第17話 気まぐれ
「珀さん、ここにいたんだ」
以前、お世話になったキャンプ場。コテージ前。
珀さんは、ハンモックに揺られながらゲームに興じていた。
「んにゃ。ボクを見つけるなんてやるじゃん、明爽くん」
「自分を万能とばかり嘯く方が教えてくれてね」
いつも通り、HUKAN先生は得意げでした。
今日はコンカツイベントの準備で忙しいらしい。常々、真面目に働いて。
「あのせんせーは愉快だぜ。それで、何か用かい?」
「食堂に来なかったでしょ。ちゃんと、ご飯食べたかなって」
僕は、おにぎりとお茶を持ってきていた。
「手間をかけたね。でも、心配いらないよん」
身体の向きを変えて、ゴソゴソと何かに手を伸ばすや。
「エネルギーは、バッチリ補給済み。ハチミツ、マスカット、チョコレート。今朝のメニューはこの三つになります」
「ゼリー飲料?」
「そ。ボク、食事にあまりこだわりないからさ。手軽さ、優先だよん」
「確かに手軽だけど、食堂使った方が良いって。朝はビュッフェで、ただ選ぶだけだよ」
税金ジャブジャブ、コンカツ高校。
寮生活の費用を含めても、私立の学費より安いのである。
食べまくって元を取ろうと、バイキングにおける庶民脳でつい考えちゃう。
しかし、珀さんは意外にも困ったような顔を覗かせる。
「明爽くん、ボクはみんなと一緒が苦手なんだ」
微笑を携え、どこか遠くを眺めた珀さん。
「みんなとご飯を食べるって、性に合わなくてさ。なんか、ムズムズするし居心地が悪い。実家にいた頃も基本、一人で食べてたぜ。まあ、両親が共働きで時間が合わなかったのが主な理由だよん」
「そう、なんだ。嫌なら無理強いはしないけど、時間をずらせばどう?」
「検討しまーす」
検討しないらしい。
ふと、察知。
「あれ、BBQとタコパは参加したよね? めちゃくちゃお腹空いてたの?」
僕は、首を傾げるばかり。
「おいおい、何を不思議がってるんだい? そんなの、決まってるじゃないか」
珀さんは、ゲームから目を離すや僕をじっと見つめた。
「君がいたからだぜ」
「僕?」
「そっ。明爽くんが、やけに他人へ配慮する奴だったからね。珍しく、協力してやろうって気が起きたよん。流石、かの万能AIが選びしパートナーってところかな」
ニヤニヤと笑った、珀さん。
本心なのか、おだてているだけか。
「さあ、どっちだろうねぇ~。ボク、実は気分屋さぁ~」
「うん、知ってるよ」
そして、即答である。
「やるじゃん。ま、そういうことだから、深入りは遠慮してくれたまえ」
「いやいや、気にするよ。一応、コンカツのパートナーだからね」
「コンカツかー……どうしようかな……」
珀さんは笑顔に影を差し、徐に小さなため息をこぼした。
「気になることでも?」
「何でもないよん。そういえば、君、パートナー三人は大変って嘆いてるみたいじゃん」
「ま、まあ。それは、僕の実力不足というか……甲斐性がないと言いますか……」
上司に言い訳する平社員の様相を呈した。恐縮です。
「案外、その悩みが解決する方法がすぐに転がって来るかもね」
「どゆこと?」
「深い意味はないよん」
思わせぶりは、珀さんの得意技。
この時、僕はその意味を深く考えなかった。
「じゃあ、部屋に戻るとしようか。澪ちゃんの小言が恋しいぜ」
珀さんがハンモックを降りた。う~んと身体を伸ばす。
「明爽くん、部屋まで競争だ。負けた方が、何でも言うことを聞くはどうだい?」
「え、何でも!?」
ん、何でもって言ったよね? のやつ!
「アハハハ。棒立ちの練習かい? もう勝負は始まってるぜ」
悶々とインスピレーションを掻き立てられていると、珀さんは走り出していた。
「あっ、せこ!」
気まぐれのネコを追いかけるように、僕は氷山泊を目指した。
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