第13話:融合事情
「おほぉ! すっげー、長い建物がたくさん! 夜なのに明るい! これが都会かぁ! よし! 帝都の長い建物! 余が登ってやろうではないか!」
帝都ラジャーンに転移してそうそう、ダクマがビルを登ろうとしている。ビルに入るのではなく、素手で外壁を登る気満々だ。危険過ぎる……でも、こいつなら実際できそうではある。体捌きもいいから、万が一落ちても大丈夫そうだ。
「こらこら、危ないからやめろよな。というか恥ずかしい……」
「やだ! 登るんだい! この長い建物が天高くそびえ立つのは、余に登ってほしいからだぞ? シャヒルはそれが分からんのか?」
謎の観点から俺がおかしいことにされた。どうやら止められそうにないみたいだ。多分無理やり止めようとするとバトルになって余計に帝都の民に迷惑が掛かるパターンだ……
「じゃあ登ってもいいけど、人様に迷惑掛けるなよ? あとこのビル、長い建物も壊すなよ?」
「わかった!」
滅茶苦茶元気な声で了承するダクマ。本当に分かってんのか? 不安だ……って、もう登り始めてるし……凄いな、手の握力と指のピンチ力だけでビルの壁に張り付いてる。張り付いたら身体を上に飛ばして登ってる……蛙かな?
ダクマがビルを登りきり、見えなくなった後、俺はディアンナと共にハイレベルクラン【灰王の偽翼】のクランハウスへ移動する。
「お、お前……あん時の……その、砦喰らいの鬼蛙はどうなったんだよ。その、僕が倒すの、手伝ってやってもいいぞ」
「え!? 本当!? あ、でも……その、実は砦喰らいの鬼蛙は、もう倒したんです」
なんだか灰王の偽翼のクランハウスの門番の人、態度が軟化してない? 自分から砦喰らいを倒すの手伝おうかだなんて……
「あっ、そうなのか……なんだよ。別にお前らで倒せたのかよ、大げさにいいやがって」
「いやいや! 決して大げさに言ってはないですよ! 本当に運良く倒せただけなんで……たまたまチートレベルの強さを持った子がいたからなんとかなったんです。俺は特に何もしてなくて……」
まぁ大げさに言ってたって思われても仕方ないよなぁ。結局ミシークの人達を避難させたのだって俺とダクマが砦喰らいを倒したら、ミシークの人や砦喰らいの脅威に晒されていない人からすれば、本当に危険だったのか? って思うのが自然だろうし……俺達の戦いを見てた人が、戦いの様子をミシークの人達に伝えてくれて本当に助かった。じゃなきゃ、俺はホラ吹き野郎とか、詐欺師だと思われてたかも。
「あー、そういう感じ? でも、何もしてないってことはねーだろ。はぁ、その、この前は悪かった。あの後アルーイン団長に説教されたよ。君は彼のように自分の意思を持って行動できているのか? ただ指示を待つだけで、他人の努力を見下せるなんてね。君は恥の概念というのを知った方がいいって言われた……僕、それになんも言い返せなくてさ……だから、せめてなんかお前の役に立てたらなって……その……手伝おうと……」
「門番くん!! ありがとう、その気持ちだけで十分だよ。ほんと、謝罪なんていいのに……! けど、アルーイン団長もキツイこと言うねぇ……迫力ありそうだ」
「お前……シャヒルって言うんだっけか、いいヤツだな。はは、でもホント怖かったぜ。男の見た目してた時よりずっと怖い……僕はシュガーナイツ、灰王の偽翼の下っ端だ!」
門番くん、シュガーナイツが握手を求めてきた。俺は手を伸ばし、シュガーナイツとしっかり握手をした。
「よろしく! シュガーくん! けど、アルーイン団長って男キャラだったんだ……俺、融合事件が起きるまで団長のこと見たことなかったし、ちょっとした噂話しか聞いたことなかったから知らなかった。あ、そうだ、アルーイン団長って今クランハウスにいる? 俺、あの人に用っていうか、報告したいことがあって来たんだけど」
「ああ、団長に用があったのか。でも今団長はいないぜ、ダンジョンボスを始末しに行ったからあと3時間は戻らないと思う」
「そっか、じゃあこれをアルーイン団長に渡してくれる? 中難度以下のこの世界の状況とか、中級冒険者についてをまとめた資料でさ、アルーイン団長の意見を聞きたいんだ。それと俺の魔法の手紙の宛先を教えるね。シュガー君から団長に教えといて欲しい」
「了解だ! 任せろ!」
俺は資料をシュガーナイツに渡し、魔法の手紙の連絡先を教えた。これで、忙しいだろうアルーイン団長も、俺に直接会うことなく話すことができる。
「おい、シャヒル。仕事は済んだな? さっさとこの土地の食い物を食わせろ」
俺のズボンのポケットで隠れていたディアンナが俺のふとももを蹴ってくる。態度わっる!?
「わ、分かったって! ごめんて……」
俺はラジャーンの中央へ戻り、大声でダクマを呼ぶ。ダクマはするするとビルに張り付き滑るように降りてきた。三人で帝都の大衆食堂に入り、食事を頼む。
「うーん、初めてラジャーンで食べるけど……ラジャーンの料理って独特だなぁ。苦い味付けが多い……」
「うぇ、おいシャヒル! 我はこんなマズイ料理では満足できないぞ! そうだよな? ダクマ!」
「うぇ……にがい~~。たすけてしゃひる~……」
キレるディアンナと、絶望の表情で俺に助けを求めるダクマ。ど、どうしてこんなことに……俺達はちょっとした平和な一時を過ごそうとしただけなのに……
「おぉ? 兄ちゃん達、ラジャーン料理食べるのは初めてだなぁ? ラジャーンの料理はそいつを掛けないと話にならないんだぜぇ?」
大衆食堂の客だろうおっちゃんがテーブルの隅にある調味料の入れ物を指差し、そう言った。
「これ、調味料?」
「おう! それはハイミスリルソース、みんなハミスソースって呼んでる。そいつに魔力を込めて食い物にぶっかける! やってみろ。ビビるぜ?」
俺は謎の調味料、ハミスソースの入った入れ物に魔力を込め、水色のソースをラジャーン料理にかける。肉の煮込み料理と、魚の練り物を焼いた料理、さっき食べた時はどっちも苦かったが……ハミスソースをかけた状態で食べてみる。
「ん? あれ? 美味しいぞ? ど、どういうことだ!?」
「嘘をつくなシャヒル! パク……う、うまあああああああああ!?」
「はむ、はむ! うま、うまい! うめええええ!」
驚愕の表情で固まるディアンナと、料理にがっつくダクマ。ど、どういうことだ……味変てレベルじゃねーぞ? さっきまで最低クラスの味だったのに、ハミスソースをかけた瞬間に濃厚なのに、後味すっきり、旨味が凝縮されたような味になった……
「ふっふっふ、すげーだろ? ハイミスリルソースはハイミスリルスライムの体液を絞る時に一緒に取れるもんでな。魔力を注ぐと苦味を旨味に変えちまう、料理の素材が持つ旨味を引き上げるのよォ! これがあれば健康にいいけど苦くてマズイ野菜、バルハンカブを無理なく食べられる。んで、そのバルハンカブが料理に使われまくってるから、ラジャーンの料理は苦いんだ」
「じゃあ、バルハンカブを食べてるから……」
「おうよ! だからラジャーン人はタフで元気一杯なんだぜ!」
ニカッと笑うおっちゃん。それに合わせて何故か大衆食堂の他の客達もニカッと笑い、筋肉を見せびらかすようにポージングしている。俺も雰囲気に流されてポージングを返すと、彼らに気に入られたらしく、酒や料理を奢ってもらえた。食堂は盛り上がって、ちょっとした宴会みたいになった。宴会にディアンナは大満足だったのかニコニコだ。
なんていうかノリのいい人達だな。都会っていうより、田舎の親戚の集まりのような雰囲気だ……大衆食堂だからなのかな? ラジャーン、ラシア帝国は下級市民から魔力を搾取しているらしいけど……だからこそ、中級、下級市民達には団結力とかがあるんだろうか? 苦しい環境にあっても、互いを支え合って、前向きに生き抜こう。そんな感じに見えた。
ともかく、ディアンナとダクマのご機嫌取りに成功した俺は夜のブロックスへ転移して戻り、宿で眠りについた。
◆◆◆
「なんだお前? ドロボーか?」
「いや違うけど、君こそ何かな? シャヒル君と同じ部屋に泊まっていたようだけど。君達はどういう関係なのかな?」
なんだか、騒がしいな。俺は重いまぶたを開けながら欠伸をして起きる。窓から朝日が注いで眩しい。
「あ、あれ? え!? アルーインさん!? なんでここに?」
宿屋になんでアルーイン団長がいるんだ? 俺を、訪ねてきた? なんで?
「ああ、おはよう。シャヒル君、君はこういうちんちくりんが好みなのかな? 一緒の部屋で寝てたみたいだけど? ちんちくりんとはいえ、女の子だ。これはそういう関係ってことなの?」
「え? ダクマと一緒に……? あ……そういえば、なんかダクマ、余も一緒に寝るとか言って……俺も酔ってたから深く考えずに了承しちゃって……それでみんな、ベッドに辿り着いた瞬間すぐ寝ちゃったんだ……よくよく考えるとそうだよな。おかしいよな、ダクマはこれでも年頃の女の子だし……う、うかつだったぁ……」
まぁでもいいか。俺も特にやらかさなかったわけだし……というかそんなことしようもんならダクマに殺されてそうだ……次から気をつけよう。
「おう! みんなスヤスヤだったぞ!」
「ふーん、なんだか男女の関係ってわけじゃなさそうだね。まぁいいや、シャヒル君の報告書読んだよ。だからわたしの意見を君に聞かせてあげようと思ってね。ここに来たんだ」
「え!? でも、それなら魔法の手紙てよかったんじゃ? 連絡先はシュガー君に教えてもらってますよね?」
「……」
あれ? なんかアルーインさんむくれてる? ほっぺがぷくーっと……
「あ、はい! そうですよね! 直接話した方がスムーズだし、質のいい話し合いができますよね! ご足労いただきありがとうございます!」
アルーインはニッコリの表情になった。目は死んでるけど。
◆◆◆
「──ああ、だからシュガーナイツを君達の所へ送ろうと思う。丁度君と仲良くなったみたいだしね。シュガーナイツもレベルは112、中級冒険者の修行相手、指導役として役に立つはずだよ。想定外の異常個体、強敵が発生しても、彼が入れば早急に対処できる」
「ありがとうございます! これで一先ず今後の展開は話し終わりましたかね。今日はありがとうございました! 本当に」
「うん……」
あれ? なんか……この人、アルーインさん帰ろうとしないぞ? え? なんで? 帰る流れだったと思うけど、微動だにしない。
「もしかしてクランハウスに帰りたくないんですか?」
「うん。ちょっと居づらくてね……その……わたしは、ゲームとしてロブレをプレイしてた時は……キャラが男でね。でも今のわたしは女だろう? リアルのわたしと融合した結果性別が変わって、みんなもわたしも、お互い、ちょっと困惑気味で……みんなわたしのことを男だと思ってたから……」
「ああー、そういうことですか。俺は男だった時のアルーインさんを知らないですもんね。高レベルの人達は人格をキャラに支配されることはなくても、身体は融合して、色々変化があったから……そっか、盲点だった。こういう肉体面でも問題が出てくるのか」
プレイヤーのレベルが高かった人程、キャラとプレイヤーが融合した時の割合がプレイヤーに偏る。大体レベル10ごとに1割の支配率が上がる感じだったから、おそらくレベル100で人格の支配率はプレイヤー100%になる。ハイレベルクランは必然的に、リアルの人格そのままってことになる。
でも、維持されるのはあくまで人格だけ、肉体は混ざり合って、変化が起きる。中級冒険者のカレンさんが女キャラから男キャラになってしまったという話を聞いた時は、特に疑問に思わなかった……あの時はなんとなくハイレベルの人は、完全にどっちかに偏ると予測していた。キャラかリアルか、そのどちらかに。けど実際には混ざってるみたいだ。
「分かりました。それじゃあ、しばらくここで雑談でもして、暇つぶししましょうか。休憩ならここでもできますしね」
ということで俺はクランハウスに帰りたくないアルーイン団長と雑談をすることになった。門番であるシュガーナイツ君を俺達に貸してくれるんだ、その分のご機嫌取りぐらいはしておこう。
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