026.私が教えてあげる!

 8月が始まった。だめだ、暑すぎる。毎年のように酷暑が続いている。暑さは僕にとっても、世界中の人々にとっても敵だと思う。


 それでも、僕は勉強する。でも安心だ。なぜならば、この家にはエアコンがある。エアコンは本当に神器だ。心置きなく集中して勉学に取り組める。


 夏休みの宿題を終わらせた僕は、自分で買った数学のワークの問題を解いていた。


 うーん。また分からない問題に引っかかった。僕はもう高二の勉強をすすめている。その中で、ベクトルという単元で分からないところが出てしまった。


 頭を抱える。問題文をじっと眺めながら頭の中でどうやって解くかの道筋を考えていく。


 ピンポーン。


 こうでもない、ああでもない。さっきの基本問題から立ち直って考えよう。


 ピンポーン!


 あぁ、途中まではなんとかいけそうだ。


 ピンポンピンポンピンポーン!!!


「開けてよー!!」


 


 ──やばい!集中しすぎてインターホンの音に全く気づかなかった。この声はアオだ。


 僕は急いで立ち上がり、玄関へ向かった。


「はいはいー!今出るから」


 僕はドアを開けた。


「ごめん、ちょっと集中してた」


 ドアの先にはいつものアオがいた。心配そうな顔をしてアオは僕を見た。


「やりすぎはあまりよくないよ?無理しないでね?」


「あぁ、分かってるよ。入って」


「お邪魔しまーす!」


 アオは勢いよく入って来た。


「なんか邪魔してごめんね。勉強中だったのに」


 机の前にアオは座っていた。僕はアオの前にお茶が入ったコップを置いた。


「いいよ。分からない問題を解いててちょうど気晴らしがしたかったんだ」


 僕も自分の目の前にお茶を置いて、椅子に座った。


「難しいの?勉強?」


 アオはお茶を飲んだ。


「まぁねー。僕は一年早い内容を勉強してるからさ」


「ユウ君はなんでそんなに焦ってるの?一年の差が私にはどれほどのものか分かんないけど」


 僕は説明を始める。


「高校にはね、私立と公立の二種類があるんだ」


「あぁ。たしかにそんな言葉載ってたな、辞書に」


私立そこに通っている人たちはもう一年早い内容を学習してるんだ。でも受験となると、その人たちとも戦わないといけない。だから、早い人たちの基準に合わせてるんだ。


 それに、医者になるにはこれくらいしないと」


「そっかー。人間って大変だね。受験っていう争いがあるんだから」


 アオは机に置いたコップを両手で持って、左右に揺らしている。


「まあ、医学を学ぶためだから仕方ないんだけどね」


「ユウ君はさ、なんでそんなに医者になりたいの?」


「憧れ、かな?それに、助けたい人がいるんだよ」


「……そっか」


 アオと僕は一口お茶を飲んだ。しばらくの沈黙が続く。


「……それじゃあ!私が勉強教えてあげる!」


 アオは両手を机について、立ち上がった。僕はその姿を呆然と見る。


「いや、たぶん分からないよ?アオには」


「私を舐めてるね?ユウ君」


 アオは目を細めてニヤリと笑った。


「文字が完璧に読めるようになった私はもう人間界に敵は無いの!この私の実力を篤と見ておきなさい!」


 アオは自分の胸に手をのせて上から見下す。相当自信があるようだ。


「それじゃあ、頼もうかな。アオせんせー」


 僕は試すようにアオに挑発する。


「まっかせなさい!」

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