016.服って選ぶの難しいね

 本屋でワークを買った後、僕たちは服屋へ向かった。人間として生活していくためには、僕の服だとやはり街中は歩きにくい。それに、僕の服をずっと貸すわけにもいかないし、家の中でも人魚の服があった方が衛生的に良い。


「うわーー!」


 人魚はまたも瞳を輝かせていた。


 服屋には色とりどりな服がたくさんあった。マネキンが今トレンドの服をキッパリと着こなしている。キラキラとした店内はオシャレそのものだった。


「とりあえず、何か着たいものとかはあります?」


「ちょっと待ってね。今選ぶから」


 人魚は店内を散策し始めた。気になる服を広げては模様や大きさを確認していく。


「これにするー!」


 人魚は服を抱えながら僕に駆け寄ってきた。


「じゃあ、それ着てみたらどうです?」


「着ていいの?」


「そうですよ。あそこにある試着室で実際に選んだ服を着てみて、気に入ったら買うんです。


 大きさとか、色合いとか、そんなのを見る人もいますね」


「なるほどねー。じゃあ着てくるねー!」


 人魚は服を抱えたまま走って行き、試着室へ入った。


 僕は遅れて人魚を歩いて追っていき、試着室の前で待った。


 カーテンが開いた。


「ジャーン!どうどう??」


 派手なガラのシャツを着て、迷彩の上着を羽織っている。下のパンツは白く、ダボっとしている。


 うーん。可愛いのだが、あまり似合ってはない。高級ブランドのモデルがよく着る奇抜なファッションにちかい。


「なんか、すごく派手ですね」


 僕はさっき人魚が服を漁っていた場所を見た。明らかにメンズの所だ。


 僕は人魚に細い目を向ける。


「……って、それメンズじゃないですか」


「メンズ??……私的にはすごくいいと思ったんだけどなー」


 人魚は着ている服をつまんでいた。それを見て、僕はため息をついた。


「ちょっと待っててください」


 そう言い残して、僕は素早く服を選んだ。早くしないと、いつ人魚の擬態が解除されるか分からない。


「とりあえず、これ着てみてください」


 僕は選んできた服を人魚に渡した。


 人魚はカーテンを再び閉めて、中で着替える。僕は近くの椅子に腰を下ろした。


「ねぇ?これ地味じゃないー?」


 人魚はそう言いながらカーテンを開けて出てきた。


「失礼ですね、どれどれ、どんなかんじになりまし……」


 僕は息を飲んだ。そのあまりの美しさに。


 

 薄い青色のすらっとしたパンツに白が際立つショルダータックノースリーブTシャツ。きれいめカジュアルな服装は彼女の姿を最大限引き立てる。


 夏が涼しく感じるようなそんな服装だ。


「……めっちゃいい感じですね」


「そうなの?人間はこういうのがいいんだねー」


 周りの人の反応がすごい。少しザワザワし始めた。そりゃそうだ、こんなの普通に見たら、モデルみたいだ。


「と、とりあえずそれにしましょう」


「服って選ぶの難しいね。たくさんの種類から組み合わせとか、色合いとか考えなくちゃいけないもん。それが自分に合ってるのかも分からないしね〜」


「だから、僕が選んできます」


 僕は人魚が服を脱いでいる間に何通りかの服を選んで運んだ。


「次これ」


 トレンドカラーを取り入れたスカートに鮮やかなファッション。


「なんかヒラヒラしてるね」


 ⭐︎


「次これ」


 ストリート系のダボっとしたファッション。


「なんか、体が大きく見えるね」


 ⭐︎


「次これ」


 すらっとした体型を生かした、きれいめファッション。


「なんか、、急に痩せたね」


 ───すごい、全部似合ってた。


 調子に乗ってたくさん選んだし、たくさん買ってしまった。


「そんなに買わせちゃって大丈夫?」


「う、うん。大丈夫ですよ。楽しかったし、なんか付き合わせてすみません」


「いやいやー、私の服選ぶのに付き合ってもらったんだから。むしろこっちがすみませんだよ」


 人魚は笑っていた。


 僕たちは両手いっぱいに袋を提げて家に帰っていった。

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