第8話 捜索

 珀さんと五十嵐さんは、どこへ行ってしまったのか?

 知り合って日が浅く、行動パターンはまるで読めない。

 イメージで推測すると、珀さんはゲームショップ。五十嵐さんは……道場?


 ショッピングモールに道場が開かれているか甚だ疑問だ。パンフレットによれば、 ボルダリングジムは営業中。そびえ立つ壁は地域一高い。ほんと、険しいね。

 ラインは安定の既読スルー。

 館内放送で呼び出すか? 否、コンカツ的に自力で発見すべきだろう。


「久能くん、難しい顔してます。もっと楽しく過ごしましょう」

「堀田さんと一緒に回れるのは楽しいよ! あの二人はどこかなって」

「う~ん。パートナーが三人だと、苦労は3倍になっちゃいますね。でも、きっと! 先生は、久能くんなら出来ると信じてマッチングしたと思います」

「それはないと断言できる」


 ゼロコンマ一秒の回答だった。

 閑話休題。

 僕たちは、パッと目に付いたアパレル店へ入った。

 店頭にて、ファッションを着飾るマネキンたちが出迎えた。

 流行に敏感な若者に人気らしく、店内は学生やお兄さんお姉さんで賑わっている。


「いらっしゃいませー。本日のアプリ会員お買い得商品は――」


 洋楽のBGMを聞き流しつつ、堀田さんの買い物に付き添う流れに。

 巷では、きれいめカジュアルが熱いらしい。POPにそう書いてある。棚やラックに陳列された商品を、堀田さんの後に続いて眺めていく。


「このシアーワンピ、どうでしょう?」

「良いと思う」


 女子と服を物色するのは妙に照れくさい。周囲の視線が気になり、キョロリズム。

 あっ、不審者じゃないです! スタッフ、怪訝な表情でインカム飛ばさないで!


「こっちのレースビスチェと合わせてみたいです」

「うんうん、僕もそれ思った!」


 図らずも、万能AI味を感じた。


「ニットのロングカーデ……もう少し脚が長ければ」

「素敵、素敵」


 どうも、久能イエスマンです。


「花柄のティアードスカートも気になります!」

「分かるぅ~」


 女子は共感を求める生き物だって、偉い人が言ってた気がする。

 フィッティングルームに品定めしたアイテムを持ち込めば、堀田さんのファッションショーが開催される。


 途端、金髪の美少女に注目が向かないはずもなく、気付けばスタッフや他のお客もカーテンが開く瞬間を待ちわびていた。


「お客様、ぜひこちらの新作をご試着ください!」

「いいや、ガーリースタイルにしなって。ライブ中継、バカ受け間違いなし」

「早く、投げ銭させろ!」

「えっと、あのぅ~。えへ、困っちゃいました」


 堀田さんが苦笑交じりに、僕へ救難信号を送っていた。

 どうしよう。パートナーが意識高いプレッシャーに包囲されている。助けようにも、僕のような意識低い系は弾かれるのがオチ。仕方がない、諦めよう。

 などと、今までの僕なら膝をついていた。


「離れてください! 堀田さんはファッションモデルじゃないです! インフルエンサーでもありません! 勝手に写真撮らないで!」


 リア充グループの末席を担った経験を以って、僕はきらびやかな中心へ滑り込んだ。

 刹那、観衆の不機嫌な態度、露骨な失笑、冷めた視線が突き刺さっていく。


 さりとて、先手は貰った。

出来れば使いたくなかった策だけど、背に腹は代えられない。いざ、ご開帳。

 僕は、例のアプリを起動する。


「えぇ~、久能さん、ワタシを呼び出しちゃうタイプぅ~? 願い事は三つまで受け付けます。まあ、どんな願いも叶えちゃうんですけどね」


 ランプの魔人みたいな格好で出現した、HUKAN先生。いつもより大きめサイズ。


「きゃぁああああっっ。痴漢よぉぉおおおっっ」


 悲鳴が上がった。無理もない。


「何だ、このオッサン!?」

「とんだバケモンじゃねーか!」


 突如、生まれた魑魅魍魎もとい万能AIに、お客は恐れおののくばかり。


「開口一番、酷い言い草じゃなぁ~い。ワタシ、傷ついちゃうなぁ~」


 HUKAN先生の、ジャガイモの皮より薄い笑みが剥がれ落ちていく。


「ワタシの可愛い生徒にちょっかい出しちゃダメじゃなぁ~い。自分フィルター強い人たち、好きじゃないなぁ~。うんうん、一回リセットかけよっか」


 HUKAN先生が両手を合わせた。

 ほぼ同時、店内がパチンッと暗転する。


「え、何?」

「停電か!?」


 不思議なことに、アパレル店だけ照明が絶たれていた。正面の文具店は通常営業中。

 暗闇と騒めきの中、僕はそれでもなお光彩を放つ存在を捉える。


「堀田さん、ここから離れるよ!」

「は、はいっ」


 堀田さんの腕を取り、僕は脱兎のごとく逃げ出した。

 通路へ出て、角を曲がり、階段を上る。

 誰かに追われているわけじゃないけれど、僕たちは息が切れるまで足を止めなかった。

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