032.事件発生

 8月に入ってもう一週間が経過した。勉強、それからアオと遊んでいるせいか、夏休みが一瞬に感じてしまう。


 そういえば、お母さんが仕送りしてくれるって言っていたのになかなか来ないな。もうすぐお盆なのに。


 僕はペンを持ちながら上を見上げていた。不意に窓の方を見る。


 青空を見ながらそんな事を考えていると、またインターホンが鳴った。


 きっと、アオだ。


 僕は立ち上がって玄関のドアを開けた。そこには、いつも通りのアオの姿があった。


「お邪魔しまーす」


 アオはまた家に上がってきた。僕は玄関のドアを閉めて、居間へと向かう。


「まーた勉強してたの?」


 アオは勉強机に置かれていたワークを見ていた。僕は冷蔵庫の取手に手をかける。


「そりゃそうだよ。学生の本業だからね」


「真面目だねー、ユウ君は」


 そして、アオは振り返った。


「まぁ、私といる時くらい息抜きしてよ」


 アオは僕と目を合わせ、優しい目を向けてきた。僕は目を逸らす。


「あ、ありがとう……。なんか飲み物入れるよ」


 僕は冷蔵庫を開けた。僕は顔を奥の方まで入れて何かを探すようにする。本当は熱くなってしまった顔を冷ますためだった。


「じゃあ、これ。今日は不思議な飲み物を買ってきました!」


 僕は1Lのペットボトルを取り出して、アオに見せた。


「なにそれー?」


「これは酢が入っている桃風味の飲み物なんだ」


「酢?それって酸っぱい飲み物だよね?」


 僕は冷蔵庫の扉を閉めて、コップを二つ持った。それを机の上に置く。


「そうそう。酢にはね、内臓脂肪を減らす効果があるらしいんだ。最近、お菓子とかアイスとか、健康的に良くないものばかり食べてるからこういうのを飲んで体をリフレッシュしようと思って」


「そんなに食べてなくない?」


「僕たち運動しないじゃん?だから、いいかなと思って」


「私、毎回めちゃくちゃ泳いできてるんだけど、、」


「あっ、たしかに」


「……ま、まぁいいじゃん。とりあえず、飲んでみようよ、アオ」


 僕はコップに酢の飲み物を注いでいく。黄色いし、ツンと鼻の奥を指すような匂いもしていた。


 ストレートタイプだから薄める必要はないが、それでも酸っぱそうだ。


 僕はアオにコップを渡した。


「……それじゃあ、いくよ!」


 僕たちはタイミングを揃えて一口飲んだ。


 コップを勢いよく机に置く。


 僕たちは口をすぼめ、目を瞑った。肩がプルプルと震えている。


「クゥゥゥゥーーーーー。染みるねー!」


 僕たちは声を合わせた。そして、笑った。


「ユウ君すごい顔だったよ!顔の中央に鼻とか口とか集めていくような!あはは!」


「うるさいっ!」


 酸っぱいけど、おいしい!


 僕はペットボトルを手に取った。文字を目で追う。


「ふーん。本当に効果あるのかもねー。書いているものを見ると、研究成果もあるんだね」


「へー、私、あまり読めていなかったからさ、少し読ましてよ!」


 アオはペットボトルに手を伸ばす。でも、僕はそれを遠ざける。


「ちょっと待ってよ、今僕が読んでるんだから」


「ユウ君、私は文字を読みたいの!あっ、今度は分からない漢字の読み方教えてあげる!」


「アオは僕を舐めすぎ。僕だって文字くらい読めますー」


「私も読みたいんだよ!ちょっと貸して」


 アオはさらに手を伸ばしていき、ペットボトルを取ろうとする。僕はペットボトルを持ち上げてアオに届かないようにする。


「ちょっと、待ってよ。私が読みたいの!」


「僕も!」


 僕たちはペットボトルを奪い合う。その時、僕がバランスを崩してしまった。


「ああっっ!!」


 ガタガタと大きな物音がした。


 そして、静寂に襲われる。


 僕たちは地面に倒れ込んだ。なんとか反応できた僕は手をついて、腕を伸ばしている。


 しかし、僕の目の前にはアオの顔がある。つまり、僕はアオを地面に押し倒したような状態になった。


 近くで見る顔。透き通る肌は太陽の光にキラキラと輝かされている。


 エメラルドグリーンの瞳。


 二人の吐息。息をするたびに胸の辺りが膨らんでいるのが見えた。


 近くで感じる、お互いのぬるい体温。


 ……やばい。どうしよう。心臓の鼓動が速くなる。


 


 その時だった。


 玄関のドアが開いた。居間は短い廊下を通って玄関の正面にある。つまり、すぐ見えるのだ。


 なんで??鍵を閉め忘れてた??


 入ってきたのは2人の女性。大きな箱を持っていたのはなんとお母さんだ。


 驚きが隠せない。お母さんは僕たちの様子を見て、地面に箱を落とした。


 そして、後ろからひょこりと現れたのは、僕の妹だった。妹の顔はさらに驚いているようだった。


「に、兄ぃに……??」

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