第4話:最初の仲間


 思い出した。理解した……ガルオン爺の最後の言葉の意味、未来があるの意味……俺に託した何かの正体、あの人が、俺を信じたのも……全部の理由が理解わかった。


 俺はもう、泥砂昼男じゃない。ただのクレイマン・シャヒルでもない……俺達は混ざり合っちまったんだ。


 混ざって生まれた、新しい一つの存在、クレイマン・シャヒルだ。俺は、シャヒルの記憶と感情に、かなり引きずられている。でも、俺はそれでもいいと思ってる。俺も、本気で生きたいと思った。シャヒルの願いとガルオンの願いを叶えたいと思った。


 俺とシャヒルは、別人だったけど、その心は一緒だった。俺は本気で、生きるんだ。その気持ちは、完全に同調していた。


「そうか、混ざったって、そういうことだったんだな。ホイップさん、あんたに混じった人はどうなったんだ?」


「えっとですね。みやこさんは……その、消えました。そのあたしに吸われちゃったみたいに……心が弱い人だったみたいで……みやこさんの記憶とか、特徴とかは一部受け継いでるみたいです……その多分、身体がムチムチしちゃったのもそのせいなんです」


「消えた? 取り込まれたってこと? ってことは、ある意味死んだってことか?」


「えぇ!? あたし、みやこさんを殺しちゃったんですか!? そ、そんなぁ……ど、どどど、どうしよう!」


「いや、ホイップさ、ホイップちゃんのせいじゃないよ。そもそもこうなった原因だってよく分からないんだしさ。そうか、でも消えたのか、俺は消えてないな……どっちも。共存してるっていうかさ、5対5みたいな感じ。というか、元から根っこが似てたから、お互いに特に違和感ないっていうか……まぁ、リアルの俺はこいつ、シャヒルみたいにハードモードじゃなかったけど……」


「なるほど、人によって色々違いがありそうですね。その、みやこさんはどうやらメンヘラ? っていう種族だったみたいで、ロンプラでずっとボイスチャット? ばかりしてて、男に貢がせてたみたいです。人妻で、ムチムチしてて、ネット? で出会った男の人を喰いまくってた……ん? 食う? 食うってなんだろう……え!? えええええええええ!? な、なななななな!? え、嘘でしょ!? そんな、え!? そんなことしてたの!?」


 え? ムチムチなメンヘラビッチ人妻の地雷プレイヤーが、ネットで知り合った男を食い漁ってた……? それが12歳ぐらいの子供と融合しただって? とんでもなさ過ぎるだろ!! どういうことだよ!! 処女のサキュバスみたいな矛盾が発生してないか!?


「まぁ、まぁ、みやこさんのことは考えなくていいから! 君はどうなの? ホイップちゃんはどんな風に生活してたの?」


「はっ!? えと! あたしはただの町娘です! 酒場の娘で、元気が取り柄で、色んな人と話すのが好きで、毎日話しまくってました! だから、ロンプラにはいっぱい知り合いがいて……仲がいい人もいっぱい、いて……う、うう……うわああああん!」


 な、泣いちゃった……まぁでも、身体は大人でも、ホイップちゃんの心は子供なんだ。当然だよな。むしろ今まで、よく我慢してたほうだ……俺が落ち着きを取り戻したから、それで安心したんだろうか?


「ふむ、みやこはメンヘラで、ロンプラでひたすらボイスチャットばかりしてた。んで、ホイップちゃんは明るい町娘のコミュ強者……後ろ向きなメンヘラと前向きな心を持つ町娘、相反する要素がかち合った結果、弱い方のメンヘラの人格が消えたってことか? 待てよ? ボイスチャットってようは会話だろ? みやこがチャットしまくってたから、会話が得意で、人と話しまくるコミュ強として解釈されたってことか?」


「ど、どういうことですか? シャヒルさん!」


「えーと、その俺もよく分かんないけど。プレイヤーのプレイスタイルが、この世界で実際に生きていたキャラクターの人生に影響、過去を与えた? そんな感じに思えたんだ。いや、別にその、確信はないし、確かめる方法も分からないんだけどね? シャヒルはガルオン爺ががっつり人生に関わってたしな。これって多分、俺がガルオン爺に毎日話しかけてたのと関係してると思うんだよな。俺がずっとガルオン爺と関わってたから、ガルオン爺にとっても、俺が重要な存在になってたんじゃないか?」


 分からねぇな。プレイスタイルが解釈されて、プレイヤーキャラに過去と人格が与えられた? じゃあ、俺達がこっちの世界に来て、混ざりあった段階でそういうのが生まれたのか? でも、俺が感じたシャヒルの記憶、感情は……ちゃんとした、重みのあるものだったぞ? 物凄い情報量だったし、瞬間的に作りました! って感じとは違うように思えた。


 分からん、分からんが、リアルとゲームになんか関連性があるとは思う。理屈の上では、プレイスタイルが解釈されて人格と過去がキャラに与えられる、そう考えるとしっくりくるけど、どうにも違和感が拭えない。ま、確かめる手段がない以上、考えすぎても仕方がないな。


「俺とホイップちゃんだけに融合現象が起きた、っていうのは考えづらいな。他のプレイヤーキャラ達もそうだったんじゃないのか?」


「そうだ! あたし、シャヒルさんが寝ている間に、ブロックスの人たちにちょっと聞き込みをしてみたんです! そしたら、やっぱりみんな昨日と違うみたいなんです。融合? 混ざった感じ? みたいで」


「あ、もうそれは確かめたんだ……流石はコミュ強者、俺には真似できないぜ……」


 この子、ホイップちゃんて、ようはずっと喋ってたわけだろ? コミュ力をずっと鍛えてたってことになる。もしかしたら、なんか補正あるんじゃないのか? コミュ力なんてステータス、ロブレにはなかったけど……


「ホイップちゃん、ちょっとステータスを見てもいい?」


「えぇ? 構いませんよ?」


「ありがとう。それじゃあ確認させてもらうね?」


 【アナライズ・トーン】


 風系統の音を使ったステータス看破魔法、発動が早く、広範囲を一度に調べられる。風属性、使用回数制限なし、魔法。


【ミュー・ホイップ:Lv7 12歳】【職業:魔法使い】

・力:10

・素早さ:20

・魔力:30

・器用さ:10

・防御:10

【所持スキル】

・【ファイアトーチ】:炎で周囲を照らす、ぶつけてダメージを与えることも可能。火属性、魔法。使用回数5/5。

・【会話上手S】:コミュニケーション、交渉に補正、話した相手の敵対心を下げることが可能。水属性、特殊。


「あ! あった、特殊スキル……会話上手S、こんなスキルロブレにはなかったよな? やっぱ、ロブレそのものではないっぽいな。というか……魔法と技以外のスキルにも属性表示がある? こんなの初めて見た……会話上手Sは水属性、ねぇ?」


 俺も自分のステータス、スキルを確認する。ん? なんだこのスキル……


・【ガルオンの風】…風属性の経験値が上昇、一日一回傷薬を入手可能。自身が傷薬を使用すると一定時間、風属性強化状態を付与。風属性、光属性、特殊。


「ガルオン爺……そうか、シャヒルの、俺の覚悟が、スキルになったのか。んでやっぱり、特殊系スキルにも属性の表示がある。しかも、二属性……光と風か。ロブレとは似て非なる世界だとすれば、色々と注意深く見ていかないとな。何が大事でそうでないか、全くの未知数だ。そうだ、ホイップちゃん、ホイップちゃんはこれからどうするつもり?」


「え? あたしですかぁ? えーっと家には帰れないですし……家……お父さん、お母さん……あ、ああ……! あ……そっか……町のみんなが死んじゃったなら……お父さんとお母さんも……」


 ホイップちゃん……こんなの、12歳の女の子にはキツすぎるよな。大人だってこんなの耐え難いはずだ……


「……あいつが、砦喰らいが殺したんだ。みんなも、お父さんもお母さんも……許せない……シャヒルさん、あたし、砦喰らいを、殺したいです。あいつに、死んでほしいです。どうしたら殺せますか? あたし、戦いのこと全然分からなくて……」


 ホイップちゃんが俺の顔を見る。真剣な顔つきで、俺を見た。目はしっかりとしていて、意思のある目だ。自暴自棄って感じはしない……だけど、12の子供がこんなことを言い出す……この世界は、怖いところだな。


「俺もあいつには手も足も出なかった。だから倒すなら、強い人を頼る、つまり雇って倒してもらう。もしくは、自分を鍛えて、装備を整えて、準備して、自分で倒す。どちらを選ぶにせよ、お金がいる。稼ぐ手段がね」


「お金ですか……」


「まぁ聞きたいのは多分こんな話しじゃないよね。当たり前のことだし……俺は、自分を鍛えようと思ってる。強くなって、砦喰らいの鬼蛙を倒そうと思ってる。無理はしない、だけどその代わり、確実にあいつを倒そうと思ってる」


「シャヒルさんは、人を雇う気はないってことですか?」


「うん、というか……あいつを狩りたいやつなんていないだろうからね。元々倒しても旨味がないモンスターで人気がないから……旨味がないのに、やたら強くなったあいつを、倒そうとするやつは中々いないと思う。この世界で混ざって、死んだら本当に終わってしまうかもしれないのに、戦うやつがいたとすれば、その人は超のつくお人好しか、戦わなきゃいけない理由を持ってる人だ」


「あたしも、シャヒルさんも、その戦わなきゃいけない理由を持ってる人です。じゃあ、あたしもシャヒルと一緒に自分を鍛えて強くなります! それで! ついでに超のつくお人好しの人も探して、砦喰らいを絶対に倒すんです!」


 超のつくお人好しも探す……か、そこは勘定に入れてなかったな。でも、そうだな。本当のベスト、最大限に勝利を目指すなら、本気でやるなら、それは必要なことだな。俺は本気で生きようと決めたんだ。だったらやらない手はないんだ。


「うん! ホイップちゃん、これからよろしく、砦喰らいを、絶対に倒そう!」


 俺とホイップちゃんは握手を交わし、仲間となった。


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