第5話:融合現象
「すみませーん。その俺、今この融合、プレイヤーとキャラが混じる現象の調査をしてるんですけど、よかったらステータス確認させてもらえませんか?」
「え? あ、ああいいぞ。そうか、なんか運営いないっぽいし、自分らで対応考えないとか。あんた名前は? 俺はコーマだ」
「あ! すみません! こっちから名乗らないとなのに、俺はシャヒルです。俺の混ざった割合は5:5って感じです」
俺はとりあえずこの融合事件の調査をすることにした。砦喰らいを倒すにしても、正直な所、この世界の情勢が滅茶苦茶に荒れる予感しかしなかったので、動き方を決めるためにも情報が欲しかった。
そこで問題となるのは運営の不在だ。運営がいないから有志が調査をするしかない……運営とは連絡がつかないし、助けは期待できそうにない。だったら俺が調査しようと思ったわけだ。ちょっと前までの自分だったらありえない積極性だが、本気で生きる決めた以上、思ったなら行動しかない。
俺は動くか迷う度、ガルオン爺のことを思い出した。そうすると大丈夫だ、お前ならできると言われているような気がして、俺は一歩を踏み出せた。まぁ俺は風魔法と職業スカウトの合せ技で移動がめっちゃ速いから、調査とかはかなり向いてる。
「ほー、5:5か、じゃあ俺と同じだなぁ! あんたは俺と同じで調子よさそうだな。相性が良かったのかもな! この町は5:5ぐらいのやつが多いけど、調子悪くなってるやつも結構いるんだよな」
コーマさんがステータスを開示してくれた。ロブレはステータス看破魔法でステータスを見ることもできるけど、こうやって自分からステータスを開示することもできる。ロブレを、リアルから俺が操作してた時は、メッセージウィンドウみたいなのが出て確認できたんだけど、今は脳内に情報が流れ込んでくる感じで、メッセージウィンドウは表示されない。
まぁメッセージウィンドウが表示されないのは、ステータス関連だけじゃなく、全部がそうだ。一応、プレイヤーのできた操作とか、設定の確認とかは全部再現できるっぽいけど、それが全部脳内で処理される感じだ。
「え? そうなんですか? あっ、やっぱり、コーマさんもレベル50台なんですね。俺も50台で、どうやら混ざった場合の人格比率とかはレベル依存ぽいですね。レベルが高いほどリアル人格が残る感じで、逆にレベルが低いと人格はほとんど残らない、もしくは消失する」
「ひゃ~、そりゃおっかねぇ。あーでも一概には言えねぇんじゃねぇか? ほらさっき、5:5で調子悪いやつがいるっていっただろ? 話聞いてみると、リアル人格とキャラ人格に開きっていうか、真逆だったりすると調子悪くなるっぽい。怖いぜ? なんか記憶とか感情とかが、消えてくような感じがするんだってよ」
「ああー、そうか。真逆っていうか、反発しあう感じだと、互いが互いの人格とか記憶を消滅させてしまうみたいな感じなのかな? 何にしたって怖すぎる……偏りが大きければ、ミスマッチな人格でも、早く決着がついて、記憶は維持されるのか? この説が正しければ、ホイップちゃんのことは説明がつくしな……」
「んじゃああれだな、被害がでけぇのは割合が5割以下のやつらだろうなぁ。レベルが低いのは元人格消滅で、5割付近のやつは相性悪いと互いの人格が打ち消し合って、廃人に……」
「うーん、でも高レベルにも被害者はいますよ。結局、キャラ自体にも人格はあるわけですし、彼らはリアル人格に食われているとも言えるわけで……」
「あっ、そっか。そうだよなぁ……こいつら、本当にこの世界で生きてたんだからな。正直、お互いがさ、お互いの記憶を見てさ、どっちもリアルに感じた。ありゃ現実の重みだったよ」
現実の重み、やっぱそう思うよな。ただのゲーム、ただの遊びの中にある重さじゃなかった。俺はコーマさんの調査が終わってからも、ブロックスのプレイヤー達に調査協力を頼み、ひたすら調べた。そうしているといい加減夜になったので、俺はブロックスの宿屋に泊まることにした。
「すみません、宿代貸してもらっちゃって!」
「いいよいいよ。ホイップちゃんはレベル低いから、まだブロックス周辺じゃ依頼で稼げないだろうし。まずは訓練場で基礎訓練あるのみだよ! ある程度強くなったら、その時にお金は返してもらうよ」
「はい! できるだけ早く返せるように頑張りますね!」
まだ子供なんだから気にするな、と言いかけたが。言うのをやめた。それは別にホイップちゃんの身体が大人だからとか、そういう意味ではなく、ホイップちゃんが本気で砦喰らいを倒すと覚悟を決めたからだ。子供だからと半端な扱いをしては、ホイップちゃんとその覚悟に失礼だ。
ブロックスに限らず、主要な町には大抵訓練場がある。そこに木人があるんだけど、レベルが低いうちは木人相手に攻撃を行うだけで経験値が入る。ホイップちゃんは俺の提案で、今日は木人相手に経験値をひたすらに稼いでもらった。朝はレベル7だったけど、今はもうレベル9だ。最低で15あれば、俺がフォローすることで本格的なモンスター相手の経験値稼ぎもできると思う。
といっても木人相手の経験値稼ぎはレベル10ぐらいが頭打ちだから、明日には別の方法が必要になる。別の方法とは、町の中にいる害虫駆除や、害獣駆除だ。そういった町の中にいるモンスターはレベルが低いため、レベル10もあれば比較的安全にそれらを狩れる。実践前の練習モンスター的立ち位置だ。と言っても調子にのって大軍に挑みかかれば死ねるけどね。そこら辺の注意は明日かな。
「今日調査して分かったことなんだけど。やっぱり状態はかなり個人差あるね、人格同士の相性とか組み合わせとかね。俺は人格が似たような感じで問題なかったんだけど、人格が似ていたから駄目って人もいたんだよね。同じ性格だと反発しあっちゃうタイプ、そういう性格は性格の傾向がバラけていたほうがいいっぽい」
「性格にズレがなければいいって話じゃないんですねぇ~。相性、奥が深いですね。ふむぅ、でもなんかわかる気がします。あたしも最初気持ち悪かったんですけど、みやこさんが消えてから、気持ちの悪さ治まりましたし。相性が悪かったんでしょうね。どうしようもないことだったかもですが、やっぱあたしが消しちゃったんだ」
「ホイップちゃんに限らず難しいことだと思うよ。誰もよくわかってないことだし、対策なんて無理だ。けど、人格の相性が悪くなかったら、人格比率に偏りがあっても、消えずに維持されるってことか? だとすれば低レベルの人でも、リアル人格が残ってる人いるかもだな。低レベルプレイヤー……初期町か。ホイップちゃん、俺は明日一人で、ロンプラ以外の初期町を調査してくるよ。色々と気になることがある」
「分かりました! シャヒルさんが戻ってくるまでにレベルをいっぱい上げときます!」
翌日、俺はホイップちゃんに、レベル10後のレベ上げの仕方を教え、無理しないように注意してから、ロンプラ以外の初期町を調査するためブロックスを出た。
と言っても初期町には簡単に転移魔法で移動できるため、それほど時間はかからない。初期町は全部で4箇所、ロンプラ、ダヨン、ミシーク、ゴロタン。俺はロンプラ以外の3箇所を調査する。
調査して分かったのは、初期町で残っていたのはミシークだけだった。他の初期町はロンプラと同じく滅ぼされていた。おそらく犯人はロンプラと同じく砦喰らいの鬼蛙だ。なぜなら、やはり特有の、引きずったように地面についた血の汚れがあったからだ。そして、それらの初期町に近いダンジョンはロンプラのサトラン洞窟と同じく、モンスターが全滅、もしくは極端に数を減らしていた。
「ブロックスの冒険者も、ちょっと前よりかなり減ってた。やっぱり、熟練プレイヤーばっかになってたからか。そういうプレイヤーは大抵、最前線近くの町に拠点を移すから、初期町から遠い場所にいる。だからついに砦喰らいの初期町襲撃イベントの完全放置が起こってしまったんだ……」
完全放置が起こって、砦喰らいが勝利、大量のNPCを食ってレベルをアップ。そして次の初期町への通り道にある、近くのダンジョンのモンスターも食い荒らして、またレベルをあげて……レベルがリセットされないまま、次の初期町を襲った……多分破壊の規模が小さかったゴロタンで最初に襲撃イベントがあって、次がダヨン、3つめでロンプラ……
だとするなら、あいつは二つの町と2つのダンジョンを滅ぼして、俺が戦った時のレベル、62になっていたんだ。ヤツの本来のレベルは20、ということは、一つの場所を滅ぼすごとにレベルを10伸ばしている計算だ。おそらくあれから、ロンプラにあった大量の死体を食って、通り道のダンジョンを荒らしている頃だろう……レベルは70か80近くになってるかも……
いや流石にそこまではいかないよな。レベルの上昇率も下がるだろうし……本当に下がるかな? だって初期町なんて経験値を持ってる高レベルのキャラもプレイヤーもいないだろうし、大量に食っても、本来は対してレベルも上がらないはず……
「ま、まさか……取得経験値の下限、経験値100の大量取得だけで、あれだけのレベルを……? いや、ありえるぞ……あいつはモンスターも食ってたわけで、町には人だけでなく害虫や害獣モンスターも大量にいるんだ。そいつらも殺してるってなると……別にそこまでおかしなことじゃない……」
それぞれの町、特に初期町は全盛期の大量に初心者が存在した時でも、初心者の練習モンスターである、害虫、害獣が十分供給できるように設定されていた。それはつまり……初心者が練習モンスターを数十体狩って先へ進む、がそれぞれの町で、同時に、何百と行われていたってことで……練習モンスターはそりゃあもう、夥しい数用意されてたってことだ。
あれ? ちょっとまてよ? じゃあダンジョンは? あ!! ダンジョンって……確か……俺はヘルプから設定解説のダンジョンの所を確認する。脳内に情報が流れ込んでくる。
「ダンジョンはどのダンジョンもモンスターが一定の間隔で生み出されるが、上限が存在する。この上限は神の意思によって変動し、リセットされる。異界ダンジョンは、パーティーごとに異なる、平行世界のダンジョンを攻略しているので、その上限はないに等しい、なぜなら、1パーティーだけで上限までモンスターを倒すのは無謀だからだ……」
神の意思で変動って、ようは運営のさじ加減だろ? 砦喰らいに壊滅させられたダンジョンはしばらく経ってもモンスターが湧いていなかった。これって、運営が機能してないから、上限に引っかかったままで、モンスターが湧かないんじゃないのか?
つーか……ミシークの近くにあるダンジョンって……異界ダンジョンじゃん……もし、もし砦喰らいが異界ダンジョンの一つを滅ぼして、それでまた再突入、別の平行世界の異界ダンジョンに入って滅ぼしてを繰り返したら……あいつのレベルとんでもないことになるんじゃ……モンスターのレベルは最大200、今のプレイヤーキャラは120だから……レベル200のレイドボスになったら流石に、最強プレイヤー達でもやべぇんじゃねーか?
確かに砦喰らいは最初期ボスだから、複雑な行動も、面倒な行動もしないけど……ステータスが高くなり過ぎたらやばいんじゃねーの? 最初期のボスってギミックよりもステ重視で、ステにかかる補正が異常に高いせいで、めっちゃ嫌われてたんだよな。
嫌われたから、調整の方向性が今の感じ、ギミック系に変わったんだよな。まぁそれはそれでめんどいんだけど……まぁ、ソロ攻略を許してもらえるだけ、ロブレは自由度高いか……
こんなの、俺達の手で倒すとか言ってる場合じゃねぇよ! すぐにでも最前線プレイヤー達に声をかけて、倒してもらうべきだ。じゃなきゃ、とんでもない被害が出る……
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