになってきた。決闘開始から一分も立たない内にここまで対応してくるのか……! これは単にキャラがカンストだからとかじゃないぞ、中の人、アダムのバトルセンス自体が優れているんだ……


 しかし、アダムが異常な対応力を見せてもアルーインに焦りはない。ちゃんと冷静なままだ。俺だったらきっと焦ってしまうだろうけど、やっぱりアルーインさんも対人戦闘の経験が豊富だから冷静でいられたのか?


「──ッシャあああああ!!」


 【炎天暴威】


 ──大剣に炎属性の力を込めて攻撃する。命中または防御した者に延焼ダメージを与える。延焼状態は回復効果が低減される。炎属性、戦技スキル。


 アダムがついにアルーインのステップに対し、タイミングだけでなく移動先まで予測することに成功し、そのタイミングでアダムは演技スキルを使用する。炎を纏った大剣による切り下ろしはかなり素早く、回避は困難かに見えた。


 ──シュン。


 しかし、そこでアルーインはクイックターンを行い直角に方向転換し、バックステップ。それによってアダムの炎天暴威を避ける。


「そんな……持続して」


 思わず俺も声が出てしまう。アダムの炎天暴威は戦技スキルのため硬直が存在したが、技の持続時間が長く、剣を振り切った後も炎の魔力が渦巻くように暴れている。だから硬直があったとしても、不用意にカウンターをしようとすれば、持続して展開された炎によって焼かれることになる。これじゃ隙があってもカウンターできない……──え?


 アルーインはクイックターンを駆使してアダムの攻撃を避けてすぐ、そのままアダムの背面側にサイドステップ、軽い足取りでアダムとの距離を詰め──


 【クロス・バーズ】


 ──二刀流状態の時使用可能。二つの武器で同時攻撃、低硬直、低ダメージ、ディレイあり。土属性、戦技スキル。


 アルーインが右手の槍と左手の剣でアダムを同時攻撃する。槍で突き刺し、剣で切り払う。クロス・バーズは所謂牽制技だ。ディレイ効果目的で使われる技、ディレイ効果を受けると対象は少しの間行動を行えなくなる。このディレイ時間とこの技の硬直は同程度、しかし技の威力は低いため、大したダメージを与えられない。この技で与えたディレイ効果中を狙って仲間が畳み掛けるのが強く、どちらかというと連携面で強い技だ。


「──ガッ!?」


 けれど、アルーインさんのクロス・バーズにはダメージがある。敵に死の脅威を感じさせるレベルの火力がある。アダムがダメージによって吐血する。牽制技に在るまじき威力、その秘密はアルーインの職業とスキルにある。


 アルーインさんの職業は魔法双剣士、魔法系と二刀流の職業が発展、進化した上位職だ。この職業には固有スキル【オート・エンチャント】があり、オート・エンチャントは本来なら魔法の詠唱を必要とする武器への魔法エンチャントに詠唱を必要としないとスキルだ。魔法の使用回数は消費するものの、やはり硬直は存在しない。


 ロブレでは魔法剣でない、ただの戦技スキルにも属性攻撃がある。ならばロブレにおける魔法剣とはなんなのか? それは魔法そのものの武器への付与だ。


 例えばヒール、回復魔法を魔法剣で武器にエンチャントしたなら斬った相手を回復できるし、範囲攻撃の魔法をエンチャントすればその魔法を発動させると同時に、剣自体の攻撃範囲自体をも拡大する。魔法が剣技と組み合わせることで新たな魔法を生み出す、それが魔法剣。


「ナスティ・カースかよ……うぜぇなァおい!」


 アダムが怒り、叫んだスキル【ナスティ・カース】は状態異常や行動妨害を受けた敵に対して高いダメージを与える闇属性魔法だ。条件付きだが、そのおかげで高いダメージ効率と、優秀な使用回数を持つ魔法で、アルーインさんはクロス・バーズのディレイ効果によって高ダメージを確定させることができる。コンボ技といえる代物で、実際かなり強く見える。だけどこの戦法を使えるプレイヤーはアルーインさんか、アルーインさんに憧れてビルドを真似した人ぐらいしかいないらしい。


 アルーインさんは魔法双剣士だが、そもそも双剣士自体があまり存在せず、魔法双剣士はさらに少ないらしい。そしてナスティ・カースは闇属性なのだが、闇属性や光属性をメインの魔法属性として扱う前衛職の人は少なく、魔法双剣士でもナスティ・カースを使えない人が多いらしい。


 というのも、闇属性と光属性はあまり火力が高くないため、特化した魔法職以外がメイン属性として使うと火力不足に陥ることが多く、なにより派手さがないので人気がない。特化した魔法職の場合は逆に光と闇はメイン属性として人気がある。安定したダメージ源となるド派手な最上級魔法が使えるからだ。


 この地味というのは結構問題で、味方からすると何をやってるのかよく分からないため、この人本当に役に立ってるの? といった認識に陥りやすいのだ。前衛職の闇属性は主に状態異常魔法を扱うが、対象は単体で効果時間が短いものが多い。唯一効果が分かりやすいのがスロウ系の状態異常魔法だ。これによって敵の硬直時間を伸ばして畳み掛けるのが強い。全体的に前衛職の闇属性魔法はこういった敵の隙を生み出したり、大きくしたりが役割となる。


 そして光属性はと言うと、こちらは主にバフ、自分含む味方を強化する感じだ。と言っても光属性のバフ魔法は独特で、保険のようなものが多い。先に詠唱をしておくと、ピンチとなった時に体力回復するだとか、体力減少量に応じて防御力を上昇させたりだとか、やたらとピンチ状態に拘った性能をしている。その中で扱いやすいものがダメージ軽減魔法だ。バリアのようなもので敵の攻撃を軽減する。他属性では攻撃を無効化する魔法が多いが、それらは無効化の上限を突破されると、ダメージが素通り、直撃してしまう。その点、光属性は軽減なので確実に敵のダメージを低下させることができる。


 アルーインさんのメイン属性は闇と光、総合的に見て、地味というか、安定志向な感じだ。だけどアルーインさんは実力で己のビルドの正しさを証明してきた。ハイレベルクランの中でも名が売れた、トップクランにまで灰王の偽翼を押し上げた。


 俺が地雷ビルド故にマイナーだったのとは違い、アルーインさんのビルドは使用者が少ないだけで評価されたビルドなんだ。


「マジでメンドイわ……でもよぉ、珍しい力を使うのは、お前だけじゃねぇ……オレにもあんだよ! オレの最適解がよォ! ──【イクシード・ファイアストーム】!!」


 ……イクシード・ファイアストーム……初めてみた……


 火属性と風属性の強化魔法。火属性自体が自己強化の得意な属性だが、これに風属性の力を加え、風の力を火属性の餌とすることでその自己強化の効果を劇的に高める魔法。


 アダムの全身にオレンジ色の魔力のラインが奔る。アダムは自己回復力の強化によってダメージを瞬時に回復、アルーインへと剣を向ける。


 俺はロブレ最強とまで言われたアダムが風属性を使っていたことに感動していた。いや、今はそれどころじゃないし、アルーインさんを応援しなきゃいけないのに。俺は初めて見る最強クラスの風と火の混合魔法に見入っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る