017.また明日
僕たちは家に帰り、荷物を置いた。夏の暑い中、2人で道を歩いたからか、お互い汗が吹き出していた。
「はぁー、やっとついたー」
人魚は玄関に座り込んだ。
ボン!!
大きな音が響いたと同時に、白い煙が周りに立ち込めた。煙が晴れると、人魚の姿は元にもどっていた。
「危なかったですね。もう少し気をつけます」
「いいよいいよ、おかげで擬態になれる時間が長くなったし。多分今回は2時間くらい擬態でいられたんじゃないかな?」
「そのくらいですね、たぶん」
「すごい進歩だよ!これからも頼むね!」
人魚は笑っていた。そして、買ってきたものが入った袋を見る。
「……これから、この服を着ていろんなところへ行ったり、たくさん思い出作ったりするんだねー
なんか、すごく楽しみだ!」
人魚は嬉しそうに笑っていた。その瞳は明るい未来を楽しみにしている幼い子どもと同じようにキラキラとしていた。
「じゃあ私、そろそろ家に帰るね」
「そうですね、もうすぐ夜ですし」
「これだけ持って帰るね」
人魚は1つの買い物袋を漁り始めた。
「これだこれだ」
取り出したのは、買ってきたワークだった。
「一緒に買ってくれてありがと!」
「いえ、大丈夫です」
人魚さんは笑顔だ。そして、再び袋の中にワークをしまい、一つの買い物袋を手に取った。
どうやら、全部は持って帰らないようだ。そりゃそうだ。こんなの全部は運べない。
僕は人魚を背負って家を出た。海に向かって歩いていく。
空はだんだんと紫がかってきていた。空のグラデーションがどこまでも続いていて美しい。
「人魚の家ってどんな感じなんですか?」
「そうだねー、人間の家とそこまで変わらないかな。海の底に大きなシャボン玉があってね、そこで家を建てて暮らしてる」
「そんなんですね。なんでシャボン玉の中なんですか?」
「そりゃ私たち、肺呼吸だもん」
「えっ?!そうなんですか?」
「そうじゃないと、今こうして陸で生活できないでしょ」
「海を泳いで帰るんですよね?じゃあどうやって呼吸を?」
「普通に水面から顔を出してするよ。でも、私たちは一回の呼吸で10分は泳げるから、そんなに問題ではないんだ。しかも、息は一呼吸でするから時間もかからないし、人間にも見つからないんだよね」
「すごいですね」
「それにさ、万が一の時はこうやって手のひらからシャボン玉を作り出すこともできるんだ」
人魚は右手を広げた。そして、透明で大きなシャボン玉が手の平から出てきた。
「こうやってね」
「へー」
僕は人魚をおろした。
海岸についたのだ。漣が静かに揺れていた。海まで、夕日の柔い紫に照らされている。
人魚はさっき出したシャボン玉の中にワークと買い物袋を入れた。
「家に帰ったら、しっかり勉強しておくね。まぁ、話す言語は同じだから文字くらいすぐ覚えられると思うけど」
「そうですね。文字をしっかり覚えてきてください」
人魚は砂浜を這いながら、海水に浸かっていく。腰くらいまで海水に浸かった後、振り返った。
「今日もありがとうね!ユウ君!」
人魚は手を振った。
「大丈夫ですよ。気をつけてー」
僕も手を振った。
「それじゃ、また明日!」
人魚は海へと潜っていった。鱗が太陽の光を反射して輝いていた。
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