第10話:報告
「えええええええええええ!!? 砦喰らいを倒したぁ!?」
ブロックスに着いてそうそう、砦喰らいを倒したことをホイップちゃんや守護連合のみんなに伝えた。守護連合(仮)の暫定的な本部として使わせてもらっている酒場に、みんなの驚きの声が響く。
「実はたまたま凄いやつと会って、こいつだ。ワールドエンド・ダークネスマインドだ」
「うむ、余がワールドエンド・ダークネスマインドである。シャヒルに頼まれて共に砦喰らいとやらと戦い、殺した者だ」
「何というか、俺とダクマ、二人の力が合わされば砦喰らいに勝てるかもと思ったから、ちょっと挑んでみたんだ。ダメそうなら逃げようと思って。そしたら、倒せてしまったんだ。本当に、奇跡みたいなもんだ、ダクマがいなきゃ絶対に勝てなかった。っと、みんな外に出てくれ、証拠を見せるから」
俺は酒場から守護連合のメンバー達を外に出す。そして、アイテムボックスに回収した砦喰らいの鬼蛙の死体、鬼蛙の皮をアイテムボックスから出した。
「でっけぇ!? こりゃ確かにただの砦喰らいの皮じゃなさそうだな……」
コーマさんが目を丸くしている。
「うん、けどデカいだけだ。それ以外は普通の鬼蛙の皮と違いはなかった。強いだけで、特にドロップ品がレアになったりとかはなかった。まぁ、取れる皮は増えたけど……ほんと、それだけだ……こんなの、相手にするだけ大損だろうね。だけど、弱い内に倒しておかないと大変なことになると、今回分かった」
「そうだな。初期町に冒険者をしっかり配置して、警備をしっかりさせる。砦喰らいを見つけたら直ちに連絡をとって、最速で殺す。これを徹底しねぇと、犠牲者達の死が無駄になっちまう……」
コーマさんの言葉に皆頷く。みんな思うことは同じみたいだ。
「あ! シャヒルさーーーーーん! あんた、あんた凄いよ! 英雄だ!」
大声で叫ぶ声が聞こえる。町の入口の方からだ。あの人……確か俺がダクマと砦喰らいを倒しにモンテの幽霊屋敷前に行った時、砦喰らいに殺されそうになってた人だ。叫んだ男の人は駆け足で、息を切らしながら俺達の所へやってきた。
「はぁ、はぁ、ホント足速いんだから……おれはシャヒルさんとそこの嬢ちゃんが砦喰らいと戦うのを見てたんだ。おれ、シャヒルさんに逃げろって言われたけど……俺は残って、隠れながら戦いを見てたんだ。砦喰らいは本当にバケモンだったよ。町やダンジョンを滅ぼしたっていうのは、正直感覚的によく分かんなかったけど、あれは……ただの人間が殺せる相手じゃない。俺達がアリを踏み潰すような感覚で、人を殺せちまうバケモンなんだ。だからそいつを倒したシャヒルさんと嬢ちゃんは英雄だ。俺達の住む世界を守ったんだ」
「バケモンね……シャヒル君、砦喰らいのレベルは確認したんだろ? レベルはいくつだったんだい? 君の予想だと90以上だったけど」
カレンさんが俺を見る。
「砦喰らいのレベルは、93だった。おそらく一回モンテの幽霊屋敷を攻略した後だ。もしかしたら、砦喰らいを倒そうとしてた人たちがいたから、砦喰らいの注意がそっちに向いて、砦喰らいはモンテの異界ダンジョンに再突入しなかったのかも……そうなってた場合、多分砦喰らいはレベル200になるまでモンテを攻略し続けて、200になった後、ミシークに来ていたかもしれない。一つのダンジョンを全滅させるのに半日かかるとしたら……3日でレベル200に到達する計算になる……そう考えると、モンテ前で砦喰らいに挑んだ人たちに俺達は救われたのかもしれない」
レベル93、その言葉を聞いた人達がざわつく。守護連合のメンバーは顔を強張らせている。
「そういやシャヒル、ミシーク住民の避難を完了させた時、お前砦喰らいを無力化できる策を思いついたとか行ってたよな。確か、お前が囮になってミシーク近くの崖に誘導して落とすって策だ。砦喰らいに挑んだやつらに釣られて、モンテ攻略をやめたってんなら、それが成功してた可能性も十分にあるな。というか、もし砦喰らいを倒せないと判断したら、そのままその策に移行するつもりだったってことか。ふむ、やるじゃねか! やっぱり俺は、シャヒル、お前が守護連合のリーダーに相応しいと思うぜ。今回砦喰らいの鬼蛙の異常個体を倒して英雄になったんだ、反対するやつはそうおらんだろう」
コーマさんの言う通り、俺は砦喰らいが倒せないと判断したら、戦闘を中断し、そのまま囮となって崖へ誘導する作戦に切り替えるつもりだった。エアーボムを使い切って、それで砦喰らいを倒せなかったら、俺は作戦を切り替えるつもりだった。
まぁ、エアーボムは使い切って、そのうえでまだ砦喰らいは倒れなかったわけだけど、ゲームだったロブレとの違い、状況から判断して、ちょっと無理をしたんだよな。エアーボムが切れても攻撃のチャンスがなくなるってだけで、逃げることは可能だと思ったからこそできた無理ではある。
「そうだね。僕もシャヒルを守護連合のリーダーとして認めざるをえないかなって。僕じゃ遥か格上のレベル93なんて倒せそうにないし、仮に倒せるとしても……命なんて賭けられなかったと思う。僕は……君達と別行動になって、あれから滅んだ初期町を確認したんだ。そしたら……ヤツの死体の食べ残しがあったんだ。食べ残しと言うか、ミンチになったのを吐き出したものだね。それを見て……僕は戦えないと思った。臆病なんだ、ただのゲームじゃない、命を賭けなきゃいけない戦いなんて無理だ。君の行動も、判断も、そしてなにより勇気も、僕はリーダーとして相応しいと思うよ」
俺がリーダーの器であるかどうか、不安視していたカレンさんが、俺を認めた。それによって連合内の空気感が変わった。皆、俺をリーダーとして認めようとしていた。
「ありがとう、カレンさん。けど、その砦喰らいが吐き出した死体っていうのが気になるな。少なくとも俺はそんなの見たことないから……もしかしたら何か重要な情報があるかもしれないね。その死体はもう片付けたの?」
「いや……僕は気持ち悪くなって吐いちゃって、そのまま逃げてきたから。多分そのままだと思うよ」
「そっか、じゃあ精度の高い鑑定魔法を使える人はいるかな? その死体を調べるのに協力して欲しい、不快な気分になるかもしれないけど、調べておきたいんだ」
おれの呼びかけに応じてくれたのはブロックスの鑑定士だった。各町に存在するNPCの鑑定士、彼らはゲーム内ではどんなものも鑑定することができた。ただ、鑑定品のレベルがプレイヤーと離れていると、その差が大きいほど鑑定料があがる仕組みで、ハイレベルな鑑定が行えるプレイヤーに頼んだほうが安上がりだった。だからゲーム内ではあまり活用されていなかった。
でもこの世界ではちょっと違うらしい。高レベルのものを鑑定するのに掛かるのは金ではなく時間だった。おそらく、人気がなかったことが、金のせいではなく、時間が掛かるからと解釈されたんだろう。だからこの世界の鑑定士は低レベル品を大量に、短時間に鑑定して儲けていた。
カレンさんが見た砦喰らいの吐き出した死体はロンプラにあった。俺はロンプラから逃げてから、ロンプラの状態を確認できていなかった。だから見逃していたんだろう。
確かにミンチ状の、赤黒い肉塊は存在した。それを鑑定士さんに調べてもらう。鑑定の結果、死体はガルオン爺のものだった。
「これが……ガルオン爺……」
死体を調べ、死体に含まれていたものを全て鑑定していく。そして、砦喰らいがガルオン爺を吐き出した理由であろうものが分かった。
「これは……破魔石……強力な魔法破壊の力を秘めた石ですね」
「そうか、ガルオン爺は一応魔法学校の教授だったもんな。生徒が上級魔法の発動を失敗させて、暴走させちゃった時とかに、それを止めるための指輪を貰ってたんだ。そうか、魔法学校……ガルオン爺が死んだことを伝えないとな」
俺はガルオン爺の死体を燃やし、火葬した。火葬が終わり、灰の中にあった破魔石の指輪を回収した後、ガルオン爺をロンプラの墓地に埋葬した。この破魔石の指輪は、魔法学校に届けよう。ガルオン爺が籍をおいていた【アルドロード魔法学校】に。
「ガルオン爺、俺、これからも頑張るよ。風を司る神、そこまで行くのに何をすればいいのかなんてわかんねーけど、頑張るよ。受けた恩は、必ず返す」
俺はガルオン爺の墓に手を合わせ、アルドロード魔法学校に転移した。
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