第12話:新たな日常
「この世界に異常が起きていることは分かっていましたが、ここまで深刻なことになっているとは……アルドロードは、シャヒル君のいう最前線でしたかな? その最前線にいる英雄達とは殆ど関わりがありませんでしたから。今この時も、英雄達が世界を破滅から守っている、か……しかし、我々が彼らの助けになれるとしたら、それは中難度以下のダンジョンボスを抑え、情勢を安定化させることぐらいでしょうか。安定化できれば、英雄達に魔道具等の物資を送ることもできましょう」
校長室予備2、そこで俺が今まで見聞きした世界の情勢をクラウドロス校長に伝えると、クラウドロス校長の顔つきは暗くなった。しかし、校長は他の人達と違い、これからをしっかりと考えているようだった。校長とは言うものの、実際には一国のトップのようなものだから当然かもしれないけど。
「待ってください。今は魔道具等を送ることができない状況ってことですか?」
「我々も周辺ダンジョンの異常個体ボスの脅威に晒されているのと、ボス以外の異常個体モンスターも発生していて、その対応に追われているのです。ただこれは、まだマシなことです。目下の問題で一番に脅威となっているのは……校内の異界ダンジョン、その一部が……邪悪なプレイヤー達に支配されてしまったことです」
「邪悪なプレイヤー?」
「ええ、彼らは基本的に校内の異界ダンジョンでもかなり深部の場所を支配していて、鍵魔法を仲間内以外には流出させないようにしています。彼らがここで何をしているのかは分かりませんが、校内の人間を拐かし、貴重な魔道具を盗んでいるのは確かです。目撃された邪悪なプレイヤー達は皆魔法使い系統の職業で、魔法の素養や知識があるようだと報告を受けました。なんらかの実験を行なっているのだと思いますが……」
「人拐い……そんなことが……大問題じゃないですか。けど、なぜ彼らがプレイヤーであるとわかったんです?」
「ああ、それですか。実は我々もプレイヤーと融合現象について独自に調べていたのですが、アルドロード魔法学校に在籍する者にプレイヤーは存在しなかったのです。と言っても口頭による調査だったので正確ではないかもしれません。しかし、我々にプレイヤーがいないと言うことは、逆に言えば、我々非プレイヤーが持たない権能、知識を持つ者は、プレイヤーである可能性が高いということです」
「なるほど! 自分たちが持たない力で、共通する力をリストアップしたんですね!」
「はい、それでプレイヤーと非プレイヤー、その違いが最も分かりやすいのは、アイテムボックスの権能と魔力の質でした。非プレイヤーにはアイテムボックスの権能が存在しませんが、プレイヤーはそれを当然のように使う。というより、なければやっていられないといった感じに見えました。そして魔力の質ですが、どうやら魂が融合した影響でプレイヤー達の魔力は少し特殊なようなのです。説明が難しいのですが、プレイヤーの魔力は少し不安定で、不安定さから独特の魔力の波動が観測されます。短く小刻みに震えているような感じです」
不安定な魔力か、まぁ二つの魂が影響しあえばそうなるのも自然か。NPC、非プレイヤーの魂はプレイヤーと違って一つなわけだから、当然違いは出てくる。おそらく魂の相性によってそれぞれ魔力の性質も変わるだろうけど、相性の良し悪しに関わらず共通するのが、校長の言った、短く小刻みに震える魔力の波動なんだろうな。
「なので、魔力の波動を見ればその人がプレイヤーかそうでないかは判別可能ですし、それ自体は既存の看破魔法で出来ることです。アイテムボックスの方は看破魔法を使わずとも見たままですから、一番判別が楽です。ともかく、我々はこういった判別方法で、アルドロードへ侵入し、不法占拠する者達が邪悪なプレイヤーであると分かったのです。まぁ、結局彼らの狙いは分からないのですがね……彼らの平均レベルは80以上、それが確認されているだけでも40人以上、我々の力だけで対抗するのは難しく、アルドロードの者達には見かけたら逃げるを徹底させています」
「平均レベル80以上が40人以上? それも魔法使い系の職業ばかり……となると、魔法使い系統の者ばかりが集まってできたクランが母体組織だったりするのか? ……そう言えば、ハイレベルクランに魔法使い系統の者達だけで構成されてたのがあったな。確か名前は【
「おお、なんとなくの目星はあるのですね! ですが、シャヒル君に教員となってもらい、邪悪なプレイヤー達の対処をしてもらうというのは難しそうですね。シャヒル君は中堅以下の冒険者をまとめて情勢の安定化をさせないといけないわけですし」
校長は俺をレベル80以上のやつらの対応をさせようとしてたのか……まぁ砦喰らいの異常個体を倒したことで、俺のレベルも53から64に上がってるから、戦って即死とかはなさそうだけど……厳しいというか、普通に考えたら無理だよな。
「おーい、話は終わったかー? シャヒル、我はもう飽きたぞ。ふあーあ!」
妖精みたいな自称人造神、ディアンナが俺の頭の上で欠伸をしている。俺のことを主として認めるだのどうだの言っていたけど、俺を目上として扱ってる感じはまるでない。
「クラウドロス校長、とりあえず俺は守護連合拠点のブロックスに戻ります。俺の連絡先を教えるので、何かあったら魔法の手紙を送ってください。俺達の力で対応できるかはわからないですが、アルドロード魔法学校の問題解決は最前線プレイヤーを魔道具で支援するためには必須ですからね」
魔法の手紙とは、ロブレの文字チャット機能だ。これに関してはちゃんと設定資料に設定があったからか、アイテムボックスと違い、非プレイヤーの人も普通に使えるようだった。魔法によって記された情報が風の精霊によって届けられるという設定だったかな? 魔法の手紙は非戦闘状態の時に受け取ることができる。転移魔法も非戦闘時、非戦闘エリアでしか使えないから、転移しようと思ったタイミングで魔法の手紙が届くこともよくあった。
ともかく、俺は謎の人造神ディアンナを引き連れ、ブロックスへと戻った。
◆◆◆
「それじゃあ俺とカレン、ホイップちゃんで他の中堅冒険者の町を説得してくるわ。俺とカレンは他のクランの知り合いもそこそこいるし、ホイップちゃんは交渉で強いスキル持ちだ。シャヒルは守護連合で抑えるダンジョンやボスのローテーションとかを考えといてくれ。あと、お前が必要だと思ったことがあるなら迷うなよ? お前がリーダーなんだ、お前が連合の行き先を決めるんだ」
「分かりました、コーマさん。でもほんと、コーマさんしっかりしてますよね。もし俺が死んじゃったら、その時はコーマさんにリーダーを引き継いでもらおうっと」
ブロックスの酒場、ここも俺が少し離れている間に感じが変わったな。最初はただの酒場だったのに、大きく丈夫そうな扉が設置され、防護柵と門番の冒険者によって守られている。憩いの場ではなく、戦うための場所になった。
まぁ、中には酒場の部分も残ってるし、酒場としての機能もあるんだけどね。
俺はコーマさんの言った中難度以下のダンジョン、ボスの攻略、討伐のローテーションを考え、資料としてまとめることにした。連合に存在するクランがそれぞれ担当するエリアを交代、休憩するタイミングについてや、休日の確保を考えていく。
うーん、俺……ほとんどソロだったからあんましパーティーで戦う人達の、戦闘感覚が分かんないんだよな。平均してどの程度疲労するのかとか、適正な攻略レベルとか……
「まぁ、分かんないことは聞くのが一番か」
俺はブロックスに残る守護連合の様々なクラン、そのメンバー達に話を聞いて回った。俺もこの人達のことをもっとよく知る必要があったし、あちらとしても俺のことを知る機会が必要だったろうから、丁度良かったかもな。
「えーっと、こんな感じならいけそうかな?」
「いやー、そこはもうちょっとやれると思うぞ? シャヒルさん、ちょっとメンバーに遠慮し過ぎだ。みんな自分と自分の生きている世界を守るためにやるんだからさ」
いつの間にか、俺のローテ資料作成を手伝ってくれる人が現れた。この人はガトンズさん、目がギョロっと大きい、やる気に満ち溢れた顔をしたマッチョ男だ。職業は釣り人、採取系だけど戦闘も可能な職業だ。
「いや、これは遠慮とかじゃなくて……みんなが新しい何かを始めようってなった時に、余裕があった方がいいなと思って。例えば、職業変更したいって人がいるとして、そのための訓練とか勉強ができたらいいなって。ちょっとの自由時間しかないんじゃ、それも難しいと思うんだ」
「あぁ、そういうことか! シャヒルさんはちゃんと守護連合の先を考えてんだなぁ。おいら達も強くならないといけねぇもんな」
「うん、だけどガトンズさんの言うことも一理あるかも。メリハリがあった方がいいし、余裕のある日とそうでない日を半々ぐらいにして、休日はこのままで。あとは実際やってみて微調整していくのがよさそうかな。想定よりも攻略が楽だったり、逆に難しかったり、効率的な攻略法が発見されたりとか、色々あるだろうしね」
とりあえずのローテ資料作成はこれで終わりだな。気づくと外は薄暗く、夜になってしまった。外に出て、ブロックスの景色を眺める。ブロックスの外は西部劇とかに出てくる、風でくるくる回って移動する草、タンブルウィードみたいな中立モンスターのカサルンがクリスタルサボテンにくっついて光っている。
そうか……時間、ロブレでは現実の2倍の速さで時間帯が切り替わってたけど……今のこの世界は、現実と、リアルと同じだ。午前中12時間、午後も12時間……それを改めて実感すると、俺達は……今、この世界を、リアルで生きているんだって思った。
「お! シャヒル! やっとつまらん文字の仕事が終わったのか! 冒険に行くぞ冒険!」
俺が景色を見ながら伸びをしていた所に、ダクマが駆け寄ってきた。その頭にはディアンナが乘っている。ダクマは夜でも元気だな。
17歳らしいけど、ぶっちゃけテンションは小学生だ。
「そうだぞシャヒル。我も暇で仕方がない、遊びに連れていけ。それにしても、お前とダクマは似ているな」
「は? 全然似てないだろ!! ……あれ?」
ディアンナに俺とダクマが似ていると言われて、ダクマの顔を見た。似てるわけないと思っていたが、確かに似てるかも……俺のお母さんの若い頃に似てるかも……親戚だと言われても違和感ないわ。
「ほんとだ……ちょっと俺、というか俺の母さんに似てるな。ディアンナ、結構人のことよく見てんだなぁ~。分かった、それじゃあちょっと遊びに行くか! 帝都ラジャーンに行く、丁度用事もあることだし」
俺とダクマ、ディアンナの三人で帝都ラジャーンに行くことを守護連合のメンバーに伝え、俺達はラジャーンに転移した。
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