第18話:生きた世界の戦い
イクシード・ファイアストームを発動させ、強化状態となったアダムの姿を見て、戦いが激化するのを感じた俺は、アダムとアルーインさん達から大きく距離を取り、ダクマ達のいるところまで移動、合流した。
「──加減はできねぇ、だから死んどけ!」
アダムが跳躍する。それはまるで弾丸のようで、一飛にアルーインの所まで距離を詰めた。強化される前とは一段回、いや、二段階も違うスピードだ。俺でも目で追うのがやっとだ。ダクマや紅蓮道嵐の他のメンバー達は動きが追えていないようだった。口を半開きにして、何がなんだか分からないといった感じだ。
「──ッ!」
アルーインはアダムの跳躍の勢いをそのまま使った大剣の切り下ろし攻撃、その初撃を避ける。しかし、アダムは振り下ろした剣をそのまま強引に切り返し、刃をアルーインの首めがけて振るう。とんでもない勢いで振るった剣を強引に返したことでアダムの腕は反動で、筋肉が裂け、出血した。しかし、イクシード・ファイアストームによる自己回復力の強化によってそれは、すぐに修復を開始する。
アダムの二撃目、アルーインはこれを避けることができない。攻撃速度に回避速度が追いついていない。ありえない光景だった、アダムはなんの技も使っていない。ただの通常攻撃を行っているだけ、なのに……これは、あきらかに必殺の威力を持っている。
強引に切り返して、腕を破壊したはずなのに、狙いはしっかりと相手の弱点だ……自分のスピードに完全対応している……アルーインさんの回避が間に合わない速度で必殺の威力の通常攻撃を硬直なしで連打してくる……化け物だ……
──バギィイイイイイイイイイイイイイイン!
「──はァ!? 受けやがった!? どんなからくりだァ?」
アルーインさんはアダムの二撃目、大剣による必殺の通常攻撃を、剣と槍によって受け止め、払い除けた。とんでもなく大きな音がした……アルーインさんは光属性の防御魔法を持っている、軽減はできるけど……アダムのあの攻撃を完全に無効化なんて不可能なはずだ……けど、実際……アルーインさんはアダムの攻撃を無効化した、できるのは軽減だけのはずなのに……
そして──
【クロス・バーズ】
再びナスティ・カースがエンチャントされたクロス・バーズがアダムへと炸裂する。アダムは胸と太ももを切り裂かれ、大ダメージを受ける。しかし、強化状態のアダムのその傷はすぐに回復されて──
【アンチ・ヒール】
──対象が受ける回復効果を低下させ、状態異常耐性を低下させる。闇属性、魔法、使用回数制限19/20。
【サイレント・フラッシュ】
──魔法詠唱を妨害する効果のある光で、敵の視界を短時間奪う。光属性、魔法、使用回数制限9/10。
二つの魔法がアダムを追撃する。アルーインさんはクロス・バーズのディレイ効果中に通常の魔法詠唱を行ったんだ。魔法には硬直がない、けど……ダブルキャスト? 魔法を二つ同時詠唱した……魔法剣でエンチャントしたナスティ・カースのことを考えると……アルーインさんは一つの戦技スキルと三種の魔法を同時に使用したってことになる……と、とんでもない……魔法の同時詠唱は、特化した魔法職でないとできないんだけど……それができるってことは、アルーインさんはかなり魔法職よりのビルドってことになる。
けど、もし魔法職よりで、魔力のステータスをかなり伸ばしてきたっていうなら、素の物理面のステータス、防御だとか力は低いはずだ……それが……どうやってアダムの攻撃を防げるっていうんだ?
何にしたって、この一連のアクションではアルーインさんがアダムを上回っている。アダムは強化状態による自己回復力の強化を無効化され、視界を奪われたことでアルーインさんに反撃ができず、距離を取られてしまった。
「はは、ははは! もしも、ロブレで、ゲームで君と戦ったら……さっきのでわたしは負けていた。これが、生きた世界なのか!」
アダムは再びアルーインへと突撃する。先程までとは違い、スピードが少し落ちている。アルーインのアンチ・ヒールによってアダムは反動が発生するほどの動きはできない。もう反動を受ければ、回復できず、この決闘が終わるまでダメージを引きずることになるから。
それでもアダムの動きは早いし、未だにただの通常攻撃が必殺の火力を持つ。けれど、アルーインはそれを冷静に、捌いていく。
……あれは! 大剣を槍で受け止めた時……光った? この光、そうか! 光属性の防御魔法【光鱗障壁】の光だ。攻撃を無効化ではなく、軽減する魔法。アルーインさんはこの魔法を自身ではなく、自分が持つ剣と槍に掛けたんだ!
アダムの攻撃を受ける瞬間にオート・エンチャントで光鱗障壁を槍と剣に付与、まず槍でアダムの攻撃を軽減しつつ威力を低下させる。そして今度は剣で軽減、攻撃威力を殺しきり、最後に弾くんだ!
これは実質的に光鱗障壁で2回軽減してるのと同じ、2回の軽減の後ならアルーインさんの素の力と防御のステータスで攻撃の無効化まで持っていけるんだ! これって、アルーインさんは光鱗障壁1回の付与で2回分の効果を発揮してるってことで、効率も最高じゃないか……! さらに言えば、緊急時にはオート・エンチャントだけでなく、通常詠唱で光鱗障壁を使えばさらに防御能力を上昇させられるってことだ! す、すげぇ……防御最強のビルドじゃん!
先程までと同様に、アダムは仕掛け続けた。その度にアダムはアルーインに攻撃をいなされ反撃を受ける。繰り返されるごとにダメージがアダムに蓄積していく、しかしアダムの顔はギラついていて、むしろ闘争心を高めていった。逆にアルーインの表情からは徐々に余裕が消えていく。
「おい、アルーイン。あと何回だぁ? 光鱗障壁の使用回数はよぉ? その魔法と同程度の難度の魔法の使用回数から考えて、あと2回って所じゃねぇのかぁ? それまでにオレを倒せんのかァ? やってみろ! やってみろよォ! クソ
アダムが笑う、吐血により赤くした歯が露わになる。アルーインに傷はなくとも、追い詰められていたのはアルーインだった。一撃、一撃が直撃したならアダムはアルーインに勝利する。
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