第7話:守護連合
「ホイップちゃん、修行の成果はどんな感じ?」
俺は灰王の偽翼のクランハウスから一度ブロックスに帰還した。中難度以下のボスに対応するための組織を作るなら、この中級者の町代表みたいなブロックスの冒険者達には、一番に声をかけるべきだろう。
「はい! ばっちりです! なんと! レベル17です! 7レベルも上がっちゃいました! それにスキルも習得できました!」
半日で7レベルもあがったのか! ホイップちゃん頑張ったんだなぁ。でも、レベルってこんなにはやく上がったっけ? 町の害虫害獣退治ぐらいじゃこんなに……それはそうと、ホイップちゃんがステータスを開示して見せてくれているのでそれを見る。
・【人外対話】……人外との意思疎通が可能、中立的、友好的モンスター相手の場合、交渉可能。光属性、風属性、特殊。
・【ファイアウィンド】…炎を風で運びダメージを与える。すでに炎が存在する場合、それを強化する。火属性、風属性、魔法、使用回数制限なし。
「二つも! それにどっちも、風属性が入ってる……人外との対話も凄いけど、ファイアウィンドの使用回数の制限なしは強いな……攻撃魔法はほとんど回数制限あるからね。ちゃんとした休息を取るか、貴重アイテムを使わないと使用回数の回復できないし……」
「え? 使用回数制限なしって凄いんですか? 確かにファイアトーチは最初5回しか使えなくて使いづらかったですけど、今は8回まで伸びましたし、強くなったらあんまり気にならなくなるんじゃないですか?」
「ダンジョンに行ってボスと戦うとなると、それまでに他の沢山のモンスターと戦うことになるからね。だから適切な威力の魔法を使って、強い魔法は温存するんだ。だからホイップちゃんも使えるファイアトーチなんかは、最前線のプレイヤーとかでも、道中の雑魚相手に大活躍してるんだ。つまり使用回数制限なしっていうのは、格下相手への消耗を抑えるだとか、長期戦に置いて最強なんだ。今日、最前線プレイヤーのリーダーに会ってきたけど、そんな人でも使用回数や体力を回復するために休憩しなきゃいけない、凄いことだよ」
実際には魔法使いも魔力を飛ばして敵を攻撃する、回数制限のない、通常攻撃があるけど、単体攻撃なうえに大した威力もないから、魔法使いが攻撃魔法の使用回数を温存するっていうのは現実的じゃない。少なくとも適正レベルのエリアでは無理だ。
「あれ? じゃあ、魔法以外の戦闘系スキルってどういう扱いなんですか?」
「戦技スキルのことなら、回数制限はないよ。その代わりにクールダウンタイムが存在して、連発できなかったりする。まぁでも、どっちかって言うと、戦技スキルの場合、使った後の硬直、隙の方がリスクかな。大技を使う時は、相手が大技を使ったあとの硬直に合わせたりするんだ。雑魚処理が得意な前衛職がいるパーティーとかは、魔法を温存できて安定するらしいよ」
「へぇ~、じゃあ前衛最強じゃないですか? 使用回数の制限を受けないなら、ずっと戦えるわけですし!」
「まぁ実際格下相手ならそうだね。でも、戦技スキルには硬直が存在するけど魔法にはないんだ。特化した魔法職なら、別の魔法の同時詠唱とかもできるようになるから、強敵相手のダメージは実質的に魔法職が一番なんだ」
「体力がないけど火力があるのが魔法職で、体力があるけど、火力があんましなのが前衛職ってことなんですねぇ~」
前衛でも高火力の職はあるし、非魔法系の後衛職とかもあるけど……まぁ、あんまし一度に教えても混乱するだけだろうし、とりあえずはいいかな。
「ホイップちゃん、実を言うと、修行の成果の確認てだけじゃなく、ホイップちゃんの力を借りたくて、会いに来たんだ」
「あたしの力を?」
「うん、ホイップちゃんの会話上手の力を借りたいんだ。実は──」
◆◆◆
俺は砦喰らいに俺達中級者以下プレイヤーだけで対応しなければいけないこと、中難度以下の他のボスに対しても同じで、そのための組織づくりが急務であること、その組織づくりの交渉のため、ホイップちゃんの会話上手Sの力を借りたいということをホイップちゃんに説明した。
「げきヤバですね! それじゃあ、早速説得しにいきましょう! 実は、害虫害獣駆除をしてるうちに何人か、知り合いの人ができたので、まずはその人達と話をしましょう!」
流石コミュ強、隙あらば人脈を広げている……なんてスムーズなんだ。
俺とホイップちゃんはブロックスの長老や、冒険者、宿屋の店主、酒場、ギルドの人たちに事情を説明し、協力を仰いだ。
「うん、俺もシャヒルの兄ちゃんがリーダーをすべきだと思うぜ。なんてったって、一番この状況をどうにかしようと動いていたわけだからな。シャヒルがいなかったら、俺達は何も知らないまま、砦喰らいにぶっ殺されていたかもしれねぇ……あいつは初期町を狙ってるけど、初期町の全部を滅ぼした後、どうなるか分からねぇからな」
コーマさんが俺を中級冒険者の組織のリーダーに俺を推してくれた。コーマさんは中堅プレイヤーの集まるクランのリーダーだったらしく、コーマさんが認めるならと、俺を認める人もいた。
「正直、僕はこんな地雷ビルドのプレイヤー、しかもほとんどソロで活動してきたようなヤツをリーダーにするなんて、不安で仕方ないよ。まぁでも、その行動力と、判断力は認めてあげてもいい。こんな緊急時だから、本当に大事な所を見極める能力がある人がリーダーじゃないとマズイ、それは理解できるんだけどね。副団長、副リーダーぐらいのポジションが妥当じゃないの?」
中堅冒険者クラン【ふぁいあ~・どろっぷ】の団長、カレンさんが俺を値踏みするように俺を見る。ふぁいあ~・どろっぷという同名のアニメのオタクが集まってできたクランらしく、初期プレイヤーはあまりいないクランだ。自キャラが女の人ばっかだったけど、リアルと融合した結果、みんな中性的な男みたいな見た目になってしまったらしい。と言っても、中性的なだけで、カッコイイわけでも美しいわけでもない。その中でカレンさんはカッコイイ感じだ、リアル顔面がイケメンだったのかもしれない。
「カレン、お前自分で言ってんだろ? 大事なのは判断力だ、冒険者としての実力がどうだったかは関係ないぜ、それに拘り過ぎて無能をリーダーに添えたら、俺達だけじゃなく、レベルの低いキャラ、プレイヤー、NPC関係なく、全滅しちまうかもしれねぇんだ」
「う、で、でもねぇ……今回のことだけでシャヒル君がリーダーに相応しいと決めるのは時期尚早ってものじゃないかね? 暫定的なリーダーとして留め、組織としてまとまっていく過程で、正式なリーダーを改めて決める、それなら僕も……賛成できるかな」
「はぁ……まぁ、お前の言うことにも一理あるしな。俺もそれでいいと思うぜ。シャヒルを暫定的なリーダーにするってことで。まぁ仮って言うとよ、組織の名前も仮でいいから決めとかねぇか?」
「まぁそうですね。仮でもいいから組織名がないと、色々面倒ですし……一つのクランじゃなく、複数のクランが協力するわけだから、連合なのかな? 中堅連合だと流石にあれですし……うーん」
連合、ロブレ内にはそういったシステムはなかったけど、ハイレベルのクランが同盟を結んで敵対クランと対立するとかはあったなぁ。ほとんどソロだった俺には関係のない話だったけど、俺は話を聞くだけでワクワクしていた。
「はいはい! 立場としては弱者を守るわけですから、守護連合とかどうですか?」
「そうだね。ホイップちゃんの案でいいんじゃない? 僕も仮の名前であるならこういうシンプルな方が望ましいと思う。カッコイイ名前は、僕達がちゃんと機能して、組織として形になってから決めればいい」
「よし! じゃあ俺、シャヒルが暫定的なリーダーで、組織は守護連合(仮)とする。それでまず最初に組織として行うことは、初期町であるミシークの住民を安全な場所へ移すことだ。今砦喰らいがいるのはおそらく、異界ダンジョンの【モンテの幽霊屋敷】。やつがどれぐらい時間をあのダンジョンに掛けるかは不明だけど、ミシークが襲われるのは時間の問題かも。だから早くミシークの住民を逃さないといけない」
「待ってくれよ。君の話じゃ、砦喰らいは異界ダンジョンを利用して僕達が対処できないレベルにまで成長する可能性があるんだろう? だったらまだ弱いうちに倒すことを優先した方がいいんじゃないのかい?」
「カレンさんの言い分もわかるけど、それに関してはもう手遅れだと思う」
「て、手遅れ?」
「俺が砦喰らいと戦って逃げた時、砦喰らいのレベルは62だった。あいつは一つの町、ダンジョンを滅ぼすごとにレベルを10上げる。さらに言うと、モンテの幽霊屋敷は、初期マップで低経験値のアンデッドモンスターが大量発生するギミックが多用されたダンジョンだ。そして、おそらく砦喰らいは経験値の最低下限の大量取得でレベルをあげてるはずだから、大量の低経験値が発生するモンテと……相性がいいんだ。砦喰らいがモンテを攻略すれば……20レベルは上がっていてもおかしくない……ロンプラの死体を食ってのレベル上昇と合わせたら……一度モンテを攻略するだけで、レベル90以上になっているかもしれない……」
「レベル……90以上……そんなの、多分僕達がいくら数を揃えても、勝てないじゃないか。そんな高レベル、今の僕達じゃ絶対に防御を抜けない……」
「さらに言えば、異界ダンジョンに入っている間のあいつを俺達が狙うこともできない。ダンジョンの入り口は同じに見えても、パーティーごとに違う異界のダンジョンに入ってるわけだからね。俺達がモンテに入っても、砦喰らいと同じマップには入れない。狙えるとすれば、砦喰らいがダンジョンを全滅させ、クリアして出てきた時だけだ」
あまりにも厄介だ……レベルが70台、砦喰らいがロンプラを滅ぼした直後なら……まだギリギリ中堅冒険者達だけでなんとかなったかも知れないけど……現実問題、それは不可能だった。
「だけどカレンさんの言う通り、これ以上砦喰らいのレベルが上がったらマズイのは確かだ。だから、砦喰らいのモンテ攻略を2回、できれば1回に抑える方法も考えなきゃいけない。じゃないと、俺達で対応するのはきっと、不可能になる。俺達がどうにか強くなっても、レベル200になんてなられたら、勝つのは難しいし、死者は必ず出る。だけど、まずはミシーク住民の避難が先だ。それと並行して、砦喰らいのレベル上昇を抑える方法を考える」
コーマさんも、カレンさんも、集まってくれたブロックスの大勢の協力者達も頷き、俺達、守護連合(仮)は行動を開始した。
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